夜半超えの平穏


 夜を超え。
 朝が来る。
 数多の怨霊、こびり付いた怨嗟の呪いは消え失せ。
 鎌倉は――穏やかな平静を取り戻さんとしていた。
「六華!」
「せをり! 良かった、無事だったのね!」
 その最中。六華と古月 せをり(r2n000108)は合流を果たそうか。
 互いに鎌倉に囚われていた身。しかし仙泰の手によって離れ離れとなり、特に六華はせをりの事を気にかけていたのだが……戦いを乗り越え、共に五体満足で無事であったらしい。されば安堵の吐息が思わず零れようか。
「六華、そういえば黄ちゃんは……」
「……黄蓮は亡くなったわ。でも最期は、少なからず穏やかであったと思う」
「成した罪があるのだ。極楽浄土には行けんだろう、が。
 仙泰の奴が来たならば、横っ面を一発ぶん殴ってやれぃとは伝えた。
 気概があれば――今頃殴り飛ばしているのではないかの」
 と。次いでせをりが気にかけたのは、次代の鎌倉守護と名乗りを上げていた――佐竹 黄蓮の事だ。
 彼の終わりについては、御子神 天狐(r2p003141)が言を紡ごう。
 父と慕う仙泰に妄執し、天使へと至ってしまった黄蓮。
 天狐はそんな彼の目を覚まさせるべく、彼の心に強烈な一打をくれてやったのだ。
「件の仙泰は――どうなったのかの?」
「燃やし尽くしてやったわ。
 鎌倉で生活していた、取るに足らないと断じた人達の思いと怒りで――ね」
 そして鎌倉のほぼ全ての元凶と言える仙泰。
 奴については不動 優歌(r2p000603)が己が全霊を紡ぎあげ焼き祓ってくれた。
 天地躯の糧にすらしてやらぬ、と。数多の者の怒りを叩きつけてやる為にも……そして。
「天地骸。数多の有象無象を寄せ固め、ついぞ偽神と呼ばれるに至るとはね――」
 だけれども、とシトリー・セーレ・ハーゲンティ(r2p004983)は想起しよう。
 鎌倉より這いずり出でんとしていた怪物。正に神の欠片の如しであった。
 しかし、蓋を開ければ――その歩みたるや亡者の如し。
 所詮、愚民共の生みし歪んだ願望器であったか。
「我が魔の軍勢の敵ではなかったわね」
「天地骸も、仙泰も……もう気配の一片も感じないわ。
 全部、終わったんやね。全部――終わらせてくれたんやね」
 されば、せをりは瞼を伏せようか。
 ……その瞼の裏に映ったのは、一人の青年の事。
 何か違えば、一緒に海に向かっていただろうの――
「……シルビアは、姿を消したみたいだけど。
 ううん、だけど、いまは……みんなが無事であればそれでいい」
「あむ! ――結界になんか打ち込んだやろ!」
「あ。せをり、めんごめんご~でも仕方のなかった事なんで」
「しゃあないことや言うても、おもっきししたやろ。
 痛いん分かってやっとるんやからええ性格しとるわ」
「めんご!」
 と。続け様には七井あむ(r2n000094)の姿も見えようか。
 あむは救援として駆けつけてきた一人だ。天地骸に対抗する為、結界に入り込む為に少々のをした。
 ――まぁ結果良ければ全て良し、としよう。それよりも。
「とりあえず、皆の無事を確認しないとなぁ。深い傷を負ってしまった人はおるやろし……」
「負傷者に関してはひとまず仙泰宮の方に集めましょう。
 戦場となった場所だけど、マシロまでは遠い……
 今ならもう安全だし、無理にここから移動させる事はないわ」
「せやね――――」
「せをり?」
 それよりも今は、各地で戦ってくれたレイヴンズの皆が無事か一人一人確認せねばと告げようか。実に激しい戦いだった。無傷などでは決してないのだ。
 負傷者がいればすぐさまにも救護してやらねば……が。
「ん~~あれ、あれれ? おかしいな? 結界はもう問題ないはずなのに」
 瞬間。あむが気付いた。
 結界が仙泰の手の内に在ったころは妨害でそう言う事もあったが……まだ不調は続いているのかもしれない。近場に築かれているK.Y.R.I.E.の臨時拠点、キャビンまで戻れば回復するだろうか。
「……六華」
「ん?」

 せをりは、を感じていた。
 仙泰は死んだ。天地骸は滅びた。
 この地に蔓延っていた強大なる存在はもういないのは確かで、事実だ。
 だが――なぜか背筋がなぞられるような不快な気配が消えない。
 何故だ? 胸のざわつきが……どうしてまだ消えないのだ?
 そう――
 夜を超え、朝が来るのだ。
 

 これ以上のなど――あろうはずがないのだ。