ひとひらの行方


「ドロス市、かあ」
 ぽつりと呟いた逢坂 純(r2n000078)は入院中の石動 結斗(r2n000024)の病室にやって来ていた。
 病室に備え付けられている椅子にちょこりと腰かけて足をぶらぶらと動かしている純を結斗は見遣ってから肩を竦める。
「……相模原の事? 調査に言っているんだよね」
「……ん、そう。……相模原、影臣と絢たちが、神秘対策用の船を用意して、ね。
 オフィーリアって名前の、を、乗って、ゆらゆら……それで青の洞窟に辿り着いた、らしいんだ」
「魔女コトネと、ロウで連携を始めた、って聞いたよ。花蝕障のことも」
 結斗が頷けば純はぎゅっと自身の服の裾を握り締めてから「ドロス市って、なにが、あるのかなあ」と呟いた。
 花蝕みの呪いに支配されているという相模原。それは花蝕障フロロパティアとK.Y.R.I.E.が名付けた事象と同じだ。
 この花蝕障フロロパティアは触れたものを眠りに誘うのだそうだ。そうして、人は夢を見る。それは深層意識に存在していたや、未来への展望も含む、夢だ。夢と言う言葉には様々なものがあるだろうが眠りについて浅く眺める仮想世界の事だって含まれている。
「……花蝕障フロロパティアは、人を眠りに誘うんだって」
「眠たくなる、って言ってたね」
「ん。それで、浮かび上がった夢を、ラウェルナという花が奪い取って、夢を見せるんだって」
「……それで、青の洞窟に行った能力者みんなが夢を見ているんだね。……花蝕障から何かの夢を奪うから、抗体の香りがにじみ出るってこと?」
 結斗の問いかけに純は頷いた。そう聞けば、何か手伝いだってしたくはなるが、満足に体はまだ動かない。
 少しは時間の経過でや治療が進んだのかもしれないが、それでも結斗が戦場に飛び出せるほどではなかったか。
「……花蝕障フロロパティアが、相模原の魔女の都市、ドロス市を包む夢の結界になっているんだって。
 それで、ね。それを奪い取るラウェルナの香りで霧を晴らして、そこにいくっていうんだ」
「エーデレッセンの様に、心に影響はないんだよね? 何かを喪う事も、それで苦しむ事も」
「……うん、でも、心の奥底が覗けてしまうかも、って、こわい、ね」
 結斗はその言葉に唇を噛んだ。そうだ、そうだろう。夢の中に入り込み、彩心石を使って――もともと、それは誰かの感情をいれる器だった。夢に纏わりついた香だって集められる――香りを採取するならば、そのの世界に入り込まなくてはならない。
 それは、意図せぬ夢になるかもしれない。誰かの心の奥底を、そうやって覗くようなものになる可能性だって。
「心の、奥底」
 唇に乗せてから結斗は俯いた。
 自分の頭の中に過ったのは東京の事だっただろう。
 ――東京、ウィリアム、ソフィーリア。恐ろしい程に、何もかもがおかしくなってしまったような、あの場所。
「……何を思って、たんだろう」
 東京カタルモイの情報は追い続けている。第五戦区の事も耳にしている。
 現地から離れているからこそ、落ち着いて情報を精査する事も出来ているだろう。
 地下通路にさまざまな人間勢力の姿が見えるが、最近、動きが活発になってきたのは第九戦区を拠点とする「プシュケー」だ。
 彼等は第六戦区モイッセオでの報酬ボーナスを手に、第七戦区の決戦レイドバトルに臨もうと準備をしているらしい。
 今現状で第六戦区の優勝候補であるプシュケーの動きにも旧展示場要塞は目を光らせ始めたそうだ。
 また、彼らの動きが活発になれば結斗のが姿を隠してしまうのだろうか。
(……ウィリアム……)
 俯いてシーツを握り締めた結斗を心配する様に純はそっと手を伸ばした。
「だいじょう、ぶ?」
「大丈夫。……何も、恐ろしい事が起こらなければ、いいね」
 そう囁いた青年をじっと見つめてから純は「そう、だね」と呟いた。

 夢を見る――誰かの心を映したような優しい夢を、恐ろしい夢を、へんてこな夢を見る。
 その中を巡る仲間たちの尽力を耳にしながら、東の都に思いを馳せる。
 あの場所で一番に夢を見ているのは、誰なのだろう。
 結斗はお見舞いだと渡された花をそっと手にしてから花弁を一枚千切った。はらりと落ちていくそれが知りたかった感情を教えてくれたら良かったにと、そう思わずにはいられなかった。











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