転ばぬ先の、


 旧展示場要塞――その中でも比較的崩落が少なく利用しやすい会議室に彼等はいた。
 カタルモイから仮想死亡ルールの撤廃署名願いにやってきたティティフィティアの軍場 冬青(r2n000257)は「お土産がある」と嘉神 ハク(r2n000008)にだけ聞こえるように耳打ちをした。
 それは冬青にとっての同行者であるイサーク・サワ(r2n000206)には聞こえぬ様にと言う配慮であったのだろうか。
 そのは揃ってこの会議室の中にいる。
 少々訝し気な瞳を向ける桜叶(r2p008406)の隣では現状を面白がっているように目を細めた七井 あむ(r2n000094)までもがいる。
「……あまり、歓迎されているようには思えないかな」
 そうぽつねんと呟いた眩 目目(r2p008446)にあむは「まあ、当然でしょ」とそう言った。
「さっき、第七戦区の決戦レイドバトルが開催される宣言があった。
 当然のようにプシュケーもティティフィティアも出てくるワケ。
 現実的に考えりゃ、そよごんはこっちに譲る気はナイから誰が飼っても恨みっこなしで来る。そしたら? プシュケーだってそでしょ?」
「そうだね。それは否定できない。
 プシュケーは完全にK.Y.R.I.E.と敵対する。それはプシュケーのリーダーである栞 咲願から、皆さんへの宣戦布告だ」
 僅かな緊張が本庄 宗助(r2p008410)の背には流れ落ちていった。
 甘やかで可愛らしい印象をうけるあむだが、外見程に甘くはない。大人の嫌らしさも憎らしさもすべてを兼ね揃えている。
 値踏みするような視線を向けるあむから目目はそっと視線を逸らした。居心地が悪い。視線の先に立った桜叶さえもどこか覚悟を決めたような顔をしている。
「プシュケーはK.Y.R.I.E.に勝利を譲らない。それだけはまず、理解してくれる?」
 甘良 黄昏(r2p008537)の問いかけにあむは「オーケー、で?」と問い掛けた。他に何か、言いたいことがあるのだろうと言いたげな視線を向けるあむに黄昏は「それから」と言い淀んだ。
「大前提の話をしても? K.Y.R.I.E.は怪我をしたプシュケーの構成員何かを引き受けるお人よしに思える。
 もしもだけれど、僕らが降伏したら君達は受け入れるつもりかい? 仲間を殺したヤツであってもその時は仕方ないねって受け入れてくれるって事だろうか」
 淡々と問い掛ける大原 努(r2p008440)に桜叶は「私は、正直受け入れがたいですよ」とそう言った。
「ティティフィティアもそうですし、プシュケーもそうです。私にとっては……この旧展示場要塞を護る管理人としては……皆さんは敵です。
 何もかもを捨て去って放棄したからこれから仲良くしましょうとおいそれとは受け入れられません。それは、プシュケーの皆さんもそうなのではないでしょうか」
「そういうやつも、いるね」
 目目は掠れたようにそう言った。
 プシュケーは仲間意識が強い。元々顔見知りであったティティフィティアと遣り合っているK.Y.R.I.E.に対して恐怖を向ける者が居るのも確かだ。静謐なる雨の人(r2p008574)はじっと桜叶やあむを見つめていた。それから、ゆっくりと視線をその背後に立っているハクへと向ける。
「――どう思いますか」
 念話テレパスを通じて問い掛ける静謐なる雨の人レインに対し、ハクは「宣戦布告は受け取りました」と静かに告げた。
「第七戦区、プシュケーとは正面衝突になるでしょう。
 その場合、K.Y.R.I.E.プシュケーに容赦をしない。その代わり、プシュケーK.Y.R.I.E.に容赦はしない――ですね?」
 宗助はぎこちなく頷く。
 此れだけで終わりではない。宗助はK.Y.R.I.E.に対して悪感情を抱いているわけではない。
 無力化した敵かなめを保護してくれている事の確認をしなくては、非戦闘員や戦意喪失した仲間の保護もきっとしてくれる。
 組織丸ごとという訳ではなく、独りずつの在り方をしっかりと見てくれる組織であるとさえ認識していた。
「少し、話をできませんか」
 宗助はハクをゆっくりと見つめる。
「できれば、二人で」
「だめ」
 あむはそれを遮り眉を吊り上げる。
「残念だけど、ハクちは統一デバイス持ち。どうして? ぼくがいたら不都合ある?」
「……そうですね。そこまで貴方を信頼できない。いいですか」
 宗助は深く息を吐き出してから「お願いしたいことがある」とそう言った。
「……ボクは本庄 宗助。プシュケーの創設時から携わっていた兄が居た。
 その兄も、カタルモイ開始時にタラリアがやって来た時に見せしめで死んでしまった――けれどね。
 ……そもそも、ボクはタラリアが嫌いだ。だからってわけじゃない。それ以上にボクにとってはプシュケーが、いや、咲願達が大事なんだ」
「……はい」
「ボクはK.Y.R.I.E.に非戦闘員の引き続きの保護と配慮を願いたい。
 その代わり、ボクはボクをbetする。この場のみんなもそうだ。
 ボクらにできるのは喧嘩だけ。……30年、この東京でボクはキミたちの武器になるつもり」
「宗助さん。それは、あなたがプシュケーに武器を向けるという事だ」
「肩を並べて同じ方向を向いていないと保てやしない……そこまで脆いもののつもりはないよ。ボクと彼らの間にあるものはね。
 だから、ボクはを支えるためにK.Y.R.I.E.に我が身を差し出したいんだ」
 淡々と告げた宗助をハクは見た。それから深く息を吐く。
 語られずとも、なんとなく察する事が出来よう。
 三種の神器の一つであり、コスモスの入れ物である八尺瓊勾玉とて、この場所へと運ばれてくる。
 そして、そのタイミングにプシュケーを離反し、K.Y.R.I.E.に対してがやってきたのだ。
「……ごめん、ぼくそんな優しくないから聞くけど。実際の狙いは?」
「……
「ふうん、そりゃ難しい。ぼくらだってそれが出来ればと思う。けど、ぼくはタラリアに届くかは分からんなって感想がある。
 理由は簡単だぜ、ね。ハクち。は障害だ。特に、暴走しかかってるってんなら……タラリアを取り逃す可能性だって十二分にある」
 あむがそう告げれば宗助は「それでもいい」とそう言った。
「タラリアに一矢報いればそれでいい。ボクはそう思っていた。けれど、それに全てを巻き込んでほしくはない。
 ボクはプシュケーとK.Y.R.I.E.がどちらもこれ以上出血しないために、よりよい未来に向かってほしいと思う。
 ……と判断したならば餌にしてほしい。覚悟はできているから」
 静かに告げる宗助にハクは少しばかり困った顔をしてから「そこまで覚悟をしているというなら」とそう囁いた。
「ああ、その時に向けるナイフは、ちゃんと握っているつもりだ」
 宗助は震えるように吐き出した。ただ、そう告げてから――「咲願にだって、冬青にだって、ボクは負けちゃ駄目なんだ」と縋るように、そう呟いて。
「ですから、今、貴方は僕達に誠意を示すべく仲間の誰かを殺せますか」
 ハクは懐から銃を取り出してから静かにそう言った。引き攣った表情を浮かべた宗助を黄昏が見る。
「貴方方は、僕達に幻想を見ている。僕達は然程に優しくはない。
 ――目的の為ならば、手段を選んではならない。それが、30の在り方だ。
 ……ちゃんと心に刻んでください。僕らは、けっして聖人君子ではない。貴方方より
 ハクは己の銃を懐に仕舞い込んでから目を伏せった。
「一先ずは……信頼しましょう。あなたはK.Y.R.I.E.の一員としてこれから動いてほしい。
 もう、目前に第七戦区――プシュケーやティティフィティアとの戦闘が待っています」


※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化

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