エスケープ・ミュージアム
「やっぱり、いつの間にか敗者復活戦始まってる? やるって言ってたけどいつから始まるのかとかは聞いてなかったな」
黄金の瞳を宿した双眸をゆったりと細めて笑った天使の少年は眼下の博物館を見下ろして黄金の瞳を細めた。
あの中に納められている幾つもの思い出が飾られているそうだ。それは誰かの戦っていた軌跡であり、落とし物や倒されてきた者達の模型等々であるという。
それらの中から遺品を見つけ出し回収すればゲームのクリア時に手にした遺品が戦功点と変わるという。
あまりにも詰まらないそんなお遊びはゲイムをクリアするだけならば簡単だ。
そんな簡単な方法で戦功点を稼ぐことでリタイアできる程度に貯まる者達だっているはずだ。 実際、リタイアを目指して既に幾つかの派閥や個人参加者達が遺品集めに勤しんでいるのも見ていた。
「やあ、シュウリ。まだカタルモイに付き合ってくれているみたいだね」
ぴょこんと姿を見せた兎のぬいぐるみがぶんぶんとアピールするように愛らしくステッキを振る。
「ベルベル……いや、オマエ、もしかしてタラリア?」
「わおっ、よく分かったね。君が覚えてくれるなんて。嬉しいね、鞍替えの検討もしてくれたかな?」
表情を収めたシュウリはベルベルを見つめて首を傾げればベルベルからはそんな声が聞こえてきた。
「その話し方で分かんないはずないだろ……それに鞍替えもボクが応じないって分かって言ってるでしょ。
第九熾天使様は素敵な人なんだろうけど、もう二度とそーいうのには入らないよ」
「ふむ、残念だ。君には見込みがあると思ったのだけどね」
ぷいっと顔をベルベルから背けてそう告げたシュウリにタラリアも気にした様子を見せずにそう答える。
「……で? そんな雑談の為にわざわざベルベルの一体を寄越したわけじゃないだろ」
シュウリは顔をそむけたまま、ちらりとタラリアの方を見て、そう言った。
「分かっているだろうけど、君達には特別に私から直接伝えておこうと思ってね」
「……何のことさ?」
「リタイアの条件と決勝戦のこと!」
「まぁ、言われなくてもって感じだし、オレが思ってることから言っていい? 分かってることを説明されるのも時間の無駄だしさ」
「構わないとも」
まるで兄が小生意気な男の推論を喜んで聞くような態度に少しだけムカついたが、シュウリは馬鹿にはなれない。
どれだけムカついても流石に座天使を相手に喧嘩を売れるような立場じゃない。そう言う立ち位置が一番嫌いだったけれど、今は関係ない事だ。
「リタイアには一定の戦功点が必要、しかも結構ハードル高めの戦功点が。
コスモスの恩恵が得られるのは一位か二位、ここはもしかすると少しだけ変わるかも、なんだろ。
まぁ、それにしたってきっと、そんなに大きな枠にはなり得ない。なら、そのハードル高めの戦功点を取り返せないチームはどうなるのか。
簡単だ、当然だけど決勝戦に強制参加させられるってだけ。狭くて狭くて堪らないたった幾つかの一枠。
K.Y.R.I.E.にプシュケーとかティティとか、池袋の魔術師たちは知らないけど、そういう優勝候補でなければ、余程の馬鹿か過信してる奴ら以外、出来るうちに撤退する。絶対的にその方がいいから」
眼下にある博物館を見下ろしたまま、シュウリはそう続けた。多くの勢力にとってはこの辺りが潮時だろう。
だからこそ、博物館でとてつもなく簡単で詰まらないゲームが執り行われているのだ。死に物狂いで彼らは戦功点を稼ぐだろう。
つまり、此処から先を生き残るのは、どうしようもなくなって死ぬまで付き合う連中と、勝ちうるだけの規模を持っている者達だけ。
「だからさ、部下とか手札を消したりすると普通に詰むよね? 戦功点も足りなければ決勝での手札も無くなるから」
「ああ、よく分かってるみたいで何よりだ! そう言う意味では都立黑殘小学校教育研究会の先生たちは残念だったね。私が伝えるのがもう少し早かったら、あんなことをしなかったろうに」
「何したの?」
「どうやら、あんまり強くない先生達を根絶やしにしてしまったみたいでね。彼女達の派閥はもう残り僅かな人員しか残っていない」
「へぇ、残念――自分で自分の首絞めちゃったね。死に物狂いで頑張らないとコスモスの餌食だ。
あの卵が条件未達の連中を逃がしてくれるはずない。何処まで配られるにせよ、それ未満はコスモスの養分行きでしょ」
自分でもびっくりするぐらい残念とも何とも思っていない声が出た。
「まぁ、大人がどうなろうと知ったこっちゃないけどさ」
「シュウリ、君もすっかりと第八熾天使派らしくなったね」
「……うっさい」
宥めるようなそんな声に、シュウリは「ふん」と鼻を鳴らす。
「そんなことより、聞いたよ。ティティフィティアとミハイル派が不可侵条約みたいなのを結んだって話。
ティティも頑張ってるみたいだね、連中のやりたいことなんておおよその検討は付くけどさ。
ミハイル派が本格的にやってきたのは、ちょっと想定外で面倒くさいけど……まぁ、ボクらは決勝の時にリタイアさせてもらうからさ」
「仮想死亡を失くしてしまおうか。色々なチームから署名が集まっているみたいだ。
ゲイムマスターとしては貢献度が高いチームの皆様からの要望には応えなくっちゃいけないかもしれないね。
それはそれとして、私はこれからこの事を全チームに改めて告知しようと思うんだ。
リタイアに戦功点が必要な事、戦功点が稼げなかったチームは決勝に強制参加してもらう事をね」
黄金の瞳をタラリアに向けたシュウリに「そうみたいだね」と笑ったタラリアが言う。
「あっそ、行ってくれば? なんでオレに真っ先に聞きに来たのか知らないけどさ」
「ん? ああ、そうだった! これを聞いておこうと思ってね。焔狗を博物館にご招待しなくていいのかな?」
「んーボクらはもう十分稼いでるから、ここで稼ぐ必要ないでしょ。
まぁ、個人的に参加したいって奴が居れば好きすればいい。足切りに使える大人は幾らだっているし。
戦功点を稼いでくれる分には好きにすればいいよ。仮想死亡とかならなきゃ、現状維持でもいいけどさ」
つまらなさそうに尻尾を揺らしてシュウリはそう言って、また眼下の博物館へと視線を戻す。
「……そろそろ一度、ちゃちゃまるさんに話を聞いといたほうが良いかな」
何処にでも届く声でタラリアが戦功点とリタイアの話をするのを聞きながらシュウリは小さく息を吐いた。
彼が聞いているのも構いやしなかった。そんなことはさほど重要ではない。ただ、いつでもリタイアできる準備をそろそろしていたほうが良い気がした。
「この録音は今から5秒以内に消滅します」
「は???」
不意に聞こえてきたその言葉にシュウリは思わず声を出した。
「5、4、サンマ、ニジイロクワガタ、イチモンジタナゴ、バー」
「ふざけやがって」
ふざけたカウントダウンでそれが爆発する寸前、シュウリはベルベルを焼き払い、少年は子供っぽく舌を打つ。
※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化)
同時にリミテッドクエスト『ミッション・エンドレスリーパー』が開催されています!









