滅びのかたみにて


 御津那海町――それは旧瑞浪市のに中津川市の津と恵那市の那、琵琶湾の海を重ねた町。
 瑠璃色硝子の空の下、神様の命を糧に誰かにとっての平和を、平穏を繰り返す町。
 穏やかに煌めく瑠璃色の天蓋が火を交えたように赤らんだ時分、蒼生(r2p008628)は黙するままに言葉を待っていた。
「――神様が仰ったのじゃ。と。マシロ市の――K.Y.R.I.E.の者達がループを排除し続けたせいじゃろう」
 可愛らしいリボンのあしらった純白の娘はその愛らしい外見からすると随分と大人びた声でそう告げた。
 アマニタ(r2p006971)と、そう名乗る娘である。それは此の地で霊峰を信仰し管理する巫女の名前と等しいものだ。
 それを名乗るこの娘はスクナと呼ばれる神のを伝えるアドバイザーとしてこの地に訪れた。
 然して天使の襲撃もなく、合っても撃退することの出来ていたこの町に訪れたスクナとアマニタは今やこの町の支配者と言えるだろう。
「そうか、姫君が……」
 かんばせを隠した下で蒼生はそう呟いた。二つに別たれた草薙剣に何かの変化があったのだろう。
 繰り返しは彼女がスクナの手で倒され神格を剥がれる事によって成立している。
 あの神の手によってこの地が滅びるのだと知ってから、それでも抗うことでこの町の寿命が縮まるならばと受け入れてきた。
 それが姫君――草薙剣の片割れに何らかの変化が齎されたならば、状況は動かざるを得なくなるだろう。
「そのような事実を伝えに来たわけではないのでしょう?」
 蒼生と同じようにかんばせを隠した女――紅巴(r2p008627)がそう淡々としてアマニタへと問うた。
 真っすぐにアマニタを見据える姉の姿を横目に見て、蒼生は視線をアマニタへ戻そう。
「当然じゃろう。スクナ様はと仰せじゃ。勾玉を救い、草薙剣に希望を持たせた者達に少しばかりお灸をすえてやらるのじゃ、とな」
「もうすぐ現世と常世のあわいの時間だ。動くならそのころ合いだろ?」
 金毛の尻尾を揺らした武智那(r2p009185)が静かな眼差しを向けてそう言った。
 神秘を纏う若い青年の眼差しには蒼生と似た諦観と戦意が宿るだろう。
「……アマニタ」
 真っすぐにアマニタの姿を見据え、尊大さの抜けぬ声で珂良(r2p009048)が言う。
「そのK.Y.R.I.E.、という連中は繰り返しの日々を壊そうというのか?」
「そうじゃ。繰り返しの日々を壊して、スクナ様に抗わんとしておるのじゃ」
 コクリと頷きそう言ったアマニタの答えを聞いた珂良が蒼生を見つめて「当主」と短くそう言葉を作った。
「われはかか様と贈る在り来たりの日常しか要らぬ。そやつらが繰り返しの日々を壊そうと言うのなら、われはそれを守りたい」
 真っすぐに、そう告げた珂良の言葉を蒼生は真っすぐに受け止めようか。
 尊大なるその少年を幼少より励まして、貢献してきた者として彼の願いを聞き入れたいとは思う。
「此の地の神がそれを望むならば……そうするしかないだろう」
 蒼生は目を伏せてそう言うと、小さく息を吐いた。
「主殿……」
 己の事をで呼ぶ姉の声に、そっと瞼を上げた。
 此の地にやってきた神が――御津那海がそうせよとそう求めるのならば、己はその様にしよう。
 それが厭離衆の頭目として今代を務める者の役目であるのだから。
「我ら厭離衆、神の予言が如く動くまで」
 ちらりと姉を一瞥してから蒼生はそうアマニタへと告げようか。
「ふふふ。それでよいのじゃ。神様も喜ばれよう! 神様へはわらわが伝えておく」
 楽しそうに笑って、くるくると傘を振り回して彼女は去って行く。
 その娘の姿がまるで子供のように見えて、その姿が消える頃に蒼生は小さく息を吐いた。
「ちゃちゃまる様か……」
 ちゃちゃまると呼ばれている使も、テオフィロという名の組織も、彼女が齎した外部の戦力だ。
 K.Y.R.I.E.と呼ばれる組織がどれほどかは知らないが、彼らは滅びゆくこの地に如何なる変化をもたらしたというのだろう。
「……スクナ様が動かれるならば、我らも動かねばならないだろう。厭離衆の者達より情報を集め、その時を待つとしよう」
「はっ」
 そう続けた蒼生に紅巴が応じて、他の2人も頷いた。








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