
歌が聞こえる
「……何か、聞こえないか?」
「いや、何も聞こえないぞ。あ、いや。まさかアレか?」
「ああ。歌が……歌が聞こえる」
夜の浜辺で、キャンプ・パールコーストたちの兵士はそんなことを言い出した。
ここ数日、キャンプ・パールコーストの兵士たちの間で囁かれている1つのウワサ。
何かあるのではという危惧により同行していた3人の少女たちは、そんな兵士たちの様子に顔を見合わせる。
「ん。そういえば……聞こえる、気がするかも?」
不思議そうに言ったのは三羽 那珂(r2n000118)だ。実際、何か……歌のようなものが、聞こえる気がする。
そう、歌ではなく「歌のようなもの」だ。少なくとも人類に解せる言語ではなく、妙なノイズのようなものがかかっている気もする。
(なんだろう、これ。聞いたことのない、声……)
「どうしたの? 兵士さんたちが言う通り、お歌が聞こえているの?」
「ん……私は聞こえるような、聞こえないようなって感じですねえ」
「ええ、羨ましい。きいには聞こえてないみたい。そんな楽しそうなのに、私には秘密ってことなのかしら? 拗ねちゃうわ?」
糸瀬 きい(r2n000055)は『偵察部隊員』東宮 真琴(r2n000124)に羨ましそうに抗議するが、やがてきいも何かに反応したようにハッと振り向く。
それは、浜辺からさらに奥……海の向こうだ。
「ふふ。今、聞こえた気がしたわ」
歌というと少しばかり疑問だが、歌以外の何であるかと聞かれれば少し悩んでしまう。
何と言っているのか、どんな歌なのかも分からない。
「呼んでるわけでは、ないみたい。もっと何か……ただ歌声が聞こえてくるって感じね」
「うん、そうだね。歌ってるだけ。でも、なんだろう。これって……」
「あはっ、妙に綺麗ですよね?」
美しい光の粒子のような……そんな儚くも透明感のある歌。
そこに悪意のようなものは感じられないが、同時に確かな異常事態でもある。
一体何を示すものなのか。それは今は分からないけれども。
「戻りましょうか。何かが起きた。今はこれだけで充分ですからね」