
ノエルカ・コイントス
「ねえ、ミハイル」
パノプティコンの牢獄を後にしたミハイル(r2n000062)の背中に呼びかけたのは同道した内の一人、ノヴィア(r2p006764)だった。
振り返らず「あん?」と柄の悪い反応を示したミハイルに、
「貴方、あの人達の事気に入ったでしょ」
ノヴィアは半ば以上確信を以って断定的に言った。
「気に入るも何も、天使の敵だぞ、アイツ等は」
「そうだろうけど。ミハイルはお気に入りが敵である方が好みでしょ」
「女の勘かい?」
「半分は。でももっとちゃんと根拠もあるかな」
主人との短くない付き合いの中で彼女は彼女なりに彼の事を良く知っていた。
「ミハイル、気付いてないでしょ。自分の癖」
「癖だって?」
「貴方、マジになると取るのよ、そのサングラス。
捕まってどっちみち死ぬのを待ってるような……
言い方アレだけど、死に損ないに向ける目とか扱いじゃないわよ、それ」
「……そ、そうだったんだ……ミハイルちゃん……!」
せめても空気を壊すまいと会談で息を殺していたノエルカ(r2p006756)が感嘆と尊敬を込めた目で親友を見た。
尚、この二名はほぼ同等の期間、ミハイルと付き合いがある。
但し、ノエルカは前述の癖等、今日に到るまで全く気が付いていない。
「勘のいい女と、悪い女の組み合わせかよ。お前等も大概面白ぇ凸凹だな」
「そりゃあどうも」
「生意気な女も嫌いじゃねーぜ。今夜どうだ、ノヴィア」
「私は別にいいけど、漏れなくノエルカの責任も取って貰うからね。
それでもいいなら付き合うけど?」
「……??? ノヴィアちゃん? えっと、え? わたし???」
ノヴィアの聡明な切り返しに「やっぱいいわ」とミハイルは肩を竦めた。
「……ま、ノヴィアの言う通り合格点は合格点だ。但し、ギリギリな。
ギリギリの赤点回避が本当に見るべき価値があるのかを決めるのは俺じゃねえ。
勿論、あの偉大な猊下でもねえ。答えが分かるか? ノエルカ」
「わかりません!」
「いい返事だ。お前はやっぱいい子だわ」
振り返って頭を撫でたミハイルにノエルカは「えへへ」と幸せそうな顔をした。
「えへへじゃないわよ……ノエルカ、本当にそれでいいの……?」
親友の驚愕に不思議そうに小首を傾げるノエルカはさて置いて。
「その問題、私も分からないんだけど。貴方でも猊下でもないなら一体誰が決めるのよ」
不思議そうな顔をしたノヴィアの問いにミハイルは上を指さした。
「……?」
「運命」
「……はあ?」
「コイントスみてーなもんだな。
お前は馬鹿馬鹿しいって思うんだろうけどよ。最古の天使が――権天使にも満たなかったひよっこが今でも生きてデカい顔してるのも運命だ。
結局、最後にモノを言うのは運命を持ち合わせるか。
あの菊蝶の言葉を借りるなら、捻じ伏せ従える器があるかどうかだ。
ただ……さっき言った通り。
連中には少なくともそのゲイムを試す価値は感じたけどな」
「……ミハイルってホントこういう感じよね。サワの苦労が今、知れたわ」
大袈裟に溜息を吐いたノヴィアに「もうすぐに分かる」と言ったミハイルは思いついたように「ヒントな」と付け足した。
……問題のヒントを付け足した。
「……………はああああ?」
「連中の先行きを決めるのは運命と――それから強いて言うならノエルカかな」
ミハイルはきょとんとした顔をしたノエルカを指さしていた。
「厳密に言うとノエルカだけじゃなく、あともう一枚も必要だがね。
それは見てのお楽しみって話にしとけよ」
「いや、まあ。一ミリも、全然分からないけど!
の、ノエルカに任せるのは流石に敵ながら同情するって言うか……」
「え、だいじょうぶだよ! がんばるからね!」
何が何だか分からないままに腕をぶしたノエルカに引き攣った顔のノヴィアはもう訳が分からなかった。
(……ミハイルでもどうしようもない猊下の権能。
シ・ビュラの檻。いいえ、パノプティコンを何で――ノエルカ!?)
……この世の中には事態をより訳が分からなくする自称ヒントもあるものらしい。
笑って再び歩き出したミハイルの背を眺めるノヴィアはそれを強く思い知っていた――

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