第五裁決シ・ビュラ II


 ――ザ、ざ、ザザッ――

「どうだ?」
 合流地点ランデブーポイントの廃墟内にて。ガロウズ(r2p002543)が覗き込む先、白星 くろく(r2p000073)は首をふるりと横に振った。その手にある通信機は、未だ砂嵐ばかりをこぼしている。
 御殿場は未だ『アーカディアⅤ』の領域下。天変地異に天災が一帯を支配し、林立するオベリスクが通信機をガラクタに変えていた。
「まだまだ、敵の勢いは衰えず、かぁ……」
 凍(r2p001406)は天使カルロッタ(r2p006600)の猛攻を退け、オベリスク・テミスを破壊した者のひとりだ。しかし御殿場には未だ数多のオベリスクがあるらしい。改めてK.Y.R.I.E.が今戦っているのは使と思い知り、少女は小さく手を握り込んだ。
「落ち着かないな……」
 癒えきらない傷の上には一先ずの手当て跡。ガロウズが溜息を吐いたのは、天使共が明らかに仲間を攫うような素振りを見せていたからだ。ゆえにこそ音信不通安否不明の状況がもどかしい。
 霜星 幾(r2p000812)が相対した天使もであった。幸いにして誰も犠牲にはならなかったものの……。
(……もし、)
 幾がちらと目をやる先には、廃墟内の片隅で紫煙を燻らせる愛しの君。もし彼が天使に攫われたら。想像をするだけで、はらわたの全てが捩じれて毀れるような心地がした。そんな思考の中、目が合った彼は「何見てんだ犬」と顔をしかめた。
『……皆を信じて待つしかない、か』
 くろくの合成音声が小さく呟かれる。鬼ごっこ、とくろくが相対した天使共は言っていた。くろく達は天使を退けることができたが、もしも捕まって敗北していたらどうなっていたのだろうか――不吉な想像がよぎる。
に備えて、今は英気を養うしかないのぅ」
 心配は尽きない。だが今は、ここに居る皆の無事に安堵を。伏見稲荷・玉藻後・杠葉(r2p000462)は護り手として、いつでも皆を護れる位置にいた――仲間には「休め」と言うが、彼女自身は本当の安全が確保できるまでは休むつもりなどなかった。天使エレオノーラ(r2p006125)との激戦直後であるが、それでも。
「そうだな……」
 次はこれ以上に厳しい戦いになるだろうから。――そんな言葉を根来 日向(r2p000005)は飲み込んだ。天使との戦いの中で暴風雨に晒され、すっかり濡れてしまっている彼は、身体が冷えてしまわぬよう火に当たっているが……不穏な気配に、指先がいつまでも冷えているような心地がした。――それでも、
「次も、その次も」
 権天使モリス・プルーデントを討ち取った兎月 ゆめ(r2p002686)は、壁にもたれて傷だらけの身体を休めつつ――しかしその目には刃のような戦気を宿して。
「敵が居るのならぶった斬るKILLのみでごぜぇますよ」
 守られるより守りたい派。やられるよりもやりたい派。月兎は肉食なのでごぜぇます。

 ――同時刻、箱根。

「おらァッ!!」
 春秋 佑河(r2p000035)はデフィブパルサー特殊デフィブリレータを目の前の天使へと押し付けた。放たれる電撃、除細動カウンターショック――それは箱根を奪還せんと現れた天使を、周囲に居る連中もまとめて焼き焦がす。
「はぁっ―― はぁっ―― わらわらとしつこい連中だな……」
 さっき天使の襲撃を退けたばかり、だがゆっくりしてはいられなくて。佑河は天使と交戦中の戦線へと加勢し、たった今そこも掃討を終えた。肩を弾ませる。
「皆、お疲れ様だよ。怪我の具合は?」
 そこへ現れたのは古多恵 花見(r2p000256)。激しい戦いがあちこちで発生したからこそ、K.Y.R.I.E.の医療班と共に傷付いた皆を治療して回っているのである。
「緊張するシチュが続くよね。だからこそ……休息ゆるふわしてこ?」
 花見も佑河と同じく、戦いを終えたばかりである。だが愛するゆるふわの為にも、まだまだ頑張りたいのだ。
 一方。
「うぅん……」
 箱根山中腹。半ば折れた塔、その天辺に器用に立って、篠崎 花梨(r2p005384)は天使クレーリが飛び去って行った方向――すなわち御殿場へと目を凝らしていた。
「……ダメです、よく見えません」
 闇を見通すその目なれど、雲や雨までは見通せぬ。不気味な雷雲がひっきりなし瞬くのが、ここからでも見えた。
 箱根に襲撃をしかけてきた天使の数は多く。補給地点の一つである山寺も、戦場の一つとなっていた。
「被害状況の確認を――K.Y.R.I.E.に連絡――」
 天使リリアフィーンによる強襲を退けた高柳 京四郎(r2p000017)は、自らの傷や疲れは二の次と、周囲の仲間達へテキパキと指示を飛ばす。がないという保証はない、ならば今の内に出来得るだけ体勢を整えねば。
 それに――御殿場で戦う者にとって、箱根は最寄りの拠点となる。彼らを無事に、迎える為にも。
 ノイモント・シャルラッハ(r2p001738)は防衛した簡易拠点に、そして仲間達に大きな被害が出なかったことに安堵を覚えるも、その眼差しは物憂げだ。幾度も御殿場方面を気にかけている。
 ――が、辛気臭いのも良くないか。折角、ここを守りきったんだ。疲れた仲間達を労う為にも、辺りに刻まれた戦闘痕の修復を急ぐ。
 音喰 禊(r2p001565)は、そんな拠点へと戻って来た能力者の一人で。
「はぁ、でした」
 微笑んでいる、だが疲弊と傷が見て取れる。それもそのはず、アーカディアⅤ勢力の天使に、崩天ミハイル(r2n000062)傘下天使ノヴィア(r2p006764)に、終末論者に蛇蝎化現だかつけげん――苦闘ストラグルと呼ぶに相応しい戦いを征してきたばかりなのだから。
「戦況はどうなってますか? ――そうですか、まだ未報告の部隊もいらっしゃる、と」
 ご無事だといいのですが。暗い夜を見上げ、乙女は呟いた。