在りえぬ『次代』


 ――やめても同じです。
 ――本当に、それがあなたの選んだ道なんですか?

 鼓膜の裏側に張り付くようなソレが消えない。
 水原 ちまき(r2p000388)の問いを起因した宿りし力ネクストは永劫続くようなものではなく、とうに消え失せている筈なのに――こびりついて拭えないのだ。何故に未だ彼女の言の葉が纏わりついているというのか。
 ――佐竹黄蓮は次代の鎌倉の守護者だ。
 、当人もまたそうであると信じ誇りにしている。
 であればどこぞの誰ぞが告げる内容などに心惑わされる事など無い筈だ、が。

  

「はぁ、はぁ、はぁ……!」
 息が切れる。心の臓が跳ね上がる。
 どういう訳かが抑えられない――
 それは如何なる意が込められての事であろうか。黄蓮は、自身の内に在りし疑問を……あえて答えを模索せぬ儘に鎌倉を駆け抜けよう。辿
 薄暗き鎌倉。あぁ間もなく、鎌倉が抱いていた長年の望みが叶わんとしている。
 が至るのだ。
 夜が明ける前に全ては終わろう。今一歩。今一歩だ。

 ――君も結局、仙泰君にいいように使われた側、なのだね。
 ――行くなら行けよ。生きてまた会おうぜ坊ちゃん。だけどな、これだけは覚えとけ。人間死んだら終わるんだよ。人の死を前提にした計画に救いもクソもねぇ。仮に強行しても

 煩い煩い黙れ黙れ。
 四方 ヤシロ(r2p000334)の言の葉も、りもこん(r2p005402)の言の葉も。
 全て煩わしいのだ。煩わしいだけなのだ。

 ――黄蓮や。

 私にとって。佐竹黄蓮という一個人にとって絶対なのは。

 ――黄連や。私も老いた。次なる鎌倉を支えるのはお前だ。
 お前以外には決して出来ぬであろう。

 養父たる仙泰の言葉だけだ!
 それ以外など塵芥! 不要不必要である!
 せをりも六華も、マシロの面々も誰も彼も……!
「何が、何が分かるというのですか……!」
 鎌倉に大した力はない。結界がなければとうの昔、天使に滅ぼされていただろう。
 全ては鎌倉を支えてきた養父のおかげなのだ。
 あの方がいなくば28年という歳月は、鎌倉を滅ぼすに足りていた。
 己もきっと鎌倉の外の民が如く、化生の類に食いつぶされていた事だろう。
 この世界は死と恐怖に溢れている。見えぬそこかしこ死肉と腐乱の激臭に溢れているのだ。
 鎌倉の民が生き永らえてきたのは。
 私が私足りえたのは。
 全て全て!
「お、お養父上!」
 瞬間。鎌倉を駆けていた黄蓮が辿り着きしは鎌倉の中枢――仙泰宮。
 その中央には先代……或いは仙泰と呼ばれし老父が座していたか。
 彼の下へと黄蓮は跪きて。
「申し訳ございませぬ、マシロの方々が地下に逃れて……!」
「――聞き及んでおる。お前の傍に付けておった目付からな」
「須らく私の責! されど連中は未だ鎌倉を脱してはおりますまい、今一度挽回の機を!」
 そして同時に紡ぐは謝罪の意か。
 黄蓮にとって仙泰は言うまでもなく絶対の存在だ。
 この方に従っていれば安寧がある。
 敬愛している。そして彼に見出された期待に応えんと彼は動き続けていたのだから。
 K.Y.R.I.E.――マシロの面々を迎え入れる事も。
 彼らと言の葉を交わし、鎌倉の中に誘導する事も。
 全ては仙泰の心に応えんとしていた為……
 
 鎌倉の外がどれだけ悲惨か知っているから。
 だから――
「黄蓮や」
「はっ!」
「お前には今まで重責を担わせてきたな」
「まさか、そのような事は決して……!」
「よく務めてきた。よく、果たしてきた」
 その時。仙泰の顔が柔和に綻ぶ。
 黄蓮に語り掛ける声色は、未だかつてない程優しさに溢れており……
 あぁ、お養父上――



 刹那。黄蓮の魂に――軋みが走った。
 熱い。熱い。まるで煮えたぎるような何かが迸る! !?
「贄となるか。或いはか、最後の役目を果たすが良い」
 鎌倉が……否。鎌倉を支配せし仙泰が求むは二つだ。
 一つは大いなるものへの贄。
 そしてもう一つが――