4月2日 - Part3
今までの日常が非日常となる。
水上 有紗(r2p002725)は、頭に生えた角を感じ取った瞬間にそれを自覚した。
有紗は争いごとが苦手だ。だが、昨日から続く天使たちの襲撃に、皆が逃げ惑っている。
今の自分ができること、それは抗うことだろう。
「それがきっと、私ができることだから――」
必要最小限の力で天使たちを退け、逃げ惑う人たちと共に逃げながら避難所まで送り届ける。
避難所から出るタイミングで、大量の天使たちが避難所を襲おうとしていた。
「少しは本気で行っても良いかしら」
「ああ、それでどうにかなるなら、な」
有紗の独り言に神無 司(r2p000234)が答えた。
司は元いた世界で、既に天使を見たことがあった。もしも、自分がいた世界がこの地球と同じ宇宙にいたとするなら……と考察する。
正体不明の天使とやらは、どこから来て、何を目的としているのか、思考が読めない。そんな相手なのだから、交渉や投降など無意味だろう。
(それでも、立ち向かう者がいるなら……足掻いてみせろ)
そんな彼女の思いに応えるかのように、足掻いてみせる者が一人。雨宮 凪沙(r2p002203)は頭痛と悪寒と眩暈に襲われながらも、街を駆けていた。
『逃げなさい』
そう告げた祖父の声を思い出す。
たったの一日で、祖父母も、思い出の喫茶店も、あっさりと炎に呑まれた。
殉職した警察官から拳銃を拝借して、天使から身を隠しながら走る。持ち前の幸運と直感を信じて、在りし日の面影を探す。
(お願い、無事でいて……!)
そう願うのは、 凪沙だけではない。秋葉 舞香(r2p002023)もそうだ。
先月の終わり、舞香がお泊まり会に行ったきり両親に会っていない。スマホで情報収集をしているが、それが本当か嘘なのか判別できない。
そんな中、舞香は見覚えのあるものを見かける。
「これって――」
そこに写し出されているのは、舞香の家の近所。潰れて燃えているのは、舞香の実家。
両親は生きているか分からない。この目で見るまでは信じられない。
舞香は駆ける。
そんな彼女と同じように、街を駆ける者たちがいた。
御神 茜(r2p002722)は土御門 花音(r2p002726)を守るように木刀を構え、天使たちに立ち向かっていた。だが、そう簡単にはいかない。苦戦を強いられ、現在二人は避難所を探しつつ逃げている。
だが、逃げている最中に異変が起こる。
「――あ、っつ」
「え、どうしたの?」
「何、これ……燃えてるみたいに、熱、い……!」
茜の身体がふらっとよろめく。その足取りの先は、二人を追いかけてきたであろう天使の集団。その集団の中に、茜の身体が落ちる。
「茜!!」
花音は叫ぶ。だが、その声が届いたのかは分からない。返事はない。
だが、同じ場所に留まっているのは危険だ。生きていれば、きっといつか会える。そう信じて、花音はその場から立ち去った。
一方、茜は天使の集団の中で、ある変化を享受していた。
天使に抗えと言わんばかりの焔と、それに伴い得た力。花音の姿は見えないが、きっといつか会える。そう信じて戦う。
「それがきっと、この姿を、力を得た私の使命だろうから」
そう呟いて、茜は天使たちに立ち向かっていった。
同じように、天使たちに立ち向かうミリアム=スカイ(r2p001373)は光弾を打ち出しながら叫んだ。
「さぁ、今のうちに逃げて!」
ミリアムは既に天使によって滅ぼされた世界からやってきた。故に、大物と戦えるとは彼女自身も思っていない。しかし、一般人を助けるために有象無象を蹴散らす程度ならばできる。
「バケモノさん、あたしについてきなさい!」
天使の気を惹き、戦えない人々から離れた。
そんな中、玄葉 三蓉(r2p000495)は開花した能力を使い、天使に襲われている人たちを助けながら避難所を巡っていた。ある避難所に着いたところで、三蓉は避難所にいた人に引き止められた。
「もしかしてなんだけれど……君は『三蓉』という名前かい?」
「そうですが……」
「言いにくいのだけれど……きみの両親は天使に襲われて……」
「え……」
両親の死体どうにか回収できたそうだ。
三蓉は動かなくなった両親の前で、泣き続けた。その後、天使に対して復讐心を抱いたのは、想像に難くない。
そんな杉田商店街の避難所に、ある知らせが届く。それは、近くのビジネスホテルが襲撃されている、という知らせだ。
その知らせを聞いたアダマス・逆叉(r2p001637)と鳳 菖蒲(r2p000556)は、 早速行動に出ていた。
「キミたちには、ボクが進化するための糧になってもらおうか?」
避難所から出て天使と戦っている菖蒲は、人ならざる姿で天使を捕食していた。その巨大な爪や牙、尾で薙ぎ払う姿は「リアルで怪獣映画を見た」と、後に噂されていた。
そんな彼女がある程度天使を一掃すると、アダマスに連絡を入れる。
「今、ホテルから足を怪我した人がそっちに行ってるみたい」
『了解。受け入れ準備しておくよ』
避難所を襲撃された時のために残っていたアダマスが、他の人たちと協力しながら準備を進める。
良いのか悪いのか、ここには天使たちが破壊し残った瓦礫がある。
「……うん。これだけあれば、大丈夫だよね」
準備した物を見ながら、アダマスは呟いた。
同じように、別の避難所でも怪我の治療などが行われていた。
昨日、サイレントに避難所を託されたトーキーは、自分のできる範囲内で手当をしながらあることを思っていた。
(イグナイトちゃんは、今も天使と戦っているのかな……)
トーキーには戦う力はない。だが、ここを守る程度ならばできる。
生存者を探しに行ったサイレントと、サイレントがいない間、トーキーを助けてくれたイグナイトのことを思いながら祈った。
避難所に行かず、どうにか倒壊から免れた施設で混乱をやり過ごしていた白山 降安(r2p003168)は、この先どうしようかと悩んでいた。
(このままここにいても、野垂れ死ぬかもしれない……智春がいる横浜に行くか)
もしかしたら、そちらの方が現状把握しやすいかもしれない。そう判断した降安は横浜へ向かうべく、今では電車の姿も見えない線路を伝い合流を図った。
とはいえ、そんな横浜も他とはなんら変わらない状態だ。天使たちは容赦なく襲撃している。
そんな状態である中、シノ・フォン・ヴェルンドル(r2p001897)は目の前で起こったことに困惑していた。
(……まさか、人が化け物になるなんて!)
シノの目の前で起こったこと――それは、神代 当麻(r2p001790)が天使になったのだ。しかも、シノを見るなり、彼女に襲いかかったのだ。
「すごい……この世の理から解放されている……!?」
「ちょっと何を言って……」
「あなたも、この世の理から解放されましょう?」
当麻はそう言いながら、拳をシノにお見舞いする。シノはそれを自前の槍で防ぐ。だが、思ったよりも力が強かったらしく、槍を持つ手がほんの少し痺れた。
「悪いけど、その誘いには乗らないわ。その代わりに」
拳を弾き返し、距離を取る。
「槍術大車輪、魅せてあげるわ!」
「槍なんかで……、っ!!」
改めて空中から接近しようとした当麻を、シノの槍が襲う。その攻撃のせいでうまく飛べなくなった当麻は、槍の射程外まで後退する。
「仕方ない、ここはいったん退くしかないわ」
そう呟いて、逃げる当麻。シノは追いかけるが、すぐに見失ってしまった。
そんな二人の様子を一部見ていた、まだ三歳の王 他面(r2p002459)。昨日から変わり果ててしまった街に困惑しながらも、両親と手を繋ぎ逃げていた。
「おかあしゃん、あれはー?」
天使を指しながら問いかける。しかし、両親は答えてくれない。
他面が知っている天使は『善い者』である。だが、あれはそうではない。その違いに混乱しながらも、両親と逃げる。
途中、転けてしまい泣いてその場にうずくまる。しかし、天使は容赦なく襲おうとする。他面の父は他面を抱き、再び逃げるために駆けて行った。
もう夜も更けて来た。天使の襲撃は激しさを増すばかりだ。
避難所である学校で再会した千枝 真樹(r2p001507)と千枝 砕華(r2p000288)の兄妹は、再会を喜んでいた。
「お前が無事でよかった、砕華。怪我はないか?」
「ん……大丈夫だよぉ。足を挫いちゃったけど、優しい人たちに助けてもらえたから」
「……そうか、それならよかった」
ひとまず、命があるだけで良い。助けられてばかりだったと溢す砕華を励ましつつ、砕華に毛布を渡す。
「ほら、まずはゆっくり寝て、体力を回復したらどうだ。昨日から寝てなかったんだろ? 俺は避難所の周りを見張ってるからさ」
「うん。……兄さんはやることがあるんだね。無事でいてね」
「ああ。おやすみ、また明日な」
「……おやすみぃ」
互いに夜の挨拶を交わすと、部屋を別れた。
平和な明日は、まだ来ない。
執筆:萩野千鳥
●
キキ(r2p000208)と条ヶ谷 八尋(r2p001979)は一日目を家に立て籠もってやり過ごしていた。
思い出の残る八尋の家は見えなくなっていた。避難所まであとどれくらいだろうか。
「はぁ、はぁ……うっ」
八尋がふと立ち止まる。
「八尋ちゃん……?」
振り返りみた八尋の顔はとても苦しそうに見え、彼女を平坦な場所に寝ころばせた。
「熱が……八尋ちゃん、八尋ちゃん、ごめんなしゃい。わたちが無理させたせいで」
触れてみて気付く彼女の熱、キキはぎゅぅと給仕服の裾を握る。
(ああ、これは、もう動けないかもしれない……)
心配そうなキキの声が聞こえる。八尋は、彼女を感じる方へと手を伸ばす。
「ごめんねキキちゃん……」
熱っぽさは家にいた頃から感じていた。
(ああ、最後に貴女の顔見たかったなあ)
「……? 八尋ちゃん?」
ふわり、宙を浮く感覚がして万能感が支配する。
――あぁ。そういえば、いつから右腕が動いていたのだろう。
柔らかな物に触れた。
「――ッ」
どこからか、声がした。微かな声は誰のものだったっけ。
「……八尋ちゃん……どうちて……」
ぽっかりと開いた左目に触れて、譫言が口から溢れ出た。
(もう静かになってる……?)
ジャン=フランソワ・ルル(r2p001246)は瓦礫の陰から恐る恐る姿を見せる。
(うぅ……お腹すいてもう限界)
きょろきょろと周囲を見渡せば、人の姿はどこにも見えなかった。
なんとなく空を見上げれば、天冠と翼の異形の怪物がそこにあった。
ばっちり視線が合えば、まるでそれが自然とばかりに、それがルルめがけて飛んでくる。
「た、助けてー!」
「屈んでいろ」
そんな声を聞いて、咄嗟に身体を屈めた刹那、影が差して怪物の断末魔が響いた。
「怪我はないか?」
「……た、助かったぁ、お兄さんありがとう!」
煙草に火をつけた御影 聖(r2p000296)へとルルがいえば、気にするなと彼は小さく笑う。
お互いに自己紹介をすれば。
「聖さん! まだ追手が来るかもしれない!」
聖はそう言って飛び跳ねるルルを見下ろしながら、暫し考え事をしていた。
(装備も心許ない、家に帰るのは確定だが……緊急時だ、事案だの言ってられないか)
「そうだな、お替りが来るのは厄介だ。一旦俺の家で物資を整える。
その後避難所に送り届けよう。解ったら付いて来い」
「うん!」
ルルを連れて聖は走り出す。
道中の天使を愛刀で切り伏せ、向かう先の我が家は一体どうなっているだろうか。
エイプリルフールが終わり、現実が浸透しきった2日の夜。
「貴様、ちょっと待て。貴様」
不意に肩を掴まれ、片ヶ瀬 九朗(r2p000502)はビクリと身体を跳ねた。
「な、なんやアンタ……急に声掛けてきたりして。俺は師匠を探しててん」
「貴様、宝石商と言うヤツを知っているな?」
「え? アンタ、知ってるん?」
それは職業ではなく個人を指している。
「吾輩も探しているのだ」
「ああ、アンタも探してるんか……こんな事起こってから連絡つかんくて」
「なるほど……連絡はついてないのか。そうだ貴様に武器を託す……こんな騒ぎだ、使うといい」
そう言った刹那、いつの間にか男の手には一振りの刀があった。
「は?武器?そりゃ有難いけど…おおきに?」
「吾輩の武器は墨付だ、存分に使ってくれたまえ」
「ちょいまち! アンタ、名前は?」
「シェーレ・ズィーベンツィーゲだ」
「分かった。師匠と会ったら探してるって伝えとく!」
「いや、不要だ。奴は覚えていまい」
それだけ言って、シェーレ・ズィーベンツィーゲ(r2p003111)は九朗の前から立ち去った。
(……宝石商、吾輩は貴様を逃してやらんぞ)
闇に消えていくシェーレを九朗は暫し見送り、首を傾げた。
瓦礫の増えた路上をサイドカー付きのバイクが進んでいく。
操縦するのはAAAAT みなづき-1(r2p001459)、サイドカーに乗りミニガンを構えるのはAAA Prototype "エイプリル"(r2p000565)である。
「やはり、来てしまいましたか……来ないならそれに越したことはなかったのですが」
「もしかしたら来ないのかも、と思っていたけど、少しばかり甘すぎたようね……」
同じ世界で生まれた対天使用人形兵器である2人だけあり、息の合った動きで突き進む。
「エイプリル、見えてきたわ。準備は良い?」
「問題ないのです。援護は任せてください」
「了解――突っ込むわ!」
エンジンを吹かせ、突っ込んだ先でバイクを止めた刹那――エイプリルは一気に銃弾をばら撒いた。
どこぞの軍用ヘリから持ち出したミニガンは人間が素手で扱うような物ではないが、エイプリルの体幹があれば問題なかった。
弾幕に怯んだ天使たちの隙を縫うように、みなづきは銃を抜く。
タバコ型バッテリーを食み、逃げ遅れた人間を狙う天使をぶち抜く。
「撤退の時間は稼ぐわ! 早く逃げなさい!」
民衆にそう指示を出しながら、背後の天使へと銃弾をぶち込んだ。
「大丈夫ですか!」
シリル・スーヴェルベルド(r2p002117)は喧噪の中でこけてしまった少年へと声をかけていた。
抱き起してやれば、「お兄さん、ありがとう」なんて言ってくれるんだからたまったものではない。
「大丈夫、この身に代えても護りますからね!
君らの未来を護るのが大人としての我々の役割ですからね!」
少年の柔肌に傷の一つも残すわけにはいきませんから――という言葉は呑み込んで、召喚した蔦で天使を絡め取る。
「――は。少年の姿をした天使……な。なんて卑劣な……!!」
振り返りみた天使の姿に思わず目を瞠るシリルを、抱き上げた子供が心配そうに見上げている。
「こほん……逃げましょう!」
咳払い一つ、シリルは走り出した。
光線を受けたケイト=ゲモリー(r2p001831)の身体は瓦礫の中へと吹き飛ばされていた。
「ぐっ――くそったれ……!」
竜めいた身体の悪魔は悪態着きながらもよれよれと起き上がろうとした。
視線を巡らせれば、大型の天使がゆっくりと近づいてきていた。
その時だった――幾つもの銃声が響いた。
「おい、大丈夫か!」
そう叫ぶ銀髪の男――Joe・Canary(r2p000948)は、銃弾をばら撒きながら近づいてくる。
同じような服装と装備を見れば、一個の集団だろうか。
「クソ、こいつ動けそうにないな」
「おい、やめな! 馬鹿じゃないの! 弱っちいあんたたちなんか死ぬよ!
アタシは人間じゃないし、とっとと離れて!」
「知るか! 天使じゃなけりゃ良いんだよ!」
ケイトを守る盾のように展開した部隊の攻勢を影に抱き起そうとするJoeにそう言えば、逆に彼はそう叫ぶのだ。
その時だった――天使の頭上に集約された光線が、一団を薙ぎ払う。
「ぁ――」
「ぐぅ――」
「馬鹿! 腕ぐちゃぐちゃじゃん!」
「は、これくらいどうってことねぇ……起きれるか?
クソッタレの天使にとっておきをぶち込んでやる。手伝え」
「……分かった」
こくりと頷いたケイトが起き上がれば、Joeが銃を構えた。
「吹き飛べぇ!」
動かなくなった彼の腕に変わって支えになって弾かれたトリガー。
近距離から穿たれた弾丸を受けた天使の天冠が罅割れ、砕け散る。
「やった………はぁ、死ぬかと思った」
腰が抜けたケイトの隣で、Joeが崩れ落ちた。
天使達の到来より1日が経った。日に日に増える敵は根治の難しい病原菌のようだ。
「しっかりしろ、もうすぐ野戦病院だ」
救い出した負傷者たちの護衛に務めるのは姫神・アレクシア・藤代(r2p000821)だ。
「私の故郷を荒らし、この星まで荒らすとは、お前らの往生際の悪さは病原菌並みだねぇ。
さっさとこの世から退場願おうか」
その邪魔をするように姿を見せた天使たちを敵意に満ちた目で見据え呟いた。
「もう少しだからな、しっかりしろ」
引き金を弾いて、マシンガンの銃口から打ち出される弾丸が天使の群れを穿ち、道を作っていく。
「まじムリ、イミフ、正真正銘のバケモノじゃん」
ずっと使っていなかった薙刀を手に七五三掛・千鶴(r2p002495)は息を吐いた。
両断された羽根つきの化け物を見下ろした。
とっくに錆び付いた腕は玄人どころか素人と変わらなかった。
それでも当たれば殺せる。化け物を倒せる。だから、向かってくる羽根つきを両断していく。
「私は、化け物なんかじゃない」
荒く、息を吐いて。それを証明するようにスマフォを取り出して自撮りを試みる。
「全然映えないじゃん」
――そうだ、私は化け物なんかじゃない。
だから、この頭で輝いている天冠もスマフォのバグだ。そのはずだから。
「喧嘩ってのはなぁ、ノリと勢いがいい方が勝つんだよ」
そう嘯くモモ(r2p001570)の前には複数の天使たちの姿がある。
球体めいた身体に翼の生えた天使たちの突撃に合わせ、鉄パイプをぶん回せば、芯を打って飛んでいく。
ぐるぐる飛んで行った個体の天冠が罅割れ砕けたのまでは、モモが確認する義理はない。
「目の前で死なれるのは気分が悪ぃんだ」
適当に目についた人間に襲い掛かる天使を見かけては真上からぶん殴り。
此方に向かって迫りくる敵を薙ぎ払う。ただ只管にその繰り返しである。
「……本当に、人類とは」
聞こえてくる言葉の1つ1つに紅邑 咲(r2p000353)は「あぁ、ここもだ」とただそれだけ思う。
「天使と同じ化け物? 否定はしません。私も、人間に恐怖を与える存在ですから」
タールの如き本性露わに、ただ膂力だけで天使達を磨り潰していく。
迫害、自己保身、流言飛語。
幾ばくかの光があるのは分かってる。それでも総じて『人類』というものは愚かだ。
斬り裂かれるのなら、刃ごと圧し折り砕けばいい。噛まれれば頭を握り潰せばいい。
感じるのは餌場を荒す天使への不快感と、愚者たちへの怒りだけ。
ただ粛々と、凄惨に、残忍に。咲は掃除を続けていた。
「乃海……なんでや。なんでお前が殺されなあかんのや」
瓦礫の山と化した街の中を冬澤 雪(r2p000162)はふらふらと歩いていた。
両手に抱えるように握った『乃海』の一部、これだけしか、助けられなかった。
「今日から神なんぞ二度と崇めたりなんぞするか! けったいな天使なんぞ差し向けよってからに!!
……全部や。全部、殺したるからな。乃海と同じ目に合わせたる!」
それは警察官としての矜持などでは断じてなかった。
「一匹たりとも、羽根の一枚すら存在出来なくさしたるからな!」
飛び込んできた天使の頭を拳銃でぶち抜き、別の個体を蹴り飛ばし、銃弾を叩きこんだ。
不思議と、身体が軽かった。
運命の日、ついに彼らがこの世界にも来たのだとアルティナ・ストゥーリエ(r2p001880)は震えた。
大好きだった虹の花咲き誇る故郷はあいつらの手で滅ぼされた。
(もう二度と、大好きな人々をこれ以上喪いたくないから)
虹色に輝く障壁を幾重にも張り巡らせて、避難所の人々の盾になる。
どんな風に思われても構わなかった。
怖がられるのだとしても、隠し事をしていたと謗られても。
「大丈夫、どんな事があっても守るよ。誰だろうと、私は皆を――」
それがいつまで続けていられるのか――分からなかったけれど。
(じいちゃんの形見の刀だけは持ってこれたけど、桜木町方面はもうダメみたいだ……)
瓦礫だらけの町を歩いて進むのは霧崎 有宇(r2p000127)とて同じこと。
(結花は無事だろうか)
根岸の方へと向かったとらしい幼馴染のことを思い出しながら、バッグを背負いなおして歩き出す。
有宇の足取りは驚くほどにしっかりとしていた。
実際、隠れ潜み隙を窺っての奇襲――これで天使は倒せていた。
(これまでで感じた頃が無いくらい、身体が軽い……どうしてかな?)
物思いに更けながら、有宇は歩き続ける。
「やはり父上と連絡は取れないか」
白夜高校の生徒会室にて鬼瓦 元親(r2p002426)は明滅するスマフォの画面を見下ろしていた。
天使たちの襲撃から一夜明け、体育館などには避難してきた人々の姿がある。
鬼瓦財閥の総帥たる父との連絡はずっと取れてなかった。
(どうあれ、この土地に悲劇が蔓延るのならば、鬼瓦一族を継ぐ者の責務は決まっている)
民間人を助ける――それは持つ者として当然のこと。
「……撃って出るか?」
文武両道は心がけてきた。
その上で、外の異形を見ても不思議と負ける気がしなかった。
ラジオの音が鳴っている。
昨日を生き延びた桟原 穂乃花(r2p001696)は、それを喜べやしなかった。
大病を患っていた父が、魔法使いの力を揮った。
そうやって、穂乃花を助けてくれた――その代償はあまりにも重くて。
情報が流れてくる。
この混乱を招いたのは、翼の生えた天使だと。人から天使に変わるのを見たと。
通り抜けていく雑多極まる情報の中、それだけは嫌に聞こえてくるのだ。
『L.A.発羽田着予定の便の墜落が確認され』
『日本人の乗客は――』
(文哉――)
それに乗っていたはずの婚約者の名前。
声にもならぬ慟哭を上げて、耳を塞いだ。
執筆:春野紅葉
●4月2日
(なんで? どうして? 4月には、お母さんとお父さんが仲直りして……幸せが戻ってくるはずだったのに)
神代小雪(r2p002004)は困惑していた。
父である神楽雪文(r2p003148)と母である神代小鈴(r2p002872)は小雪が幼い頃に離婚していたが、紆余曲折あって無事に復縁することが決まっていた。
その矢先の出来事だった。
禍々しい「天使」とも言えない不気味な群れ――それに三人は見つかってしまったのだ。
雪文は小雪と小鈴を逃がすために、我が身を犠牲にする。
「お父さん」
「逃げろ……逃げてくれ……」
見せつけるように雪文を食いちぎる大きな顎。それでも雪文は逃げずに攻撃を引き受ける。
「これまで何もしてこなかった最低な僕にも、守りたいものくらいあるんだ」
肉を食い破られ、毒針に貫かれ、絶叫し――
「あ゛あ゛あ゛ぁぁ!!」
悲鳴の中、小雪を抱えるように小鈴は走る。だが、毒針の毒は小雪の体にも巡っていく。
「痛っ!?」
「小雪?」
「あ……ぐ……苦しい……」
痛みはじわじわと小雪の体を蝕んでいく。
「おか……ぁさ……ゆき……死にたくない……よぉ……」
弱々しい声。小雪の体は冷たくなっていく。小鈴はそれを懸命に抱きしめた。
(そんな……雪文さんを失って……愛娘まで失うの?)
抱きしめることで小鈴は小雪を温めようとし、その愛が悲劇を生む。
――小雪が目を開いたときに見たのは、抱きしめ守るかのような姿で息絶えた小鈴の躯。そして、氷のように変わってしまった自分の姿。
(ゆき、お母さんを……凍え……)
殺してしまった。そのことに気づいた小雪は絶叫するのだった。
「悠々と飛び回る羽根付き共よ、随分と際限なく現れるな」
ヴァスィア・ネラ・アルビレオ(r2p000750)は空を見上げて悪態をつく。
(人を護ると決めたからにはそれなりの行動をさせてもらおう)
彼女は人と共生してきた竜の一体。ならば、やることは決まっている。自身の周囲に敵対生体を凍結させる結界を展開し、逃げ惑う人々の保護を行い始めた。可能な限り、避難所への護送を行う。
「さて生き延びたいのであれば妾に着いてくるといい」
鮮やかな紺の角は目印になる。ヴァスィアは微笑んだ。
「可能な限りの身の安全を保障しよう。無論絶対ではないがな」
クリマ・ブルーム(r2p001165)とグラス・ブルーム(r2p001166)の双子の兄妹は、協力して天使を倒していた。二人はアルプス山脈のモンブランの一角に隠れ住む妖精の一族。
疲れれば琥珀糖を頬張り、グラスは氷の礫と氷柱を生み出し、クリマは風を操りグラスの氷を巻き上げる。
「モンブランのきつい吹雪だよ、どうぞ」
「天使だろうがなんだろうが、山は過酷だから」
広範囲に広がる吹雪は弱い天使たちを巻き込んでいく。
(こいつらが現れることをなんとなくグラスは予見していたんだな)
クリマはころりと琥珀糖を転がして思う。
(こいつらを倒さないと『正しい春』は訪れない)
(こいつらに蹂躙されたら世界がめちゃくちゃになる。だからできるだけここで倒さないといけない)
グラスも氷の礫を生み出して、天使を睨みつける。
「グラス、まだまだいけるよね?」
「もちろん」
双子は正しい春を求めて、季節の変わり目を、芽吹きを叩きつける。
ルゥリィ・ロペス(r2p001208)はこの有事に至り、人外の――神獣の姿を現した。だが、そのことで大切な人が罵られ、傷ついてしまうかもしれないと思い、あえて人の傍から離れる。
(お友達や大切な人が傷つくかも……)
ルゥリィは付近にいる、人を襲っている天使に攻撃を仕掛けた。
だが、助けた人からは「化け物」と罵られる。人を助けることが偽善だとしても、ルゥリィは天使に立ち向かい続ける。
神のごとき狼の力を宿した脚力。一気に天使に肉薄するとその脚力で蹴りを放つ。天使は頭を粉砕され、人々はルゥリィを恐怖の目で見る。
(……あなた達さえ居なければ、平穏な日常があったのに)
避難所を守るため、散発的に襲い来る天使に立ち向かうのは藤原アニカ(r2p001754)だ。
常人をはるかに上回る膂力でスレッジハンマーを振り回し、天使を薙ぎ払う。
アニカの見た目は小・中学生のように小さいが……。
(気が付けばこんななりになってもうたけど、この身体は常人よりはるかに頑丈みたいや)
小さな身体にスレッジハンマー。天使を追い払う。
(ウチは料理人やから荒事は苦手やけど、小さい子供もぎょうさん此処にはおる。なら、それを守るのが大人の義務っちゅうもんやろ?)
アニカはスレッジハンマーを掲げてみせた。
「天使だかなんや知らんけど、ここは通さへんで!!」
地獄絵図のような状況を見、ほくそ笑むのは神代将清(r2p000009)。
「感謝します、世界はまた新しい貌を見せてくれました」
手練れの魔術師たる彼は「業務」として人々を守るために魔術を駆使して戦う。放った式神は周囲の状況と将清に伝え、その状況がまた彼には嬉しい。
(あれからですね)
大きな被害を生むと見極めた個体を優先して処理していく。
「お出でなさい但馬守吉綱」
召喚されるのは妖刀。妖刀は薄い笑みを浮かべた将清の前で独りでに宙を舞い、天使を刻んでいく。
ネリス・アルドゥ(r2p000340)は混乱した世界を眺めていた。人狼の姿をまとった彼女はため息をひとつつく。
(人間のために戦うのは気に食わないけれどあの子との約束だからね)
人間を助けてほしい、と願って消えた「あの子」。ネリスはその約束を違えるつもりはない。
愛用の刀二振りを鞘から引き抜くと不敵に笑ってみせた。
「人狼とはいえ狼らしく神砕こうじゃないか」
素早い身のこなしで、襲ってくる天使を斬り伏せていく。「あの子」との約束を守るため。
(正直、今、何もわかっていませんけど!)
五月雨シグレ(r2p001733)は惨憺たる状況を見て、ぎゅっと自分のデッキを握りしめた。
(此処で立ち向かわなければTCGデュエリストとは言えません。何より私のフェイバリットカード、アプローズだってそうするはずだから!)
そのカード、奇跡の創造者アプローズ(r2p003166)は未だ霊体。シグレの傍で、けれども話すことはできず、ただ空を見上げるだけ。
(私が霊体でなければ直接シグレや皆を守れるのに……悔しい。何の為に私は此処に居る……?)
シグレとアプローズの気持ちは次第に重なっていく。
(ううん諦めない。きっとまだ声も姿も届かない。でも……力と想いは届くはず)
(……何故でしょう、どんな武器よりも私のデッキが一番天使と戦える気がする……! 私に力を貸して、皆)
(シグレのカードを媒介に私や皆の力が発動するようにしたい、彼女に戦う力を与えたい……!)
ふわりと風に乗るのは青薔薇の花びら。それは奇跡の象徴、はじまりの合図。
「奇跡を咲かせましょう! お願い、力を貸してアプローズ!」
「勿論、力を貸すよ。私の解放者……此処で君を終わらせるものか!」
シグレのカードが力を帯びる。魔法が、今、天使を貫いた。
執筆:さとう綾子