
偶像的世界優位性
――2038.
テスタメント上昇と堕天使による告解の関連性提唱。
精神的ストレスによる関連性は否定できず、天使等の侵攻阻害に於けるテスタメント値低下は現時点では有意な可能性であった。
憂慮するべきは、根本的治療に関しては未だ解明できずそれらは一連の症候群として名付けられたが病原体が存在して居るわけでも無い。
平たくその名を知らしめるべく天使症候群と呼ばれたそれは日々、人間の心を蝕む毒であった。
「……だから?」
「そう、だからアイドル!」
国策アイドルと揶揄されるのは人類の精神的ケアのためにマシロ市がプランニングした偶像である。
その代表者といえば現在をときめくマシロ市のトップ・アイドルである藤代 ガーネット(r2n000030)である。
彼女はK.Y.R.I.E.とマシロ市の全面的なバックアップにより産み出された偶像的存在である。
人類には希望があるというプロパガンダを喧伝し、人々のストレス緩和を担う看板でもある。
「柘榴が?」
「ローズちゃんの方が向いてるとは思うけど~……」
「お前、ンな後ろ向きでアイドルなんかなれっかよ、ばーか」
――藤代 柘榴には先輩がいた。その名を妃野原いばらという。
彼女はこのアイドル・プランの最終選考にまで残ったK.Y.R.I.E.の能力者であり、柘榴にとっては大親友と呼べる相手でもあっただろう。
柘榴といばらは互いにアイドルを目指して研鑽していた。
ただ、柘榴からすればいばらの方が向いていて、いばらからすれば後輩になど負けるものかと躍起になっていただろう。
前述したが「テスタメントとはストレスに由来する関連性を提唱されている」のだ。
つまりは妃野原いばらの在り方は人類の希望を唄い、世界とは平和であると唄う仮初の歌姫には向いてやいなかった。
女は酷く野心家で、女は酷く自信家で、女酷く――弱かったのだろう。
最終的に選ばれたのは誰もがご存じの結果である。
いばらにとってはお粗末な幕切れで、柘榴にとっては呆気のないお終いだった。舞台の上に立つ事になったのはたった一人であったのだから。
「ローズ先輩?」
「あーたしさあ……調査任務があってさ」
――今思えばそれは嘘でした。
「塩の領域への先遣隊派遣はずっと失敗してる。なら、それがぱたりと途切れて東京へと回り込めるルートがあれば良いんじゃ無いかって。
K.Y.R.I.E.でもよーく言われてたっしょ? それにアタシ選ばれたんだよね。まあ、アタシって有能だったし?」
――今思えば、それは最もらしい理由過ぎました。
「それで、行くわ。テメェは此処で指咥えてアイドルしてな。
平和の象徴とやらがのこのこ危険地帯に出てくる訳にゃ行かねぇだろ。護衛対象ガーネット」
「でも、ローズ先輩が守ってくれるでしょ?」
「有り得ない」
――あの時、先輩を止めていられたらよかったのでしょうか。
「……さて、わらわには何も分らぬが。聖釘に関連する売人達が雷の領域の向こう側に逃げたというならば見過ごせぬ」
ひややかな声音で彼女はそう言った。
苛立ちを滲ませる龍妃にガーネットは俯く。今更だ。あの雷の領域を調査すればするほどに「ローズ」の影が濃くなっていく。
「わらわはその女を殺すつもりじゃ。それはあくまでも前座に過ぎず、最終目的は聖釘であり――わらわをこけにした終鐘教会じゃ」
中華街地下に蔓延った終末論者による魔法物品乱用、マシロ警察と龍華会は独自調査を行ないその先に辿り着かんとして居た。
その頃だ、調査に赴いている警察官より「動きがありそうだ」という一報があったのは――
龍華会とマシロ警察は領域内の掃討へと乗り出すことにした。ただし、これはあくまでも前哨戦である。
広域に至る雷の領域内部では作戦実行中にも更なる敵影の増加は見込まれる。そちらへの対処も連携が必須であろう。
「良いな」
冷ややかな彼女の声にガーネットは頷いた。
「準備をしてから行くの?」
「無論。あの領域を取払えば先に進めるであろ? これは大義のためで有り、わらわにとっては可愛い仕返しじゃ」
くすりと笑った女にガーネットは唇を引き結んだ。
本当に彼女だったなら。その時自分はどうするだろう――?