遡上作戦報告書06


 マシロ市外で姿を発見することの出来たフレッシュ、それから、それでも何としてもと生に齧り付いてきた旧世代ヴェテラン
 そうした存在の確認を経て、鳶(r2p002991)は大規模遠征が如何した意味を持つのかを理解しただろう。
(あの黒服の人……きっと、生き残っていた旧世代ヴェテランだった。けれど、マシロ市に合流することが出来ず――)
 人間とは頼もしく、どうにか生き残ることが出来ていた者が散見されることもあっただろう。その一人であったとしても彼が苦戦していたのは天使達の動きが活発になり始めたという事か。
「ガラクタ――かと思ったが、複数の遺品を回収することが出来た。
 ある程度はティルレアンに持ち帰る物を見繕って貰ったが……」
 一文字・柾目(r2p000479)は嘆息する。持ち帰られる分だけ、と。そう区切りを付けてマシロ市へと運んだ遺品はK.Y.R.I.E.を通じて必要とする者へと配布されて行くことだろう。
 せめてもの供養にと花束を用意していた柾目の優しさにティルレアン(r2n000075)は目を伏せ、静かに息を吐いた。
「……みんなも、きっと喜んでいたと思う」
「ああ」
 生者を救い、死者を弔う一方でを目指す一行は無数の天使イレイサー変異体サヴェージと相対してきた。
 遺留品を回収していたK.Y.R.I.E.の能力者達はこの作戦に帯同し、川を昇っていただろう。が、遺留品回収を主とする者達とてやはり戦地に赴くのであれば予想外の窮地に陥る事はある――それを救助するのが上終 師門(r2n000025)達の仕事であった。
「天使に変異体の混戦状況下という中々に面倒な状況だったが……
 皆の尽力のおかげで人員被害は最小の内に留める事が出来た。
 健志の能力のおかげで予想よりも多くの遺留品を回収する事にも成功したしな」
「あー……まさか俺が市外遠征に同行出来るとは思ってなかったが。役に立てたんなら何よりだ。
 ……偶には真剣にやるってのも、悪かねぇもんだ」
 師門の視線の先にいるのは後頭部を掻きながら言を紡ぐ松田 健志(r2p003306)か。
 マシロ市の外になるほど遺留品――死者の品はきっと増える。
 それらを待ち望む者達はマシロ市に多くいるのだ。
 健志らの活動によって心が救われる者もいる事だろう……或いはフレッシュの中には自身に縁のある品が見つかる、と言う事もあったかもしれない。
 何はともあれ市外遠征の多くは成功に終わったと言える――が。
「てか、聞いて」
 七井 あむ(r2n000094)は何時もの調子を崩さずにそう言った。
「仮称メタル・ビーストだけど、マジやばめの戦いでウケた。でも、竜のお陰で全員生還みたいな」
「……それでも、傷付く皆を見ているのは少し、ね」
 肩を竦めた雲壌 竜(r2p004250)は数が多い敵に対して如何に立ち回るかで頭を悩ませた。
 彼女達が相対した相手がと仮称される介入階級アザーバイドだったからだ。
は何だったのでしょうか。……天使でもない、此方に敵対的な介入階級」
「分からんー」
 あむはふるふると首を振った。「けど、こんなかわょなぼくを厄介扱い許せんし」と拗ねた様子で言うあむに「進ませたくないのかなあ?」と匂坂 愛(r2n000011)は首を傾いだ。
「あ、そだ。こーせーが言ってた栞田かんだは?」
「……わり、どっか行った」
「K.Y.R.I.E.の元能力者が出て来たって事は警告系?」
 あむに忍海 幸生(r2n000010)は何も分からないと首を振る。引き返せ、とでも言って居るのだろうか。
「もしかすると、先に進ませたくない理由があるのかも知れないでござりゅな」
 兎神 ウェネト(r2p000078)はそう呟いた。栞田という堕天使ヴァニタスが姿を現したとき、ウェネト達の前にもメタル・ビーストが現れた。
 それらは例に漏れず行く手を遮っていたという。天使と介入階級が手を組んでいるかもしくは志を同一にしているのは明らかだ。
「んー、わたしが敵だったら『ニンゲン、ココ、クルナ! オレノイエ!』って感じだし、来るなって怒ってるんだよねえ、きっと」
「如何して片言なんでござりゅか」
「うけ」
 愛にぱちくりと瞬くウェネト。笑うあむの肩を叩いた師門が嘆息する。
「どう思う」
 師門に問われてからティルレアンは「そうだね……」とおとがいに指先を当ててから悩ましげに呟いた。
「――警告、だと思う」
 これまでK.Y.R.I.E.の能力者は限られた範囲内での活動を行って居た。しかし、2052年に到来したが全てを変えて仕舞ったのだ。
 マシロ市は更なる人類の生存圏拡大を目指し始めた。これまでは静寂を保っていた天使達との遭遇事例が激増している。
 つまり、これまではマシロ市という人類最後の砦に対して合流を目指してきた旧世代ヴェテラン達はその身を何とか護りながらも合流を果たせていた。
 しかし、近頃はそうした移民受け入れは少ない。天使達の動きが活発となり、易く合流を果たせなくなったのだろう。
 そんな中での脅威ともなる天使ネームドとの接敵。これがではないことを誰もが理解しているはずだ。
「先に何があると?」
「……分からない。けれど、先に進めばもっと脅威となる相手と出会う可能性がある」
 師門とティルレアンは同意見か。ウェネトは「金沢区方面は凍り付いた場所が幾つも見えたでござりゅ」とそう呟いた。
「そう、そうだよ。いつからか分からないけど……金沢区方面で凍っている場所が多く見られたんだって。
 それに、大岡川源流域付近、付近は湖に変化していた。地形的にも凄い変化が見られたんだ」
 ウェネトと愛が到達した源流域付近での情報はそれっきり。長居は禁物と撤退をしたが――
「じゃ、その辺にやばつよ天使居るんじゃん」
 あむは当り前の様子で行った。
 しんと静まり返った一室でKPA主任七井 あむは「でしょ?」と仲間達を見回す。
「東京方面は先遣隊全員死亡。理由不明。金沢区以南凍ってて陸地ムリめ。
 町田方面まだ未踏。現時点で判明するのが氷取沢付近。元からその辺にまでならKPAのアンテナも伸ばせる、かも」
「なら、行くしかないんだろうな。橋頭堡……いや、マシロ市外基地の確保をそこにするに天使の奴らの思惑を探るんだ」
 幸生にあむは「それかわょなぼくのせりふ」と眉を吊り上げていった。
「良い?」
「……はい。どのみちは此方を認識したでしょう」
 竜は緊張した様子で言う。そうだ、介入階級アザーバイドは能力者の活動を確認し、栞田と名乗った天使さえも能力者達の目的を把握したかのような動きを見せた。
「じゃ、このまま行くって感じの報告書で。よろー」
 あむはひらひらと手を振った。本作戦の報告書の結果をKPA主任七井 あむは斯う締めくくる。

 ――どのみちここで止めても、相手は刺激しちゃったワケ。うける。