東空の暴君


 それは――。
 頽れた赤き塔の上から、を見渡していた。
 その眼は、東京にて『命空骸戯カタルモイ』の第一回戦チュートリアルが終わったことを見。
 諏訪の地にて、大雪なる冬が訪れたことを知り。
 また、多摩の地にて、妄執と迷妄の結実を知る。
 されど、その翼は羽ばたくことなく。
 赤き塔の上にて、唯々、

 どこぞのピエロは、レイヴンズたちに、こう通告した。

 ――バンダースナッチには近寄ってはいけないよ!

 ああ、この、滅びた京にて息をひそめて生きるものよ。
 空を見上げて絶望せよ。
 それは、東京の空を真に支配するものである!
 誰かが言った。あれこそまさに、気まぐれなる神が配した災害也と。
 すなわち、
 その名を、人類はバンダースナッチと呼称する――。

「――」
 七井あむ(r2n000094)が固形食糧を齧りながら、双眼鏡で東京の街並みを見やる。大型展示場要塞から、旧レインボーブリッジを抜けて内陸へ。第四戦区・丸の内と呼ばれたエリアには、東京の顔でもあった電波塔が存在してはずだが、それは此処から見てもわかるほどに、
「いるなぁ」
 と、あむはぼやくように、固形食糧を齧りきった。もむもむと口を動かしながら、へし折れた赤き塔へと視線を向ける。そのなかほどには、まるで鳥の巣のように見える何かがあって、よく見れば、それは人類の建築物などを利用して作り上げられた、まさに巣であることが分かった。
 問題は――その巣の中に、がいたことである。
 例えるならば、ファンタジーにおけるワイヴァーンとも言おうか。巨大な顔面と顎は、それが凶器であるのだと、見るのもすべてに伝えるようであった。

 と、桜叶(r2p008406)――大型展示場要塞の管理人は、言葉をつづけた。
「ずっと、東京の空に居ました。
 我が物顔で、という言葉が、まさにその通りで。
 ……私のように、辻神のようになった木々も、いたんですよ。
 そういうのも、あれは無差別に――」
 あの巣の材料にされたのか、と、あむは思った。そういうことなら、桜叶が無事であったというのも、我々にとっては一種の奇跡とでもいおうか。タラリアなるイレイサーに利用されていることは事実だが、利用価値があるということは、つまりレイヴンズにとっても不可欠な存在であることに間違いない。
「でも、今はあんまり動いてない?」
「本戦が始まったからかもしれません」
「あるいは、あれはだろうね」
 ふむ、とあむは唸った。
「ぼくたちが、仮にここで防戦を選んで縮こまった場合、アイツは飛んできて、ぼくたちを皆殺しにするんだろう。
 だ。まぁ、それはたぶんぼくたちいがいの陣営にもそう。
 ほら、こういうゲイムって、だろう?」
 桜叶は、その言葉に同調こそしなかったものの、あれが急かし役だ、ということは理解していた。我々が、いや、ゲイムというものの積極的進行を促すための理由の一つとして、タラリアはあの怪物を配置したのだろう。
「まさか、あれにデバイスがついてるとは思えない。だから、おそらくの場には現れないだろう。今のところは。
 逆を言えば、ゲイムに忠実ならば、あれはしばらくは、ぼくたちに牙をむかない……もちろん、あいつの足元をうろちょろしていたら、違うだろうけれど。
 あのピエロ……メリィ、とか言う奴が言っていたね。バンダースナッチには近寄ってはいけないよ。なるほど。
 しかし参ったね、あの方面への進行をするならば、大分気をつけないといけない」
「……あちらの方面に向かえば、バンダースナッチに遭遇することになります。
 万全な状態ならともかく、今の戦力の低下した皆さんでは――」
「まぁ、そこは皆の判断なんだけど」
 そう、あむは大型展示場要塞に視線を移した。あの中では、レイヴンズたちが、今まさに自分たちの進むべき道についての討論を行っているはずだ。
「……どう転ぶかな、このゲームってのは」
 それは、神ならぬ身であるあむでは、見通せぬことであったのだろう。結局、現地に向かうレイヴンズたちの手に、全てはかかっているのだと、あむは申し訳なくも、歯がゆい思いを抱くのであった――。




命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール

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