
遅すぎたレコンキスタ
「なあなあ、鎌倉の方は大丈夫なのか?」
「さて。大丈夫かもしれないし、大丈夫ではないかもしれない。けれど……信じるしかないというのが実際のところさ」
刻陽学園横須賀キャンパスのキャンパス長室。
そんな場所で『横須賀キャンパス長』九相寺・大志(r2n000122)と『謎の力の正体』メロディアス・ハイギャラクシア(r2n000110)が話していたが……どうやら鎌倉のことを話しているようだ。
何やら大変なことが起こっているというのは分かっているが、横須賀キャンパスから出来ることはそう多くはない。
……というのも、横須賀キャンパスでもちょっとした問題が起こっていたからだ。
大志のデスクの椅子に座ってクルクルと回転していたメロは「そうだよなあ……こっちはこっちでなあ……」と難しそうな表情になる。
「歌……だったか? 一体何なんだろうなあ」
「正確には歌のようなもの、という話だけどね」
そう、近頃横須賀キャンパスではおかしな噂が流れていた。
始まりはキャンプ・パールコーストの巡回兵士たちによるものだ。
――海の向こうから、歌が聞こえた気がする。
あまりにも胡乱な話ではあったが同様の証言が相次ぎ、ついには録音機器にまでその「歌」が記録されたに到った。
しかしアガルタやKPAの職員が現場に向かっても何も聞こえないという不可思議。
だというのに横須賀キャンパスで暮らしたり、よく出入りしているレイヴンズの一部にも「歌」が聞こえる者が出始めたのだ。
それだけではない。大志にもその歌は聞こえているし、恐らくはメロディアスにも……本人の性格が大雑把なので上手く認識していないのだろうが、聞こえている。
なんとも胡乱な話ではある。まるでチューニングの上手く合っていないラジオを聞いているような感覚というべきであろうか?
「歌っていうと……地球にも色々と話が伝わってるよなー。未知のオルフェウスとかの可能性はないのか?」
「そういう可能性もあるだろうね。勿論、そうではない可能性もあるけども」
何故なら、天使や未知のサヴェージの可能性もある。現在海が一体何処の勢力の支配下にあるのかを考えれば……まあ、可能性は高い。
「あ、そういえば! クジラも歌うっていうよな!」
「……そうだね」
そう、クジラ。そういうものに大志は多少の心当たりがあった。
(もう1体の「超常指定:甲級」……ハーヴグーヴァ。奴が最後に目撃されたのは確か……房総半島……)
超常指定:甲級。当時の日本の基準で「排除が極めて困難」とされた恐るべき怪物たちにつけられた等級。
しかし、しかしだ。「クジラのは何か別のものと激しく戦っていた」という目撃談もあった。
その「別のもの」がクラーケンであったとして、そうであるならばハーグノーヴァはどうなったのか?
そして2つの怪物の争いに巻き込まれた房総半島は?
「レコンキスタ、というわけか。少々遅すぎた気はするけどね」
「んー。なんだか分からんけど、調べるんだろ?」
「そういうことだね。何が出て来るかは分からないが……せめて恐ろしいモノではないことを、祈ろうじゃないか」