遡上作戦報告書01


 慌ただしく走り回るK.Y.R.I.E.総合戦略企画部の面々は『大岡川源流域遡上作戦』より帰還した能力者達の戦況報告書を纏めているようだった。
 地理的変化を大きく帯びた事で陸上行動をする上では枝分かれした川が根岸湾へと接続し始め、これまで近郊地域として活動域であった緑化廃墟地帯磯子方面も様変わりしていた様子が見て取れた。
「大岡川をKPA-05AB・カロンカロンっちで進んでみたけどぉ……変異体サヴェージが居るのは予想通りだったよねぇ!
 自由な動物ってより、あからさまに人類に敵対的だったのが気になるかもしれないけど……ジェネラルダックは撃破完了だしぃ!」
 そう快活な声を響かせたのは明星 和心(r2p002057)であった。その報告を受け「無事で何よりです」と胸を撫で下ろすのはK.Y.R.I.E.人事統合部の指揮官である嘉神 ハク(r2n000008)その人だ。
「橋頭保確保までこの調子が続くようだと障害が多そうだ……とはいえ、成功させないとボク達がジリ貧なことになる。
 進むならば確定させたルートを一気に遡上、それから原流域周辺の橋頭堡設立、になるのかな」
 悩ましげに呟く鳳 菖蒲(r2p000556)その人も天使イレイサーによる多数の妨害を受けた。
「ん~……、天使イレイサーから……お話聞けたら良かったけどぉ~……。
 リル達と、お話してくれなさそうだったよねぇ~……。何が目的だったのかなぁ~……?」
 こてりと首を傾げるヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)。水上戦のみならず空中戦をも意識して天使との戦闘を乗り越えてきたのだそうだ。
「ただいま、皆! チョコミント探検隊は川に住んでるイカと戦ってきたよ!
 やっぱり環境変化で存在する動植物も大きく違うんだね。あのイカが居たのは、多分……港南区の旧日野インター付近なのかな?
 広めの湖って感じに変化してた感じがするかも。昔の高速道路とか崩壊しているから場所の目安が付けやすいね」
 うんうんと頷いたのは甘咲 セララ(r2p000056)。まさかのイカとの接敵ではあったが、そのお陰で情報収集は捗ったようでもあったか。
「サメと蜘蛛を混ぜ合わせたような変異体撃破を致しましたの。先遣隊として情報収集もしましたわ。
 類似種がまだ周囲に存在している可能性があるかと思いますわ。どうやら、川が枝分かれて離れ小島になって居る部分に棲んでいるのは確かでしょうけれど……」
 エリアを理解しておけば適性対象であるスパイダーシャークを避けて橋頭保設立、その後の補給線確立はできそうだと桐枝 ミント(r2p000347)は語る。
「成程……。この辺り――港南中央付近は川の枝分かれがあるのでしょうか」
 とんとんと周辺地図を指さすハクに「確かにすごく違っていた感じがしますね」と神代 くるみ(r2p000888)は地図をじっと見た。
「河口の広さもさることながら海の様に広い、と錯覚する部分もありました。
 何せクジラが住んでいたりしましたし……本当に環境変化は凄そうです」
「川と言っても、水深も深い部分があるように思えた。横浜だけでもこれだ。日本という範囲に広げれば環境は大きく変わって居そうだな……」
 漸くの遠征に期待を抱く半面、佐々木 祓蜜(r2p001457)は変異体が狂暴化している気配を感じ取り警戒を強めたか。
「大きな環境変化に、存在する変異種たちの種別も豊富になった、ですか……。
 これまで活動していた緑化廃墟地帯以外の地形変化と直面する可能性もありますね」
 ハクは報告に訪れた能力者たちを眺めてから資料をインプットした端末を一瞥した。
「データ保存完了ですの!」
「ありがとうございます、V.A.L.K.Y.R.I.E.ヴァルキリー。……これからのことを考えると気が重くもありますが。
 先遣隊として作戦派遣された皆さんが無事に帰還してくれた、それが一番ですね」
「そうですの! でも、まだまだですの。学園祭もありますの。楽しむためにもみなちゃまの帰りを待ちましょう!」
 明るい声音を発するヴァルキリーにハクは「はい」とぎこちなく笑った。
 ――作戦報告はまだ続く。陸上変化が夥しいという情報の片鱗が伝えられ始めた。
 果たして、先はどうなっているのか。それはまだ想像もつかない。