2052年 - Part3
春の陽気が空を流れ、白い雲を少しずつ動かしていく。
鳥のさえずりが、どこか遠くで聞こえていた。
2052年4月、マシロ市。
地獄のような世界の中で、この街は平和を取り戻している。
神奈川県旧横浜市中区-南区-磯子区を中心に再建されたこの都市は、人類最後の砦であり、魔の城でもある。
ラプラスの悪魔がもたらした異世界の超技術が用いられ、準アーコロジー様に都市内部で生産・消費活動の全てが完結している超越した都市だ。
そんな都市に突如、28年前に座標消失した人々が現れた。それも大量にだ。
それまで都市の中に籠もり平和を維持してきたマシロ市民たちは、時代を超えた彼らの到来に大慌てで駆けずり回ることになる。
だがそれは、新たな物語の始まりであるかのようにも思えた。
気付けば向井 周太郎(r2p002809)は、街の中に立っていた。
記憶を、探る。おぼろげで、しかし徐々に明瞭になっていくそれは、確か天使を相手に足掻き続けるさまだった。
相手の斬首痕のような傷をつける、その瞬間だ。
――最後のお見合いにとんでもねぇのを引いたな。
――どうやら、俺のお迎えの天使はお前じゃないらしいな。美人さんよ……!
されども追い詰められ、トドメを刺されようという瞬間。周太郎は座標消失に巻き込まれたのだった。
「……で、ここはどこだよ。俺はどうした。死んだか?」
その声に、答えるものがある。天那岐 クレイル(r2p002182)であった。
「はじめまして漂流者さん、私と出会って幸運だったね」
訝しむ周太郎に、クレイルは周囲を見回して言う。
「ここはマシロ市。あなたは例の漂流者――フレッシュでしょう?」
それが、光が閉じた未来と過去が交わった、はじめての物語であった。
大量のフレッシュの発生を受けて、小鳥遊 乃絵流(r2p001840)たちは誘導にかり出されていた。
混乱する者。安堵にへたり込む者。誰かを探して叫ぶ者。様子は様々だが、皆誰かの助けを必要としているように見えた。
そんな中で――ふと、甘い果実の香を嗅いだ気がした。
子供の頃、身体相応の歳だった時分に嗅いだ記憶のある香り。
「……なん、で」
そんなはずがない。そんなはずが。
だって、キミはあの日。私の目の前で。
「……なんで、キミが」
「ほーん、タイムトラベラーどもがワンサカ来たってわけ。こりゃ面白い!」
市川 小春(r2p000943)はスマホを片手に笑う。
「怪我人ウジャウジャとか、あたしが忙しくならない限りは大歓迎だね。……っと」
情報の海を更に眺めようとしたところで、コールがかかる。
「今度は何だよ。チクショー、仕事忙しすぎて、お祭りに乗れね~のが残念だわっ!」
小春はスマホをしまい、立ち上がるのだった。
向かってみると、黒須・きずな(r2p002655)がベッドで眠っていた。
気を失ったまま病院施設へと突然現れたのだという。
翼を隠すようにウィンドブレーカーを羽織り、隠しポケットには身分証。表のポケットには好きな楽曲データと最後に撮ったみなとみらいの観覧車の前での家族写真のデータが入ったスマホがある。
そんなきずなは、夢を見ていた。
『目覚まさなきゃ駄目』と、母が告げる夢だ。
ぽろりと涙を流しながら、目を開ける。そこはもう、未来の世界だった。
「クェ」
目を覚ましたきずなを温かく迎えたのはパーチェ(r2p003037)だった。
悲しげな鳴き声に、きずなは目だけを動かしてそちらを見る。
まだ混乱しているからなのだろうか。きずなはベッドに横たわったままだ。
(きずな がんばったから ゆっくりおきてね)
パーチェはその姿を安堵した様子で眺めながら、そんなふうに心の中で呟いたのだった。
ミリ=リトル(r2p000396)は変異体の串焼きを差し出すと、クレジットを出してきた相手に『違う』と頭を振った。
「支払いはこれで。ニンゲン」
指さす先は瓶の蓋。いかにも核戦争で滅んだ世界みたいな貨幣感覚だが、そんなものをじゃらじゃら持ってる人間はそういない。
「後払いも、可」
ミリはそう言うと、串焼きを相手に渡すのだった。
医療施設へと連れてこられた篝火 明日香(r2p000596)。
天使によって滅びた世界……明日香にとっては『異世界』としかいいようがない。
そんな世界をぼうっと眺めている一方、性別が不定である明日香にスタッフが驚いている。
(どうもこの世界において俺は『悪魔(オルフェウス)』と呼ばれるらしい。
馬鹿馬鹿しい話だ。俺は正真正銘の『人間』だぞ?)
などと思いつつ、身を任せていると剣堂 エルル(r2p000305)がふらりと前を通りかかった。
エルルは本人に言わせると究極生命体であるらしい。御主人様とはぐれてマシロ市にたどり着いたエルルは、大量のフレッシュが施設へ案内されていると聞いて様子を見に来たのだった。その中に御主人様がいるかもしれない、と考えて。
だが、その望みはどうやら空振りであったらしい。
(少々がっかりしたけど、まだエルルは希望を捨てないニャン。
いつかご主人様と出会えるその日まで、エルルは気ままに過ごすんだニャン)
マシロ市における子供達の中心地とでも言うべき場所があるとすれば、それは刻陽学園だろう。
学園に通う五月雨 夕(r2p000106)は、突如として増えた学園生徒たちの様子を訝しんでいた。
「中にはボロボロで土埃のような血生臭いような匂いがする人がちらほらいるし。一体何が起こってるんだ……?」
学園の外に出てみると、ウーゴ・ヨシノブ(r2p000610)が人だかりを眺めている。
どうやら寿命を迎えた老樹へ祈りを捧げていた所で、新たに発生したフレッシュの集団を見つけたらしい。
見たことのない服装の人々。安堵に笑う者や、涙する者。怒りに狂う者まである。
「よく分からないですが……」
まるで寂れた墓場で花が沢山咲き始めた瞬間を目にした気持ちで、目を細める。
そんな集団の中に大上 吹子(r2p000618)はいた。
「ようやく生き延びようって思えた所だったのに、一体何が……!?」
頭が混乱する。惨劇の三日目から、突然にしてこれだ。混乱しないほうがおかしいだろう。
(……このままじゃ壊れそう。けど、それだけはダメだ)
頬に触れ、微笑みの仮面を被る。壊れぬように、自分の心を殺すのだ。
そこへ夕が声をかけてきた。
「なあ、何があったんだ?」
「説明しマス」
その場にいたシーナ(r2p001736)が小さく手を上げる。
そのシーナの説明によれば、彼らは2024年のドゥームズデイのおり消えてしまった人々であるという。
シーナにとっては生まれる前の話だ。だがそれだけに、大破局前の世界がどんなものだったのかは興味がある、らしい。
「新しい人、いっぱいデス。私の知る人はいないけど、その人たちの大切な人に再会できたらいいなって思いマス」
そんな様子を、クレストリア=ミユウ=ストレーティア(r2p000578)は少し離れた場所から眺めていた。
生まれた時から人類が大ピンチ、なんて聞かされて、実際に見て育ってきた。
(離れ離れの家族がまた再会して、幸せに過ごせる日が、来ますように──)
ネックレスを握って祈る。突然、近くでがさりと音がした。
「うひゃっ?! なになになに?! ……な、なんだぁ……風が吹いただけかぁ、びっくりした……」
胸をなで下ろしたその途端、再び近くでガザッという大きな音がした。
驚いて振り返ると、恵井 饋(r2p001896)がしげみから生えている。
「これは……何事……?」
――よもや憎き封印が解けるとは。大方、愚かにも長き時を経て封印の理由を忘れ、祈祷を怠ったのであろう…その過ちを悔いながら果てるがよいぞ人間どもよ!
とか思っていたら座標消失に巻き込まれ、気付けばマシロ市。
たまたま人のいない場所に出てしまい『折角封印が解けたのに祟る相手が滅亡済だなんて、そんなのってないよ』と途方に暮れていたところで、クレストリアたちに出会えたようだ。
ほっとしたような、釈然としないような。なんとも微妙な表情である。
ふと見れば、アンムディラ(r2p002199)がのんびりと日光浴などしている。平和そのものだ。
そうしていると、水無瀬 剣(r2p001301)がきょろきょろとしているのが見えた。
どうしたのかと尋ねてみると。
「叔父を探しに来たんです。行方不明者が大量に見つかったと聞いたので。
というより……死んだと言っていた人が生きてると突然母が言い始めたので……」
剣はそのことにどうやら困惑しているらしい。
その一方で、真瀬 優生(r2p002790)がどこか不安そうだ。
「どうしたんだい?」
一緒にいた龍宮寺 蛍(r2n000027)が声をかけてくる。
素直に言うべきか迷ってから、優生は口を開く。
「……私は悪い子です、また食料が減ってしまうのかなって思っている自分がいる。
食べる事が大好きだけどあまり満たされた事がない……。
そんな状況がまた酷くなるのかなって思うとかなり複雑です」
そんな言葉を受けて、蛍は優しげに目を細めた。
「そう思うのも無理はないよ。けれど、大丈夫。なんとかなるよ」
根拠こそなかったが、優生は蛍の言葉に僅かな安堵を覚えるのだった。
マシロ市近辺。見ようによってはマシロ市内とも言える場所。
新嶋 瑠羽(r2p002195)は外からサヴェージなどが入り込んでいないかを確かめるべく仲間達と共に探索を行っていた。
「だ、団体行動は苦手ですけど……最重要、との事ですし。うん、頑張らないと。──うう、緊張する」
そう緊張せずに、とレネ・クルジス(r2p000639)が微笑みかける。
マシロ市はこのときまで、外へと打って出るという行動を起こしてこなかった。それは軍事力の拡大や生産力の安定に力を入れ、外へ出るには時期尚早だと考えていたからだと聞いていた。だがフレッシュが大量に現れた今、生活圏の拡大のために外へと打って出る可能性はある。
「レネさんは外に興味が?」
「この世界の人々にはお世話になっています……というより、私もオルフェウスとはいえほぼこの世界で生まれ育ったようなものですし。外へ打って出るなら喜んで参加しましょう」
(それに……天使と化したお母様を探すのにも好都合ですしね)
内心でもう一つの理由を呟きつつ、頷く。
一方で、倭 晃堂(r2p002721)が周囲を警戒しながら呟く。
「安心せよ。おれも一軍の将だった男よ。天使どもの尖兵程度なら朝飯前、だったんだがなぁ……武具は無くなるわ、力も……めっきり落ちているのを感じる」
安心せよと言っておいて、すぐにがくりと肩を落とした。が、それは一時のことだったらしい。
「やれやれ……面白くなりそうだな、まったく! 天つ風の吹くまま、出たとこ勝負で参ろうか!」
『こちら』の歴史も悪くない、などと呟きつつ顔をあげるのだった。
四月八日は桜庭 もみじ(r2p000486)の誕生日だ。
「ケーキ食べれるかな?」
独り言のように呟き、誰もいない通りを歩く。
「もう中学生なんだから、ケーキと一緒に紅茶を飲まなくちゃ! オトナのたしなみだね!」
などと誰かに話しかけるようにしながら、裏路地へと進んでいく。
これから始まる中学生の生活に、期待を膨らませながら。
「綺麗な、花だ」
黒(r2p000714)はソメイヨシノの木を眺めていた。
マシロ市にも桜の木は存在する。ドゥームズデイの折に多くが燃やされその後も色々あって数が減ったと言われる木だ。
「……あまり興味がなかったけれど」
大きく育った大樹で無くとも、楽な生育でなかったとしても。
きっとその花の美しさは、生命の美しさは、変わってはいない。そう、黒は思うのだった。
執筆:黒筆墨汁
●20XX年
メルナ・イノセンテ(r2p002120)はその日も天使を狩っていた。昨日も、明日も、きっとこの先も命尽きるまで狩り続けるだろう。
(だって、生き残っちゃったから)
今日狩った天使も、いつかは『誰か』だったのだろう。もしかしたら見つかっていない『兄』かもしれない。
けれどそう思うと同時に、諦めきれない自分もいるのだ。
――ここまでずっと見つからなかったのに?
「お嬢さん、どっか怪我でもした?」
声を掛けられた、と気づいて顔を上げると、1人の男が笑いかけた。軽薄そうな雰囲気に、メルナは足を1歩引く。
「泣きそうな顔してたら気になるっしょ。話聞こか? ほら、身近だと言いずらいじゃん」
さらに引かれようとした足がぴたりと止まった。
そう、私は誰かに吐き出したかったんだ。抱え込むには誰だって限界がある。
その様子に笑みを深めた彼はフェルディク・ルブリザード(r2p002689)と名乗った。
「お茶でも飲んで落ち着こっか。奢ってあげる」
そして弱った心へ優しく囁くのだ。
大切な人を取り戻す方法があるとしたら――どうする? と。
●2052年4月3日
――気のせいかもしれない。
風見 鋏(r2p000938)は駅前へと向かっていた。目印に花をかたどった小さなアップリケ。気づいてくれたらいいのだけれど。
夢の中の出来事だった。けれど妙にリアルだった。人によってはこれを『予感』と言うのかもしれない。
会えるかな。
会えないかも。
今日会わなくても別の日に会える気もしているけれど、今日会えたらいいなと、思っている。
日課の念仏を唱え終えた鴉凰寺 九朗(r2p000865)はニュースの音に耳を傾ける。
(過去からのタイムトラベル……ねぇ?)
最近はフレッシュと呼ばれる人々のことばかりだ。
「末法の世よりは、仏さんの極楽浄土に行ってた方が良かったんじゃねぇかとも思うんだけどな」
わざわざ平和とは縁遠い場所へ連れてくるとは、この事象を何者が起こしたかはわからないが物好きなものである。九朗はそう思いながら武器を取った。
「アーリーデイズ、ね」
結城 遊紗(r2p002026)はカードをぺらりとめくって眺める。
遊紗にとっては生まれた時からこの世界は戦場だ。平和な日々など程遠く、自身にはあまりにも関係のないことで。
(息巻く人の熱にあてられないようにしないとね)
夢も、希望もいらない。それは弱さを身に着けることだから。
人類のすべきことはたったひとつ――天使を殺すことだ。
「あーやだやだ。今更大破局前のぬるま湯ちゃぷちゃぷ勢がこんなに押し寄せて何になるですか」
エマ・グレイス(r2p002715)は冷ややかな目でニュースを見ていた。大量のフレッシュ、受け入れる人々。彼らがこの時代で何を成せるというのだろう?
(ほんとやってらんねーです。エマの食い扶持だけはへらさねーでほしいですね)
しかし中には、その時代をうらやむ者もいる。
「市外、かぁ」
イグニア(r2p002733)は公園でぼんやりと『外』の方を眺めていた。
生まれた時から世界はこうなっていたから、自分の足でマシロ市のずっと外の方なんて行ったことがない。行けるわけがない。
「……はぁ~、将来旅行ってのを経験してみたいもんだ」
今の彼女は、いや今の人類は籠の鳥だ。マシロ市という籠に押し込められている。
けれど――いつか。もっと広い世界を見ることができるだろうか?
「今日はゆっくりできそうだね」
泉 行成(r2p001315)は連れの手を握って歩く。
天使と戦う日々に生まれた、少しばかりの余暇。もしかしたら次の瞬間にも天使出現の報が届くかもしれないが、ならば猶更、今のうちに休まないと。
ふ、と意識が浮上する。月宮 信(r2p000575)は視線だけを周囲へ向けた。
「ここは……」
体が痛かった。近くにいた――看護師だろうか――女性が気づいて歩み寄ってくる。
「今は、何日ですか」
その日付だけを聞いて、そんなに日は経っていなかったかと安心する。日が立てば立つほど、状況は変わっていくだろうから。
しかし女性は複雑な色を浮かべ、言葉を選びながら彼に状況を伝え始めた。
「僕も……能力者として戦えますか?」
立ち上がらなければいけないと、思った。
人々を守り、故郷である京都の今を確かめ、なにより自身の望みを叶えるために。
「……ここはどこだ?」
どこかの一室。大磨上 無銘(r2p002180)はゆっくりと見回す。見覚えはない。
いや、それどころか何も思い出せない。
(僕は……いや、私、か?)
一人称は、口調は、服装は。全て彼女の影響で――『彼女』?
「やれやれ、天気のように予測できないね」
扉の開けられる音、直後の声に振り返る。按摩流(r2p002659)は怪しい者じゃないよと微笑んだ。
「私は目が見えなくてね。フレッシュのひとだろう? K.Y.R.I.Eの人が来るまでマンションの会議室で休んでくれていていいよ。
ああ、会議室に給茶機があるから、お水くらいなら飲んでくれて構わない」
大したものは出せないけれどね、という按摩流。その姿は中学生ほどにも見えるが、なぜか年上のようにも感じさせた。
無銘はその背中を見て、ついていくことを決める。どうせ何もわからないのだ――大切なものを全て失ってしまった、ということ以外は。
漠然とした予感と、胸に大きくあいた喪失感。それを感じながら、無銘はこの世界での1歩を踏み出した。
佐々木 祓蜜(r2p001457)は死んでしまったのだろうかと目を瞬かせた。
知らない場所。だが地獄と言うには文化的にも思える。
その中に見覚えのある姿を見て、祓蜜は目を丸くした。
「京雅!」
「祓蜜? 祓蜜だ!!」
斉賀 京雅(r2p000579)は彼の姿を認めた途端、鳴きながら走り寄ってくる。
(ああ、もう怖くない)
あの時、親友たちが相次いで消えていった。家族も顔見知りもバラバラで、何処にいるのかもわからなくて。
けれどこうして見つかったから、さっきよりは怖くない。
「俺は大丈夫だよ、だからそんな顔をするな」
祓蜜にも京雅にも、ここがどこだか見当もつかない。まずは人を探さなければならないか。
「兄様! 蜜くん!」
駆け寄ってくる斉賀 京寿(r2p001292)の姿。兄がしゃがんでいることに内心首を傾げるが、まずは合流が先決だ。
(それにしても、ここはこんな感じだった? なんだか雰囲気が……)
見覚えがあるような。しかしそれにしては違和感がある。そんな場所だった。
「え?」
蜂蝶 刃早美(r2p000126)は自分に何が起きたのか理解できなかった。
家族が一緒だったはずなのに。
避難所に入ったばかりだったはずなのに。
「だって、ええ? ココは何処で、僕は今、何……?」
わからない。
わからない。
ここは何処なのか。
道行く人は人なのか。
僕は。
「い、今……僕は、……僕なの?」
呆然とする彼に泉 森夜(r2p003152)は大丈夫ですかと声をかける。
「泉 森夜と申します。怪我はありませんか? 落ち着ける場所で手当てをしましょうか」
話を沢山聞けるチャンスと思ったが、目の前の彼は混乱しているようだ。まずはこちらに害意がないことを示さなければと、森夜は献身的に彼を世話し始めた。
ジャッ、と炒める音が響く。Ⅷ(r2p001956)はいつも通り中華鍋を振りながらラジオの音を耳にしていた。
――が、ふとその手が止まる。
突如出現した人々。それらは過去に消失した者だったという報を暫し聞いて、Ⅷは再び料理を再開する。
中華料理屋の光景は変わらない。けれどそこにフレッシュがやってきたのなら、まかないのひとつも食べさせてやるか、なんて思うのだ。
中華街を歩く龍 飛鳥(r2p002083)。治安維持の一環だと歩を進める彼女の耳に、ドゥームズデイの話が滑り込んでくる。
(確か天使が最初に現れた日だったな)
飛鳥が生まれた時から世界はこうだったから、あまりそのあたりはしっかり覚えていない。改めて後ほど"親父"に聞いてみてもいいだろう。
「……ん?」
人だかり。中央にいるのはどことなく周囲と雰囲気の違う人間だ。
その中心にいた人物――ダリオ(r2p002917)はぽかんとその光景を眺めるしかできなかった。
ここは、何処だろうか。
私は、何者だろうか。
この場に血生臭さはなく。しかし見覚えのある場所でもなく。また別の、悪い夢の続きを見ているのだろうか。
「おい、誰か……私も困っているんだ」
何か成すべき大事なことがあったはずなのに。自身の記憶もなければ、此処が何処かすらもわからないのだから。
周囲だってダリオに困惑している。しかしその集団の中から飛び出してきた水原 ちまき(r2p000388)は臆することなくにこりと微笑んだ。
「まずは可愛いあたしを見て落ち着いてください。混乱するのも無理はありませんよ」
真実を明らかにするため、ちまきには取材を続ける使命がある。
「落ち着いたら最初の質問をさせてください。
――あなたはどこから来た存在でしょうか?」
執筆:愁
●2052年
「……」
織緒・チェレスタ(r2p000094)は、部屋で静かに、作曲に取り組んでいる。
「そういえば……もう、四月、なんだ。
たしか、大変なことがあったんだよね……ずいぶん昔に」
昔。そう、『今から見れば、それはずっと昔の出来事だ』。破滅が起きたのは、もうずっと昔の事なのだ。
「……唐突に死んでしまったり、
天使になって無念な人達の、
大切な誰かを失って生きる人達の……。
悲しみが……癒せますように……」
そんな曲を。考える。
篭谷 稔(r2p001330)は、公園のベンチで読書をしながら、無邪気に遊ぶ子供たちへと目を向けた。
この子達もヴァニタスなのかな? そう考える。
もうすぐしたら戦いに出るのか、と。稔も10歳からK.Y.R.I.E.で戦ってたから。
皆を守る為に頑張らなくちゃいけないんだ。それは、応援の言葉とも、決意の言葉とも取れた。
(わたしはドゥームスデイのあの日を知らないから幸せなんだって。
お兄ちゃんが死んだ時も知らないから幸せなんだって。
だからずっと笑っていなくちゃいけないんだって)
公園の片隅で、哀しい少女は笑う。
マーガレット・スミス(r2p000905)は、微笑む。悲しい微笑みを。生きるために。家族のために。かくあるべくために。全てを塗り撫して、微笑んでいる。
「……いらっしゃい」
そう、日蜂 蓮(r2p001041)、独りが営む、喫茶店。
そこに現れた客は、混乱と恐怖の混ざった、何ともぐちゃぐちゃな顔をしていた。
「ここは、どこですか」
そう、客は言う。蓮は少しだけ、息を吐いた。
「どうして……何が……何が起こってるの……!?」
セリエラ・ギリエ・メリシエル(r2p002789)は、真っ赤な夕暮れの差し込む部屋から、外を眺める。
人がいる。たくさんの。テレビから、アナウンサーの声が響き渡った。
「2024年に忽然と姿を消した人々が、突如として帰還しました――」
セリエラはフードをかぶって、羽を隠して、外へと踏み出す。
――無数の人たちが、街には息づいている。
マシロ市。人類の生存圏。
「……なにか、騒がしいの」
独り埴輪を拝んでいた城崎・桜狐(r2p000096)が、小走りで――時折転びそうになりながら――神社の外に出てみれば、町はずいぶんと騒がしいようだった。街には見知らぬ人々が、混乱の様子をさらしている。
「つまりその……今は2052年で……」
橘花 玲璃(r2p002634)が、転移してきたばかりの影宮 執花(r2p002142)に必死に説明しているのが見える。
「えっと、その、死にたく、ないです……でも……!」
わずかに敵意をみなぎらせるのへ、玲璃は慌てて両手を振った。
「そ、そんな物騒な所じゃないから!」
「おかしいのです。何かの間違いなのです。
「トリック・オア・トリート!」と言えば甘いお菓子をくれるとお祖父様は言っていたのです~!」
そう叫ぶのは、クラウドリン=ホロウプリンセス(r2p002973)だ。フレッシュではないが、近い時期にこの世界にやってきたオルフェウスなのだろう。
クラウドリンが、この世界の実情を知るのは、もう少し先だ。お菓子のために戦うことを決意するのも、きっとその時。
「2052年……ここが……」
五辻 縁(r2p001802)が、静かにつぶやく。あの時、人々を助けようとした。それは力及ばず。そのまま、縁は、この時代に飛ばされた。
「……まだ、私にはできることがありますから」
意思を新たに。街を見上げる。
外からは、防災無線の音が響いている。Tsugumo=Athanasia(r2p001194)はそれをタブレットPCにまとめながら、マイクに向かって放送を続ける。
「うーん、なんかいろいろ大変ダネ♪
この放送を聞いてる人たちは、冷静に行動してネ~」
そんな放送が聞こえる室内で、藤堂 晴輝(r2p002687)は鳳蝶(r2p002339)の体をゆさゆさとゆすっていた。
「蝶ちゃんおきてーもう朝だよー……。
って、起きないよなあそうだよなあ。蝶ちゃんがさっと目覚めてくれるわけないんだ」
そう言いながら、むぅ、とほほを膨らませる。
「朝ごはんできてるからね。先に学校行くよ」
そういった晴輝に、鳳蝶は、
「んう……んー……。
はるくんの声は怒っていても優しくて、ついムニャムニャ……」
とぼやぼやとした声を返す。
マシロ市を歩くエデッサ(r2p001613)は、異界からの来訪者であるが、この時代に生きるものだ。
「もとのせかいにくらべると、てんしがいても、ここはこわくない、いまは、ね」
そうやって見上げる街の光景は、なんとも平和で、平穏なものである。そんな街角には、ポンタ(r2p002843)の姿もあった。
「ふーん……本当に当時そのまま跳んできた感じなんだ。ははっ面白。
もう大騒ぎなんだよ? 君みたいな人達がいっぱい現れてさ」
であったばかりの『フレッシュ』へと、桟原 紗穂(r2p001695)は笑いかける。
「私、刻陽学園高等部、もしくはK.Y.R.I.E.の桟原紗穂。
まあ、気軽にさじ子って呼びなよ。
せっかく会えたんだもの。仲良くしたいじゃん?」
Altun-Ha Narcissus(r2p001394)にとっては、ようやく取り戻した平穏、ともいえる。長く戦ってきた『ヴェテラン』である身は、ここにきてようやくの休息を得ることができた。その様に、思う。
「ようやく日常という言葉を使えるようになった気ぃする。
……以前とは全然ちゃうけどな。
気になるのは全てを無にした日と同じ季節が巡ってきたからやろか」
四月。あの、終わりの日と同じ、春。
「なんかちっせぇのが落ちてんな。
オレ、肉が欲しいンだが?
―――人とか拾いたくねぇんだが??」
Noah=Hadley(r2p001449)は、めんどくさそうな表情でそれを見た。思いがけない広いものは、果たして何をもたらすのだろう?
街のあちこちで、フレッシュたちと、ロストエイジたちの邂逅は始まっていた。
「アクタ! 大変! 飛んできた人!」
「おいまて、未だ着換え中なんだって!」
試着室をがばっと開けた明星 和心(r2p002057)に、アクタ・センリ(r2p000021)は抗議の声を上げる。
「って、マジか!? 仕方ないな、困ってる奴を放って置くなんて格好悪いもんな!」
慌てて服を着こんで、飛び出した。和心が楽しげに笑って、
「なんかただ事じゃなさそうだしぃ? でも、いつもの任務と違ってちょっとワクワクするかも!」
そういう。
街中に一人。綾瀬 久遠(r2p000480)は、転移した直後にたまらず座り込んだ。
誰かの声が聞こえる。大丈夫か? 転移してきた人か? 等。
その声も遠い。壊れた心は、絶望と恐怖にも、涙を流せずにいる。
「おお、またあたらしいひと!」
パトラ・マウミウ(r2p002982)は、その姿に目を輝かせる。
「わっちの『お宝コレクション(旧世代の遺物)』の価値が超絶高騰! するかもなんだにゃーん!
いろいろ情報しいれなきゃ!」
パトラがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、人垣をのぞき込んでいる。
サガラ(r2p001075)はそんな人垣をしり目に、いつかの戦果を思い出していた。天使を殺す。それを続ける。今のサガラにとって、それがすべてだった。
フェル・リオット(r2p000304)にとっては、帰還者たちの存在は、喜ばしさと不安感をもたらすものだった。
「うー、ごはんごはんごはん……。
人が増えてかいたく……的な事をしないと、ごはんが食べられなくなるって噂が流れてたけど、本当かなー……」
都市のリソースを、急に消費するものが増えたのならば、それは考えなければいけないことなのかもしれなかった。
「食べ物とかの前に、この書類を何とかしないと……」
市民課のデスクで、銀花(r2p001566)は大量の書類を前に涙目になっている。人が増える。ということは、公的文書もふえる。当然ながら。
つぎのかたー、と、受付担当が言っているのが聞こえた。また、新しい住民が増えるのだろう。喜ばしいが。
「し、仕事が増えるのはしんどい……」
銀花がデスクに突っ伏した。
その受付では、
「クリスタル、とりあえずこの場所の入管手続きをせねばならぬ……というわけで、ここに来たわけじゃが」
「私たちのような身分がわからない人が入場出来ればいいですが……」
と、アッシュムーン・セラフ(r2p001228)とクリスタル・ファイアヘッズ(r2p002804)がうなづきあうのへ、受付の担当が笑う。
「ああ、オルフェウス……異世界からの方ですよね。大丈夫ですよ。そちらの方は……」
そう、視線を送ると、そこには憔悴した様子のコミュニ・セラフ(r2p001168)の姿がある。あれだけの事件のあとだ。冷静でいられるほうが難しいだろう……。
様々な人々が、ここ、2052年で、新たなスタートを切ろうとしていた。
アモーレ グスターレ(r2p001456)は、屋敷のベッドで目を覚ました。ヴァニタス化によって手に入れた、健康な体と美しい羽根。それは、不謹慎と言われようとも、アモーレにとっては幸福に間違いなかった。
「くぁー、暇じゃのう。
街の方はなんだか騒がしいようじゃが……」
ミサマ・クロノカ(r2p001717)がそういうのへ、答えたのはアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(r2p000132)はうなづいた。
「ええ、なんでも、過去の時代の方たちがやってきたとか」
「なんじゃそら、大変じゃなぁ」
「ええ。ですが、フライングパスタモンスター様の加護があれば、パスタがあれば、分かり合え、友誼と愛を紡ぐことができるでしょう」
そう、アンジェリカはにこにこと笑ったので、ミサマはもう一度あくびをした。
ミーナ・シルバー(r2p000068)は、『帰ってきた者たち』という言葉に、チクリと胸が痛んだ気がした。
(ああ、あのバカのせいで私の人生はめちゃくちゃだ。
私を産んで、私を置いて戦いにいって、帰ってこないバカ。
アイツのせいで、私の背には翼が生えた。
アイツのせいで、イライラする)
そう、心の中で叫びながら。マシロ市を、走る。
「お兄ちゃん。なんだか、見たことない人がいっぱいいる……気がする」
不安そうに、小さなロボットを抱えて、瀬田松 柚(r2p002336)は言葉を紡ぐ。多くの知らない人たちが、たくさん、たくさん。やってくる。
セフィラ・新樹(r2p002822)は、たまたま出たマシロ市の街で、多くのフレッシュたちを見かけていた。
「……あの方たちも、K.Y.R.I.E.に……?」
そう、つぶやけば、K.Y.R.I.E.への機体と感謝の気持ちがわいてくるというものだ。自分たちの手の出せない、バケモノたちを。討滅する、英雄たち。
「どうか、私達を助けてください。そのためなら、私達も力を尽くします……」
そう、祈るように、願う様に。
「やぁ。落ち着いて、怖くないよ」
そういって、ルイス・モンドトーン(r2p003084)は、出会った『フレッシュ』へと手を差し出した。
「今は2052年だ。天使は居るし、世界は滅びた。
でも大丈夫、今の君と同じ状況の人は、他にも沢山いる。君をサポートしてくれる人も沢山いる。
さぁおいで、行こう。君のことが知りたいな」
そう、新しい隣人を、受け入れる。
クロード=スノーホワイト(r2p002229)は、体力強化のために街を走っている中で、何度もそんな光景を目にしてきた。新たな友を、受け入れる。光景。
「……」
ふ、と息を吐いた。彼らを守るためにも。天使を狩る。戦わなければ。そのためにも、クロードは体力をつけるべく、走り出した。目的地は、学園だ。その学園のカウンセリングルームでは、白詰草 イズル(r2p002256)は、疲れ切った表情の『フレッシュ』へと笑いかけた。
「……成程ね、『桜に攫われた』ってところかな?」
彼らの心のケアをしなければならない。まだ、心に深い傷を負っているであろう、彼らの。そのために、イズルはその身を尽くすことに決めた。
「よう、先生。お届け物だ」
黒百合華 冬夜(r2p002257)が、そう声をかける。
「転移者たち。連れてきたぜ」
「有難う、運び屋さん」
イズルが笑う。冬夜の背後には、不安げな表情のフレッシュたちの姿があった。
「安心しな。ここもそう、悪い場所じゃない」
冬夜が笑いかける。ここより良い場所など、この時代にはそうそうないだろうが。
「きゃはははは!
モブがいっぱいポップしてきてるんだけど何アレ! マジうけるー!
今日ってこの世のメジャーアップデート日だったのかな?
じゃじゃーん、新章開始! みたいな!」
愉快気に笑う紫藤 緋色(r2p000961)。街には多くの人々がごった返している。その中には、転移者たちも無数にいるはずだ。
「ふーん? ヒロの言う新章っての、遠からずみたいよ。
大破局の日から飛んできた? とか? 意味わかんないけど。
なんかあるんじゃない? 上の方から」
そういう紫藤 藍華(r2p000960)が、注意深く辺りを見回した。見覚えのない人間は、きっとすべてがフレッシュなのだろう。彼らの登場は、果たして何をもたらすのだろうか?
さて、そんな人々から姿を隠すように、卜部 ウララ(r2p001101)は、紅潮した頬をすぼませて、いささか熱のこもった息を吐いた。
転移、と聞いた。未来への。だが、ここへ来てから、どうにも、体がおかしい。
「転移の、影響……?」
妙に熱い体に恐怖と混乱を隠しながら、ウララは隠れ潜むように街を進んだ。
「死んだ、んじゃ、ないのか……?」
混乱の沈むフレッシュがまた一人。天霧 絆(r2p002895)。自分はあの破滅の日、天使に襲われ……。
「生きている、のか……?」
現実感のわかない感覚を覚えながら、ぼんやりと、絆は空を見上げる。
「うーん、なんだかすごい騒ぎ。悪いことする人がいないといいけど……」
パトロールがてら、桜川 夢姫(r2p000641)が街を散策する。どこでも見る光景。何度も見る光景。帰還者たちの、呆然とした表情。
「取り合えず、良くいくスイーツ店から見回りしてこ!」
少しばかり慎重になってもいいだろう。今日は奇妙な日であることに変わりはないのだから。
フレッシュではないが、ベスティア・チュトラリー(r2p000082)にとっても、混乱のさなかにあることに変わりはなかった。
「ここはどこなのですか?
私は誰なのですか?
解らないのです……先輩……助けて……」
つぶやく先輩も、誰なのかわからない。
解らない。わからない。あまりにも、怖い。恐怖が、体を蝕もうとしている……。
『いいな、あの人達は再会できたのかな、自分の大切な人と』
そう、つぶやく百合垣 純哉(r2p002190)は、抱擁を重ねる人たちを見つめていた。
そんな視界の端に、不安そうな子供を見つけたから、純哉は優しく、声をかけた。
『どうしたの? 誰かと逸れたの?
……そう、パパと、ママと。
じゃあ、一緒に探そう。大丈夫だよ』
寂しい思いをするのは、自分だけでいいと。そう、思いながら。
「ほう、かつて死んだと思われていた者達が戻ってきたと?
それは朗報! やはり戦う仲間は多いに越したことはないからな!」
志岐ヶ島 吉ノ(r2p000431)が笑ってそういうのへ、夜白 サクヤ(r2p001196)は、得意げに鼻を鳴らして見せた。
「ふふん。先輩としては、いろいろ導いてあげる必要がありそうね!」
すでに戦闘経験もあるサクヤにとっては、急に現れたフレッシュたちなどは、経験のない後輩のような気持だろう。
「それにしても、ターゲットにも飽きてきましたわね。もう少し手ごたえがあるといいのですけれど?」
「まぁ、そういうな。平穏であることは悪くあるまい」
吉ノが言う。
「それに、そういう悲劇がありました~、と言われましても。わたし、変容前のセカイを知りませんからどうしても他人事です!
そんなことよりおうどんたべたいです! うどんげ? という華からとれるという!」
それは全くの間違った知識であるが、なにか堂々とシェオル=ゲーヒンノゥム(r2p001720)がそういうので、二人もなんかそういうものか、という気持ちになってきた。
「あ、あの!」
そんな二人に、唐突に声がかかった。
美堂 華音(r2p000673)の姿だった。
「バ、バンドのメンバーを探してるんです! い、一緒に、一緒に着てるはず、なのに……!」
混乱した様子の華音。そして、混乱を見せているのは、華音だけではなかった。
「ね、ねぇ、冗談なんでしょ?! い、インターネットもおかしいし……に、2052年? そんなこと……!」
猪市 鍵子(r2p000636)もまた、混乱と困惑の中にあった。知っているものが何もない。必死に探しても、知っているものの一つも見つけられない……。
さて、何から話すべきか。ロストエイジたちは、幸運にして哀れな帰還者に、かけるべき言葉を考える。
「やったぁーーー異世界にこれたぁーー!!
これは事故。私の意志じゃないからお姉ちゃんもきっと怒らない!」
学園の校庭で、平坂 あすか(r2p000919)は胸を張った。
「さあ来なさいカミサマ! 私に力を――って感じの世界じゃなさそう。
っていうか、どこだろここ? お兄ちゃんのいる異世界でもないし。
ま、いいか。まずは人がいる場所を探しましょ。
私の伝説は今、始まった!
ヒャッハァーーー!!」
飛び出す。駆けだす。新たなるスタートの始まりを告げるように。
「今日も元気に――アット・リスタート!」
アトリ・御巫(r2p001372)の声が響いた。リスタート。新しい始まりを。大丈夫。笑顔でいれば、きっと世界は取り戻せる!
(嗚呼、やっとだ。あたしはこの刻のために)
教室の片隅で、ジィー・ベル(r2p000845)は虚空をにらむ。
始まる。物語が。自らの存在意義を取り戻す戦いが。人類の栄光を取り戻す物語が。
始まる――。
ここに。
執筆:洗井落雲