
熱闘甲子園
「……と、まあ。
例えばこんな風にエリート極まる猊下は考えていると推測する訳だが」
主天使――『崩天』の異名を持つミハイル(r2n000062)は居並ぶ配下に少しおどけてそう言った。
「かの方は選民意識の強い方でね。元々のプライドの高さの所為か……
それとも赤の覇王殿に脳を焼かれたからか、余りにも風情の無い圧倒を好んじまう。
強さってモンへの解像度が低い……とまでは言わねえけどよ。
憧れが勝る。見知ったリアルが少なすぎる。つまり立体感ってモンを御存知でない。
嫌だねえ。世の全てを王とそれ以外で分類しちゃあゲイムにもなりやしねえよ。
しがない主天使のこの俺としては公立の雑草が粘り強くコーシエンを目指すなんてのもいいんじゃねえかって思うんだけどな?」
「コーシエンってのは何の事ですかい」
『眺めの獣』 エマヌエル・バイルケ(r2p006759)の当然の問いにミハイルは「知らねえの?」と笑う。
「旧時代の頃、この世界のこの辺で流行った球遊びの大会。
長い地球暮らしが随分と暇だったからなア。
色々漫画ってのを読んでみたんだけどな、これが中々どうしてグッと来る。
一番いいトコで終わってやがったのだけは最悪だったけど。
……マジ、最新刊が手に入らなくて街を三つも探したんだぜ?」
「本当に旦那は何処までも自由ですねぇ。姐さんの苦労が忍ばれますや」
肩を竦めたエマヌエルの脳裏では力天使――イサーク・サワが見事な苦労人の渋顔をしている。
詳しい説明等無くても熾天使たるアレクシスに不敬極まりない物言いをするミハイルの考えている綱渡りがまともでない事は知れていた。
ミハイルという男はそのとんでもないタイトロープの上を歩きながら、事もあろうか昔の漫画の話を持ち出しているという事だ。
「やはり、我等にもお伝え願えぬか?」
硬質の調子で改めて問うた『冷酷な知略家』 リーザ・セリーヌ(r2p006775)にミハイルは少しの思案顔をした。
「まあ、もう少しだな。丁度猊下から命令を賜った所でね。
バルトロのトコで大根芝居をしちまったからな。見事に警戒されてらあ。
そういう話も含めて、今回はちょいと真面目に助太刀差し上げなきゃならねえ。
そんな状況に俺が何か企んでますって伝えたら、妥協が出る。
それじゃお前等だって身ってモンが入らねえだろ?」
「えー? じゃあミハイルちゃん。
こんかいはおーまじめにげーかのみかたをするかんじなの?」
意外そうな顔をした『カルペ・ディエム』 ノエルカ(r2p006756)にミハイルは「行く奴にはそう伝えてるよ」と頷いた。
「一番重要なのは猊下とマシロ市がお互い程々に勝つ事、だ。
まあ、猊下の方はマリアテレサの手前とんでもなく動き難いだろうからな、同情しなくもねーけど。
どうもマシロ市のコマンドは優秀過ぎるようでね。オベリスクが6000本も叩き折られたなんて聞いたらよ。
今回は程々にマシロ市側に痛い目に遭って貰わねえと上手くねえだろ?」
「ふうん。すごいね。ていうかやっぱすごかったんだね、あのひとたち」と感心した声を上げたノエルカにノヴィアが笑った。
「まあ、でもそうでなきゃね。
実際その方が面白いし――この間のじゃあやっぱ消化不良だよ」
「だって何もしてないし」と続けたノヴィアも人好きのする快活ながらにやはりどうにもミハイルの一派であった。
「――何れにしても、望む所。
ご主人、その塵芥共、砕いてしまっても構わぬのでしょうな?」
ノエルカやノヴィアとは対照的に冷え冷えとした殺気と人類への侮蔑を纏った『観測者』 イリヤ(r2p006908)の口元が三日月に歪む。
凡そミハイル以外の誰に対しても尊大で、彼をおいては決して飼い慣らせぬこの白く危険な天使は猟犬のようなものだった。
主人の「行け」の一言を待っていた。御馳走を前に我慢している!
「やれるならやっちまえよ、イリヤ。
まあ、ちょっと都合はあるが――別に俺はマシロ市に肩入れしてる訳でもねえ。
猊下に怒られないように精々暴れて――相手が弱けりゃ狩っちまえ」
満足そうなミハイルに居並ぶ五人が次々と頷いた。
普段は上下の緩いアットホームな一派だが、ミハイルがその顔をしたら話は別だ。
鉄の忠実と組織力は彼等独立愚連隊が何故何処の傘の下にも居ないのかを物語る。
「さあ、行けよ」
ミハイルの口元が獰猛に歪み、碧眼に危険な朱色が差す。
「マジでやったら絶対に殺しちまうから出れねえ俺の代わりに、看板背負うんだ。
半端な真似したら逆に俺がお前等ぶっ殺しちまうかもしれねーからな?」