遡上作戦報告書03
明日は刻陽学園の学園祭が行なわれるのだろう。浮き足だった気配を感じ取りながらもK.Y.R.I.E.の総合戦略企画部面々は能力者達の報告に耳を傾けた。
「驚いた。先遣隊の1人だったけど、旧世代の能力者が外で情報収集をしてただなんて。
私達以外にもコミュニティとかあるのかなぁ? ……此の辺りにはなさそう、だけど、どこかに――」
それはある種の期待でもあっただろう。呟く安達 陽和(r2p000928)は「その為にも頑張らなくっちゃね」と明るく笑みを浮かべてみせる。
「卑劣な敵でしたよ! だって、毒! あんな毒! お手上げになる所でしたよ!」
わざとらしい仕草で汗を拭った葉許 譲葉(r2p004149)の手にはカルマたん――ぬいぐるみの名前だ――が握り締められていた。
非難がましく告げる譲葉ではあるが「でも勝ちましたしね!」と明るく笑う。頷くのはこの大規模遠征で同時に派遣されていたという能力者達だった。
「先んじて帰還出来ていたようで何よりです。お怪我の具合はいかがですか?」
穏やかに声を掛けた音無 沙織(r2p000458)。異世界からの敵対者と相対していたという彼等を窮地より救えたことはマシロ市の保持戦力の保全にも繋がったと安堵を覚えた事だろう。
きっとそれがアザーバイド・メタル・ビーストと名乗った存在なのだろうと沙織も報告の場で耳にする。何らかに率いられた一団という事か。
「実力の程を見る――とも言われたが……」
二遠(r2p002251)はさて、それが如何した意図であっただろうかと考え倦ねる。
それは個体としての意思であり、何らかの組織的な考えではないと思えてならないのだ。どちらかと言えば能力者をただ、試していると言うだけなのかもしれないが……。
「変異体ではなく介入階級とはな。暇潰しだと言って居たが、これだけ多数の目撃報告がある。
此方の出方を確認していたか……脅威度を判定していた可能性もある、か」
渋い表情を見せる東雲・春斗(r2p000531)に沙織は頷いた。介入階級の出方には気に掛かる部分が多い――が、敵は何もアザーバイドだけではない。人類を明確に敵対視する大天使級が天使級を率いている例も目撃されていた。
漸くの攻勢。泉 透夜(r2p002451)はマシロ市という箱庭での生活にも満足はしていたがフィールドワーカーとしての血が騒いだのだろう。
遠征に意欲的であり、保護すべき子供達を守るという絶対的指針を前に懸命にその身を盾としたそうだ。
シューヴェルト・ルビーブラッド(r2p000582)は先程、相対した天使の姿を思い浮かべる。それは脅威と呼ぶに相応しかっただろう。
「ビアレと名乗る天使と、出会ったが……。羽付きの怪物の抵抗は激しかった。苦戦を強いられたがなんとか勝利できたな」
「こっちも初実戦の子が多い戦場だったけど旧世代として、良い所見せれられたかなァ」
にまりと悪戯めかして笑った倉本 有希(r2p000043)。28年の時間は実戦経験や勘を培ってくれると同時に過去を思わせることもあったか。
(……いつか俺が呼ばれたはずの場所――)
皆と同じように取り戻す戦いを行なうが為にフォートレス Mk-Ⅳ(r2p001532)も前を向くことを意識し始めた事だろう。
幸糸(r2p000794)はと言えば、金沢地区へと向けた進軍にも思うところがあったのだろう。無事の勝利は喜ばしいが嘗ての光景を思い出せば目眩も覚えよう物。
「……過去は、所詮は過去だったのかしら」
「それでも、過去を拾い上げて前に進むのが今を生きる者でござりゅよ」
えっへんと胸を張って見せたのは兎神 ウェネト(r2p000078)。思う事があるのは皆同じ、それでもとこの作戦を遂行したのだ。
「そうね。かにすけの為にも」
「ああ、過去は忘れるべきだ。大岡川周辺の龍脈を破壊して回り、横浜ナイル川計画を立てて居たことは横に置き、蟹を食うべきだろう」
共闘を行なった変異体の頼みを聞いて思う存分に蟹を食べてきたエミリア・マクロプロス(r2p003477)はその蟹を悼むように目を伏せる。
同じく蟹を味わい尽くした油圧 ワニファラオ(r2p001004)も蟹を思うように天を仰いだ。良い話しが明後日の方向を向いたが仕方が無い事なのだろう。
「そういえば、明日は忙しくなりそうだな」
ふと、ワニファラオはそう呟いた。ウェネトはハッとした様子で「学園祭でごじゃりゅな!?」と身を乗り出す。
K.Y.R.I.E.人事統合部に所属するウェネトの先輩はその準備に追われて居るだろう。嘉神 ハク(r2n000008)曰く、これ以後の報告は学園祭後に改めてとの事である。
「……人が人らしく。学生は学生らしく」
学園祭という行事を大事にする刻陽学園。引き続きとなる作戦報告は次の指令連絡の内容を帯び始めることだろう。
――橋頭堡設立に向け、情報収集を行なう能力者にとって学園祭が心落ち着ける時間となることを学園及びK.Y.R.I.E.上層部は願うのだろう。