メッセンジャー


 かつん、と地下空洞たるその場所に足音が響いた。
 ゆっくりと振り返った 大原 努(r2p008440)はその唇に笑みを浮かべてから「噂はかねがね」とそう言った。
「実はね、あんまり知らないんだよね。でも、どっちかってと僕達は似ている生物だと思ってるか悪感情はない。
 どのみち、キラキラしてるのも楽しい思い出も早々簡単に続くもんじゃないんだからさ?
 夢見がちな生き物ばっかりが集って夢見て歌って、楽しそうだなって褒め囃してやれるのが当たり前の世界じゃない」
 努は影を眺めてから笑う。どうせ、最初からつもりではあった。少しばかり命をbetするのが遅れただけ。
「K.Y.R.I.E.より先に僕達を見つけ出したかったのはどうしてかだけ聞いても?
 ああ、いや、ほら、そもそもさ? 僕は君をちゃんと知らないんだから知るべきだろ、なあ」
 努がそっと目を細め、明るく笑うのだ。子供が珍しい小石を見つけた様なそんな妙な微笑みを浮かべて。

「――軍場いくさば 冬青そよご

 努の前には、真っ白な髪をした子供が立っていた。その立ち姿に、その振る舞いに、甘良 黄昏(r2p008537)が一瞬だけダーリンを重ねてしまったのは仕方がない事だ。
 冬青とはよく似ている。それこそ、幼馴染であった事が嘘ではないと言わんばかりに仕草や話口調に似通った部分があった。
「……久しぶりに顔を見た気がするわ、冬青。探してくれていたみたいだけれどアタシ達に何か用事でもあった?
 それとも、咲願が何をするのかに見当がついてやめろとでも言いに来たのかしら。その権利、あなたにある?」
「久しぶり、黄昏。相変わらずじゃん」
「その態度、アタシたちが何するかは分かってるんでしょ」
 冬青がじっとその場のプシュケーの達を見た。知っている顔も、知らないかも、全てが綯交ぜになった離反者達だ。
 カタルモイッセオや第11戦区にてある程度のボーナスを稼ぎ始めたプシュケーもそろそろをK.Y.R.I.E.に行わねばならない時期が近づいて来た。
 致し方がない話だ。じわじわとエリアが制限された以上はプシュケーが戦功点を稼げる場所が少なくなっていく。
 それに、最終戦について情報が出るようになった頃合いだ。冬青を見つめる黄昏は、目の前の旧友が何処まで気が付いているのだろうかと考えた。
「プシュケーK.Y.R.I.E.と敵対するって事は分かってるよ。でも、それは咲願らしくない」
「……どうして、そう思ったんだい」
  本庄 宗助(r2p008410) は少しだけ、引き攣った声を漏らした。
 悟られるな、悟られるな、悟られるな。しっかりとやれ――
 K.Y.R.I.E.は無力化した敵かなめの事も保護をしてくれていた。ならば、戦意喪失した仲間たちだって保護してくれる筈。
 宗助の唇が震える。目的はある。プシュケー本隊にこれ以上はK.Y.R.I.E.の肩入れをさせてはならない。プシュケーの目標は危険をも伴うものだ。総倒れの可能性だって、ある。
 だって――そうだ。あの人達に、K.Y.R.I.E.というを巻き込みたくはなかった。
「願われてそうあるべき……咲願がそんな生易しい事を望むかよ。
 あいつは、違う。望まれるなら悪役にだってなって見せる。それに、宗ちゃん? おまえが、咲願を見捨てる訳ゃない」
「買い被りすぎだよ、冬青」
 悟られるな、悟られるな、悟られるな。ならばこういうとき、笑った筈だ。
「それにさ、K.Y.R.I.E.に勝たなくっちゃいけないんだぜ」
「……最終戦、プシュケーとティティフィティアがそれぞれワンツーフィニッシュできるかどうかの話をしている?」
 ぴくりと肩を動かしたのは静謐なる雨の人(r2p008574) であったか。
 少年の持ち得る共鳴ネクストは僅かな範囲でのみ利用できる念話テレパスそのものだ。声を出さぬまま、静謐なる雨の人レインはじっと冬青を見た。
「疑うなって。まあ……2位までじゃ、このままならぼくらとプシュケーも殺しあいだ。実際、K.Y.R.I.E.なんで図体のデカい化物殺し尽くせるわきゃない。
 だからさ、……まあ、君らには言っておこうかな。3位までに枠を広げてくれって、ゲイムマスターに直談判するつもり」
「……それは、できるの?」
 確かめるように、苦し気に眩 目目(r2p008446)はそう言った。唇からこぼれ出た泡のような響き。
 見慣れてしまったうたかたの友人――冬青に目目は「教えて、それができるというの、波花」と、麗しき波に冬青を例えて呼び掛けた。
「11区、見に行った仲間が言ってた。塩の天使がかなり暴れてる。
 ……ひょっとすれば、ひょっとするぜ。カタルモイには人が集まりすぎた。のかもしれない」
「コスモス、の……」
 目目が息を呑みじっと冬青を見た。だから、目の前に来た? だから、K.Y.R.I.E.に命乞いをすることを止めに来た?
 ――この人は、それがと思っているからだ。
「コスモスの制御が叶わなくなりゃ、タラリアだって困るんだ。
 だからね、ぼくはまずはあいつに命乞いをして見せるつもりなんだ。
 その上で、3位まで枠を広げるように交渉をする。
 コスモスの制御要員を増やせばどうかってさ。その為のネタ集めしてるトコ」
 どうやって、と静謐なる雨の人レインは問わなかった。ティティフィティアは奇妙な場所に繋がりがある。
 冬青はその中でも特に顔が広い。活動的な派閥である。それは、疑いようのない事実だ。
「……まあ、宗ちゃんやメメのことを止めたいわけじゃないぜ。
 プシュケーがK.Y.R.I.E.と敵対するつもりなのに、こんな場所で少数で何してるのって聞くこともしない」
「待って、冬青。古い友人として、聞かせてほしい。……うまくいく?」
「きっとね。まあうまくやろうよ。ぼくは、うまくやる。
 ――安心してよ、。気持ちは一緒だよ。手伝って、って言ってそうしてくれるなら嬉しいけどそういうもんでもないだろう。
 ……だから、良いぜ。見てなよ。この役目はぼくのもんだ。
 ぼくは小さい頃から咲願の好きなものをつまみ食いするのが得意だったんだぜ。ふふ、なーんてさ」
 冬青と、宗助が呼び掛けたが応える事なく背を向ける。宗助は追いかける事が出来なかった。
「あ」と呟いてから後方に一歩下がった。その視線の先に大柄で、色黒の天使の姿が見えたからだ
 ギラリと光を帯びるラメが麗しいアイシャドウ。唇にしっかりと引かれたリップグロスがやけに印象的な上裸の天使だ。

「――次はアタシとお話しまショ。ね、そーよごん?」


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