だって、そうでしょう?


 カブキチョー独立勢力プシュケー。
 そんな場所が、私達の世界だった。
 ちっぽけだった世界が広がったのは、優しい人間と出会えたからなのかもしれない。

 ――だって、私、家族を殺されたんだもの。
 この人に。
 K.Y.R.I.E.? ううん、K.Y.R.I.E.って組織がただ一つだなんて思っちゃいない。
「お前」
 茂木 麻音(r2p008561)は引き攣った声を漏らして目の前に立っていた玖威 良秀(r2p000566)を見つめる。
「お前が、お前が、お前が、お、おね、おねえちゃ、おねえちゃんを、おまえ、お前どうして、どんな――」
 どうして、私じゃなくて姉が。そう思った。
 私には何もないのに? 私は誰かを模倣して生きていくことしかできなかったのに?
 姉の振りをした。優しくてかわいくて頭が良くて格好良くて。ハリボテみたいな人生でも指針があれば(お姉ちゃんが居たら)生きていけた。
 それなのに、姉は、路地裏でバラバラにされました。パズルのピースみたいに分かたれて、落ちていたそうです。
 姉は、姉は、姉は――?
 お姉ちゃんを殺した奴が正義の味方を気取った組織で笑っている?
「死ね、殺してやる、お前みたいなやつが恵まれた場所に、どうしてッ」
 あ、私って汚いんだ。
「お前が生きてることが許せないんだよ! クソ! 私―――――ッ!!!!!!」

 まね、と。呼ぶ声が聞こえてから、少女は一瞬だけ振り返った。
 視線の先に、ともだちだった人たちが立っている。
「麻音、手伝ってあげる。
 ……俺も、覚悟をしなくちゃならないんだ。コノハが笑ってくれない世界はいらない」

 屑はただ、拾われただけだった。何の力も持たず、其の儘殺されてしまう筈だった。
 グズ、ゴミ、クソッタレ、使えない、意味ない、ごく潰し、死んでしまえ。
 そうやって指さす母には早々に捨てられた。
「おもしろぉい、あんたはリコのペットね」
 襤褸を身に纏った天使は段ボール箱に入っていた子供を拾った。
 天使の馬鹿げたおままごとは、一人の子供の命を戯れに救ったのだ。
「屑、お前はリコのペット、お前はこのラリコシェッタのおもちゃ。」
 屑は――ハズク(r2p008488)は、育ての親になってしまった天使が殺されて、そうして運命に出会った。
 俺にとっての、眩くて美しい、光のような人。
 こっちだと慌ただしく手を引いて、命を救ってくれたハズクにとっての光。
 心優しき両親を亡くし、こんな時代でも善性を喪う事はなかったコノハ(r2p008487)。
 人を愛し、人を慈しんだからこそ死んだ莫迦な両親のその背を追うように、莫迦みたいに大切な人を作ってしまった優しい人。
「コノハ」
「……ハズク」
 コノハの唇が震えている。ハズクが天使に育てられたのだって、天使になる事に対して忌避感がない事だって知っていたのに。
「ハズク、待って。やめろ、お前」
「俺はさ、コノハがしあわせに笑ってくれていたらいいんだよ。
 ――コスモスがあれば、こいつらになんか邪魔されない、ずっと地続きの明日を歩めるはずなのに……ッ!」
「ハズク」
 コノハだって、分かっていたし、思っていた。
 K.Y.R.I.E.と名乗った者達が日常を踏み荒すと。自身らの誇りを踏み躙るリアリストの行進を受け入れられなかったのは己が幼かったからか。
「ハズくん、コノハく――ッ」
「慈悲! お前は、下がれ」
「ッ、ハズくん――――!」
 軋む心の先に、ハズクは確かに希望を見ていた。

 ――願いを叶える(コス)可能性の卵(モス)というものが東京にはある。


 はじめて、その説明を受けた時に彼は「それは危険なものなんだろう?」とそう言った。
 いつだって、私を護るように立っていたあの背中を忘れた事はなかった。
 契。私の幼馴染。愛おしくって、大切で、優しくって、おかしくって、きみがいるだけで私の世界は明るかった。
 コフィンキーパーで君は私を救う為に、K.Y.R.I.E.との戦いのさなかに命を落とした。
 K.Y.R.I.E.を信頼できなかった私達(プシュケー)が悪いの? 信用できるかも分からない敵に切り札(チップ)を渡せるお人よしはこの世にいたの?
 私が外に出たから悪かった? 何をすれば、君は帰ってくるの?
 ねえ、契、私、18歳になったんだよ?
 18歳になったら、結婚しようって言ってたでしょ。
「あ」
 視線の先に天使になったハズクが居た。腕が吹き飛んでいく麻音が見えた。
 ぐらぐらする、足元が。K.Y.R.I.E.がいう保護は捕虜と一緒だ。咲願の助けにもならない、宗助みたいにこいつらを受け入れてなんてやれない。
「生きて、恨めばそれで済むの? 先延ばしにしたって、なにも意味はないんだよ。
 ……だって、私の仇は君達で、契は今後一生帰ってこない。
 何が熾天使? 何が天使のゲイム?
 だから何? それで世界が滅びる?
 ばっかみたい! 世界が滅びたって構わない。もう契はこの世界に居ないんだよ!?
 世界の平和の為に仕方がなかったね、だから今後は仲良し復讐ごっこをしたらいいって!?
 生きてたらいいことあるって!? 契が帰ってくるとでも!? それとも復讐代行でぇ~すって、目の前でみんな揃って首ふっ飛ばして、死んでくれるってこと……!?」
 膝をついたミハル・メイフィールド(r2p008481)は、きっと時限爆弾だった。
「ばかみたい」
 天使は嫌いじゃない。私、堕天使だよ。元から半分天使みたいなものじゃない。
 降伏せよ、降伏せよ。するわけないじゃん、したら、契を返してくれるって?

 生きていきたかっただけなの。ただ、当たり前の毎日を。
 契がいるだけの、毎日を。
 お前たちが居るから、私の世界は壊れてしまったんだ。
 だって、そうでしょう? お前たちが居なければ私達は優勝候補だったんだから。


 ※第11戦区:ミッション・エンドレスリーパー『Bonus Time!』が佳境に差し掛かっています――








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