
星は告げる
「クジラに会う、ですか?」
『そこで守る』不破・蜜子・メリッサ(r2n000046)は『星の導き』鬮目・スハイル(r2n000045)の言葉に首を傾げた。
「はい、クジラに会えます。此処にいる人たちで」
「えっと……それは、あのハーヴグーヴァとかいうモノに出会うとかいう……?」
「いや、どうにもそういう話ではないらしい」
『ドール屋』銀鏡・綸星(r2n000038)はスハイルの言葉をサポートするように、メリッサにそう否定してみせる。
綸星自身、スハイルの言葉の意味を全て理解することは諦めてはいるが、スハイルがそう言うのであれば少なくともクジラには会える。
会えるが……そんなに破滅的な意味ではないとも思うのだ。
現在の刻陽学園横須賀キャンパスではキャンプ・パールコーストとK.Y.R.I.E.との合議の結果、房総半島調査航行を展開している。
その理由というのも数名が何らかの声――もしくは、歌を聞いたと証言しているからだ。
更に言えば房総半島とはそもそも、横須賀市より目視出来る筈なのだ。
その視認も叶わず、現状も分からぬ今、嘗て房総半島調査を行って居た今は亡き軍人が残したという証言のみを信じるしかない。
――何か、光の中で巨大な生物が二匹。その一方はクジラであった。
その証言があるのだ。『横須賀キャンパス長』九相寺・大志(r2n000122)がクジラというのは『超常指定:甲級』のハーヴグーヴァではないかと推察している事もあって、どうしたってクジラと言えば超常指定:甲級の危険生物であると言う印象が強い。
「ハーヴグーヴァじゃない? としても、……それは、あの『歌』と関係があるのかな?」
『星散の魔法使い』柏原 桜介(r2n000116)の問いにスハイルは思案げな表情で……しかし、首を傾げてしまう。
「はい。恐らくは。危険な相手ではないような。
呼ばれている気がします。星が瞬いて。だから、キラキラは、しています。クジラが」
「……ああ、それは僕が分かっている。彼らに伝えようじゃないか」
星のようなキラキラが、キラキラしていて、クジラがキラキラがざばーん。
そんな話を聞かされても困るだろうと思いながら綸星が言えば、スハイルはキラキラとした笑みを浮かべる。
「……キラキラしてるね?」
「まあ、キラキラはコレではないはずだが」
桜介に綸星はそう答えながら、それでも真剣な表情を向ける。
「それでも、クジラに会うと言うのであれば、必ずそうなる。
これまでも視認された輝きが僕らを呼んでいる可能性は高い」
「それがハーヴグーヴァ本体かどうかは……」
「限りなく低いと踏んでは居る」
メリッサは「低いと言っても、可能性はあるって言う」と引き攣った声を漏らしてから桜介を見た。
「まあ、でも、呼んでるんだよね?」
「はい。きらきらと」
「じゃあ俺はスハイルさんのきらきらを信じてみたいな。
星のお導きで、良い出逢いになるといいね? メリッサさんも行こうよ」
メリッサは顔を上げて――何かが、聞こえた。
「……呼んでる……気がする……」
「でしょう」
クジラ。
クジラの歌声がする。
聞こえることのなかったその声が、確かに届いて、波のように消えていった。
クジラのサヴェージも確かに存在はするが、その実体は分からない。
クジラの天使かもしれないし、まさか本当にハーヴグーヴァに出くわす可能性だってあるかもしれない。
一体何に出会うのか。
今はまだ分からない。けれど……星は、そう告げているのだ。