
第五裁決シ・ビュラ Ⅳ
――閃く雷霆が、廃墟に散華せし鮮血を照らした。
(間に合わなかった)
都築 広斗(r2p005623)が両手にもつ拳銃から、細く煙が立ち昇る。震える少年の瞳は、ただ、ただ、握りしめた銃を見つめて、そこから何も動けない。
込み上げる感情の名は、悔しさ、無念、無力感――
(……負けてしもた)
項垂れた名無(r2p006054)は歯噛みする。天使達の去った廃墟は、遠く聞こえる雷鳴ばかりが静寂を埋めていて。
天使トレッサ・クーザン(r2p007010)、アムエラ・テイカーズ(r2p005625)を退けたアイラ(r2p006664)達の部隊は、傷や疲れもそのままに、御殿場のゴーストタウンを駆けていた。
(……嫌な予感がする)
ぞくぞくと。ぞわぞわと。
何かが、破滅が、起き始めようとしている、ような。
――立ち尽くす。セレーネ・ローザ・フォレスティ(r2p000402)は、彼方の空を見上げながら。
呼吸が、震えて。下唇を噛む。冷え切ってしまった手を、どうにか、どうにか、組んで。
「主よ、どうか……」
彼女を、お守りください。
――……
彼方、未だ観測されぬ場所。
ねえねえ、聞いて聞いて。続々と戻って来る天使達へ、天使ターリルが声を弾ませた。
「ステラおねいちゃん(r2p002295)とスピカちゃん(r2p001838)を鬼ごっこでゲットしたんですよ!
リルちゃん、とーっても楽しかったです。えへへ、アレクシス様喜んでくれるかなあ?」
「猊下の命を果たせてよかったです」
対照的なまでに静かな声は、天使ジルデ・ビターダの玲瓏。彼は交戦した能力者の一人、りもこん(r2p005402)を連れ帰っていた。
負けじと、小さく鼻を鳴らしたのは天使フェルエナ。捕えた人間――今は意識を失っている魂(r2p000385)をちらと見やって。
「エナだって、至高へささげ奉るための気高きものをご用意したわ」
それらを遠巻きに見ているのは天使エルシィで。戦いのせいで更に汚れた軍装の袖を、腕の上から引っ掻くように掴んでいた。何度も何度も、意識のない明星 和心(r2p002057)を見やるのは、万が一でも彼女が目覚めて逃げ出してはならぬようにと警戒しているかのようで。
「……ッ」
何事かを紡ごうとしたエルシィの唇は、それでも僅かに震えるのみで、その言葉を表すことはなかったけれど――。
――その瞬間であった。
明らかに。確実に。その場の空気が変わる。
重く、厳かな――それが何を意味するのか、この場の天使全てが理解をしていた。
ゆえに。一斉に。機械仕掛けが作動するように。天使達が並び、頭を垂れる。……しかしそんな中、ターリルだけは無邪気に手を振り、親が迎えに来てくれた幼児のように楽し気にツインテールを揺らして――現れた天使を、出迎えた。
「あっ! アレクシス様おかえりなさーい!
リルちゃんおつかい頑張りましたよー! ぶいぶい!」
……その様は、ある種の異質ですらあったろうか。
「――」
そんな配下達を、第五熾天使は一瞥し。
「随分と手古摺ったようですね。
……とは言え概ね、下した命が果たされたのならば良しとしましょう。人類が思ったより頑強な抵抗を見せるのは分かっていましたし、私の『裁き』も、真髄たる出力で起動した訳ではありませんし、ね。彼らに真なる意味での天罰を下すのは――次の機会でいい」
告げるものだ。
「では。裁決を下すとしましょう。
精々彼らが……愚かな道を選択しない事を期待するものです。
この滅びゆく世界にしがみ付いて死んでいくなど――無為極まる事でしょう?」