それが栄えある表彰台


「決勝戦ルールについてはぼくたちは把握していない。けれど、勝者が二位までというのはあんまりだと思うんだ。
 第十一戦区の事、見てたよ。コスモスが暴走してるみたいに塩の天使は暴れてた。
 それに、第七戦区でだって、あの白い天使(メイ)の言う事を聞くよりも塩の天使達の方が騒がしさがあった。
 ――つまりさあ、コスモスは主導権をメイには渡そうとしていないって事なんじゃないの?」
 静かにそう問い掛ける軍場 冬青をまじまじと見つめてからタラリアは「驚いたな」とそう笑った。
「まさか人間がこの私に提案を持ち掛けるだなんてね。驚いてしまったよ。
 あ、こういう時どう驚けばいいんだっけ? びっくりしすぎてサバンナモンキーだよ!」
「……」
 冬青は目の前でからからと笑っている男をまじまじと見つめる。
 今日は一人ではない。大事な同盟相手としてイサーク・サワも連れてきている。
 普段から軽口を混じらせるイサークは今日という日は妙に静かだ。
 座天使――しかも、然程に戦闘意欲を見せていないカタルモイの管理人――に対して黙り込むとは、案外彼も可愛らしい所があるとみるべきなのだろうか。
 冬青は「サワ」と呼び掛けようとしてから唇を引き結んだ。
「……君は賢いよね、冬青。同盟相手としてK.Y.R.I.E.ではなくてミハイル派を選んだ。
 そもそも、悪党(ヴィラン)として動き回って無数の派閥のデバイス奪取と破壊を行ってきた君達は完璧に優勝候補だった。
 でもね、君達の目的を果たすだけならばK.Y.R.I.E.だって構わなかっただろう?
 本心を曝け出せば彼らは涙ながらにでも同意してくれただろうに!」
「……K.Y.R.I.E.じゃだめだったんだよ」
「それはどうしてだい? 君達の中にある卑屈な独立心から?
 大人の手を借りたくはないという思春期特有の拗れかい? それとも、自分たちならばもっとうまくできるという驕り?」
「……」
 冬青が唇を噛みしめる。意地の悪い男が目の前でくすくすと笑っている。
 折角の対話の機会。全ての戦区が終了して決勝が始まる前に僅かな間で良いと何度も打診を繰り返してきて、これだ。
 こんな話をしたかったわけじゃない。
 仮想死亡をなくして、決勝戦を3位まででクリアとする。
 ただ、その要望が通ればそれでよかったのに。
「気になるな。教えてくれる?」
 ――目の前の男は、やけに自分等という弱小に興味を持っている。
「奴らは恵まれた人間だと思った、ではダメか。それで信じてくれるようなおまえじゃないもんな。
 ぼくがやりたいことを、あいつらは邪魔をするに決まっている。それこそ、おまえだって分かってるだろ。
 ぼくの願いは何処までも薄汚くって貪欲だ。それこそ、コスモスなんていう願望器が食中りを起こすかもしれない程度にね」
 タラリアがきらりと瞳を輝かせた。
 素晴らしい。そんな貪欲さは必要だ。
 だって――そう、正直な事を言えば、コスモスの器となるべきは何も、メイではなくてもいいのだ。
 この東京は慾に塗れている。だからこそ、慾に応える願望器が落ちたのかもしれないとさえ、思う程の。
 何の因果か、優勝候補派閥はあのK.Y.R.I.E.、そして、魔法少女という人の理想と希望と夢を詰め込んだ存在が率いる2派であるのだ。
「……3位までと枠を広げよう。コスモスは確かに肥大化している。
 暴走が開始されたならばメイは喰らい尽くされる可能性もあるだろうからね」
「……おまえ」
 冬青は普段ならばメイを心配し、メイを慮るタラリアらしからぬ言葉だと顔を上げた。
 ――それから、訝しむような表情で何かを言いかけてからサワに制される。
「何時まで、戯れ事を仰っているのかしラ? まさか、ミハイルより先にアタシがお話しする事になるとは思ってなかったわヨ。
 何てお呼びすればいい? アタシ、ちゃんと殿方のオーダーには答える淑女なのヨ」
「サワ?」
 冬青はゆっくりとイサークの背に隠される。鍛え上げられた肉体に隠されてしまった冬青が不安げな表情を浮かべると同時、おかしそうな微笑みを浮かべていたサワが目の前のタラリアを見た。
「タラリアの体は使いやすい? ステキネ。
 部下を使って遠見の術だなんて。ええ、アナタが直接遊びに来ていたら気取られるもの。
 ……そう言えばタラリアって変装も得意だったのかしら。姿をアナタに似せて、アナタが居るように見せかける事も出来るものネ」
 それでも、流石に彼が遊びにでもやって来ていればその気配は直ぐに誰にでも察知される。
 ある程度の気配が漏れ出でても座天使の反応でごまかせるようにと彼を派遣し、彼を利用してK.Y.R.I.E.の偵察にでもやって来たか?
 ――いや、それとも、コスモスの引き渡しやささやかな暇つぶしにでもやって来たのか。
「アレクシス猊下はそう呼ぶのがお似合いだったけれど、アナタはどうなのかしら?」
「ダーリンはどうだい?」
「――やだ、惚れちゃう❤」
 サワはそう笑ってから「手出しはしないんでしょう?」と低く問い掛けた。
「見ていらして。仮想死亡がなくなったってコスモスが勇み足ならアタシ達はそれと逢わなくちゃならない。
 アタシ、何となくならアナタのやりたいこと、分かるわヨ。ええ、期待していて頂戴? ねえ、第九熾天使(ダーリン)?」








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