遡上作戦報告書05


キャンプ合宿慣し訓練が終わって遠征任務本番
 存分に大立ち回りをして、負担を減らしてやろう――と考えて居たが、成果は出たようだな」
 眼鏡のブリッジに指先を当てる八木 絵空(r2p000144)に蓮見 凪紗(r2n000013)は「十分な成果だったよ」と穏やかに微笑んだ。
 川は消して穏やかではない。せせらぎを聞き心穏やかに過ごせるの光景など何処にもなかった。
 凪紗は、絵空は見た。広がった川は濁流を作り上げ街をも飲み食らったかのように思えた箇所が存在して居る。ひしゃげた信号機は首を傾げたままに川へとその頬を横たえ、瓦礫を足場に変異体達が川を飛び越えんとする。
 異質な光景であった。大らかな自然はその異質さ全てを飲み食らってしまったのだろうが――ネストまでもを許容してしまうというのだから頭を抱える程だ。
「大トカゲ……とは聞いていましたが蜘蛛を思わせる巣ではありましたね。
 しかし、その生態的特徴が今回の作戦に合致して良かった。上大岡は立地的に今後の作戦にも重要でしょうから」
「そうだね。でも、そう……上大岡は凄く変わってしまったって、聞いた。
 私は異世界から来たオルフェウスだから、全ての変化を理解は出来ていないけれど」
「……川は予想以上に広く、市街地は見る影もなく……。川の流れが一つ変化し、源流域場所へのルートも存在して居る可能性もありますが」
「高台から得れた情報はそこまで、かな」
 ベドウィール・ブランウェン・雨夜(r2p000403)はラフィ・A=F・マリスノア(r2n000017)へと頷いた。
 彼女の言う通り、高台からの光景は変わり果てて仕舞った街並みと大河と化した大岡川、枝分かれしそれは市内のあらゆる場所に流れ込み根岸湾へと接続されていた。それから、川が続いていく様子だって見えた。あの川を辿れば、どこか別の場所に辿り着くことが出来るのだろうか。
「どうしたの?」
「……ううん、まずは橋頭堡、かなって」
 首を振ったラフィは作戦司令室の扉が開いたことに気付き「おかえりなさい」とワダチ(r2p001103)へと声を掛けた。
「ただいま。遺留品を調査してきたよ。……うん、と残っては居たかな。けれど――」
 生存していた者が居た、が、それを救うことが出来なかった。苦い思いを噛み締めてワダチは俯いた。
 マシロ市外が危険である事は重々承知していた。それでも眼前で散った命を見れば何も思わぬ訳もない。
「……今、派遣団は皆無事だって聞いているよ。まだ帰って来てない子達もきっとそうである筈」
 凪紗は穏やかに声を掛けてから目を伏せた。不安を抱いているのは保険教諭である凪紗とて同じ。
(……情報が集まってきた。それからこの情報を元に次の作戦が立ち上がる……休息の時間は、少ししかない。けれど――)
 ただいま、と笑ってくれる生徒がいるだけで凪紗はそれが何よりも喜ばしかった。