
西方調査
「……結局あの連中はなんだったんだ?」
「少し前から目撃されていましたが、これほどの強襲を仕掛けてくるとは思いもしていませんでしたね。しかも、まさか鎌倉での戦いでの疲弊を狙うだなんて……いえ、理にかなっている戦術ではあると思います。しかし――」
「あの規模でやってくるのは流石に想定の範囲外だったな」
鎌倉での戦い。その全てが、やっと落ち着いた――
仙泰なる天使の陰謀。軍服と宗教服の天使の襲来。難儀な出来事が続いたものだと来栖 正孝(r2n000072)と嘉神 ハク(r2n000008)は言を交わせよう。そして彼らが口にしているのは後者の存在に対する事、だ。
「えぇ。ただ、僕達が辿り着く前にどうやら撤退を開始したようです。それが僕達の存在を気取ったからか、或いは別の理由があるからかは分かりませんが――いずれにせよ西に撤退した彼らを追う承認は降りました」
「――西方調査か。連中はかなりの力と統制があった。
次また襲い掛かって来るまでに調べておきたい所だ、が」
「鎌倉すら我々にとっては未知の領域でした。それより西に進むとなると、大変どころではありません。しかしやらねばならないでしょう……彼らの撤退は僥倖でした。救援が間に合ったとは言え、もしもどちらかが倒れるまで戦いを続ける事になっていたら……」
その時は、はたしてどちらが勝利を収めていたのか?
或いはK.Y.R.I.E.が勝っていたとして――どれだけの人的損害が出ていた?
どうにもこうにも彼らの行動を指揮する首魁がいるのは間違いなさそうだが、しかしその首魁たる存在の正体が一切分からない、出てこないというのも不気味だ。徹底した隠密の雰囲気だけは感じられる……今の内に可能な限り彼らの真髄を探っておかなければ。
(何か――とてもよくない事が起こる気がするんです)
ハクは、しかしその懸念の言の葉は呑み込むものだ。
口に出して他者の不安をわざわざ掻き立てる事は無い。
横須賀では勝利を収め。遂に鎌倉の陰謀も乗り越え、辿り着く事が出来たのだ。
次は西へ。更なる西へ――行ってみようではないか。
きっとレイヴンズならば乗り越えられると信じて。
「……せめて連中の拠点がどこにあるのかだけでも分かれば、な。
と、そうだ。西に偵察に出かけた連中から幾らか報告が挙がって来てるんだが……蛇みたいな化け物が出てるって聞いたか?」
「はい。色んな生物がまるで蛇になっている……らしいですね」
「あぁとりあえず本部は総称として蛇蠍化現って名付けたみてぇだがな。やれやれ、天使だけじゃなく未知の生物だか存在だかもいるみてぇだ……」
と、その時。正孝が続けた言は、先の天使達ではない存在に関する件だ。
西に先行して偵察に出向いたK.Y.R.I.E.の人員から蛇のような複数の生物を目撃したとの情報が流れてきたのである。蛇そのものではない。やや形容しがたいのだが、蛇のような造型になっている個体の目撃情報だ。
新たな変異体かアザーバイドか。
まだハッキリとは分からないが、しかし人類に対する攻撃性を持っているのは確かなようだ。
「K.Y.R.I.E.の人員が攻撃を受けた、という連絡も挙がって来ています」
「って事はやっぱり放置はできねぇな」
「障害は排除して進むしかありませんね。鎌倉から西に、また僕達にとって拠点と成り得るような場所を見つける事が出来ればいいんですが……」
「――そんな場所があったら、それこそ軍服天使の拠点になってるかもしれねぇけどな」
「その時は、その時ですよ」
悲観的であっても仕方がない。一つ一つ成し遂げられた事を成果として捉えていこう。
未知の生物が現れた? マシロから遠い領域に活動範囲を広げる事が出来た証左だ。
天使の拠点と遭遇するかもしれない? それもまた僕達の進撃が確かである証左だ。
――行こう。人類の手から失われた地へ。
K.Y.R.I.E.による偵察作戦、西方調査が始まらんとしていた。