
星は見えるか
「成程」
K.Y.R.I.E.戦略室のテーブルには旧時代の関東地方地図が広げられていた。
箱根山付近には幾つかの駒が設置され、御殿場側にも疏らに並んでいる。それらは現在、K.Y.R.I.E.が作戦行動を遂行している地点を現している。が、めぼしい成果はゼロに等しい。
「市長から救出部隊編成許可が出た、と。承知しました。僕はこのまま情報収集と監視を続けます」
後方指揮に適応した能力を有する嘉神 ハク(r2n000008)の言葉に王条 かぐら(r2n000003)は頷いた。
「涼介君らしくない判断では合ったかもしれないね。私は彼の事を然程によく分かって居ないのかもしれないな。
不可能であるならば一蹴すればいい、けれど彼は此方の要望を聞き入れてくれた。……まあ、勇み足の私が猪のように暴れ回る可能性を加味してくれたのかもしれないけれど。
良い女の我儘っていうのはそう言うものだろう?」
「室長が猪のようになったら僕はどうすればいいのでしょう」
ジョークを口に出来る程度には彼女も落ち着きを取り戻したのだろう。ハクは肩を竦めてから、室内に居た幾人もの能力者達に向き直る。
「一先ずは後方支援部隊による情報収集を継続します。
事態が動いたならばすぐにでも行動が開始できるように準備を整えましょう」
「事態が動くって、本当に有り得ることですか? 待機をしていて、蝶ちゃんや魂くんが無事である確証なんてないのに……それを、待つんですか?」
苦しげに吐き出す音無 沙織(r2p000458)が親友や戦友を心配する気持ちは尤もな事だっただろう。
「さおりん、落ち着いて。……けれど、私もしっかり聞かせて貰いたいものですね。
待てと言われたから待機をするだなんて、首輪のついた犬のような動きを許容なさるのですか?」
『K.Y.R.I.E.じゃ仲間が情報収集も頑張っている。それでも、ちよの場所が分からないのに待ち続けろって?』
卯槻 咲月(r2p000433)に続き、白星 くろく(r2p000073)が投げ掛ける厳しい視線にかぐらは「言いたいことは分かるとも」と頷いた。
「今、情報はゼロだぜ。それで相手方が動いて後手に回っちまう方が怖い」
行方不明者を捜して欲しいと依頼した少女が行方不明になるだなんて、サスペンスの導入でしかないとぼやく根来 日向(r2p000005)に「そうです」と言葉を続けたのは獅堂 琳(r2p000609)であった。
「我々は龍華の家族を攫われた立場にあります。我々は心優しき市民ではない。
――我らは龍華です。帮主の顔に泥を塗られたようなもの。指を咥えて餌を待つ? 言語道断でしょう」
琳は、いや、龍華に集う者は誰もがそう認識していただろう。
必要悪を翌々理解した女は誰よりも前に歩み出た。ナイフを富士付近に突き立ててかぐらを睨め付ける。
「元より、我々はK.Y.R.I.E.に首輪を付けられては居ない身。ある程度は従いましょうが――」
「その辺りにしていろ、琳」
「……妃璃」
華氷 ヒメリ(r2n000018)は技術開発部に所属する地上 麦星(r2p001847)が纏めた情報に目を通し、顔を上げる。
「ステラと和心を迎えに行くのであらば、K.Y.R.I.E.室長の言に従うが良い。
そもそもじゃ。あの陰険坊主が事実上、不可能と言い切りながらも隊の編成をしたというのじゃろう?
ならば、その目は出るじゃろう。人類の選択と此方に委ねることはなく、奴がそう考えて発言したならば意味がある。
天使を殺すというなれば全員を無事に引き受けてからで構わぬ。流れ弾をブチ当てては困る故な」
「ああ、そうだね。……と、言うことで分かったかな? 心配をする気持ちは尤もだ。
私だって晃輝を直ぐにでも救い出してやりたい。
けれど、ね。それには危険が伴う。相手が強大であるならば尚更に。準備を怠っては何かが起こる。それは避けなくてはならないだろう?
私は全員が無事に美しく笑って居て欲しい。燈廻楼の華は何時だってそうあるべきだからね」
悠尋(r2n000083)は「それに、君まで何かがあれば純や絢がどう思うか」と白雪姫 エクエス(r2p004375)へと向き直った。
「……分かってはいる」
「そうです。分かって居ます。これは気持ちの問題だから……救出隊の編成が出来るだけ、きっと、嬉しい事なのに」
それでも、その気持ちを抑えられないと吉川 桔梗(r2p003347)は恋人を思い俯いた。
「なあ、相手の情報、もっかい教えてくれよ」
「幸生」
「幸生くん」
「相手はラファエラやら噂の崩天より強いんだろ? だから事実上不可能って事だ。
御殿場からそう離れたとこじゃないなら、そこに作戦本部立てて待機しようぜ。救出するならターリルとエルシィも出てくる可能性があんだろ?
なら、救出1本じゃない、そいつらを引き寄せなきゃならない。
あ、勘違いすんなよ、ハク。俺は楽観視してないぜ。
でもさ、沙織や咲月先生の言うとおりだ。待ってるだけじゃない。こっちも早く動こう。話してる時間も勿体ない」
「幸生、先ずは室長の話をよく聞いて待つように」
「クソ親父は黙ってろ。腰抜けてんならそこに居れば良いだろ! 俺はシンジさんやクラリッサさん、りもこんさんを助けに行くんだって」
「幸生くん! マサくんにそんな言い方しちゃ駄目でしょ!
命を投げ出すような真似をして夏帆ちゃんが喜ぶわけないでしょ!」
忍海――いや、来栖 幸生(r2n000010)は不機嫌そうな顔をして早吸 真砂美(r2p000166)を見た。
来栖 正孝(r2n000072)が我が子に待機を命じたくなる気持ちも良く分かる。
それだけ危険なのだ。
それこそ、マシロ市として中位天使と衝突したのは横須賀の一件が初めてであったのだから。
横須賀、そして、鎌倉と。人類の快進撃を続けようとも此度の相手は悪すぎる。
「……ねえ、ハクくん。幸生くんの言うとおりだと思う。
わたしたち、ここで待ってられないよ。何も始まらない。だから、御殿場にだけ行かせて欲しいな」
雨野 風花(r2p001432)はそう笑った。マブダチが居なくなってしまうのは耐えられない。
「うん、そうだね。皆の気持ちは尤もだ。私だって今すぐにでも飛び出していきたい気持ちは山々だよ。
熱したポップコーンよろしく弾けた勢いで現場に飛び込みたいところだけれど、火鉢の中は熱すぎてどうしようもないからね。
御殿場に作戦本部を設置しよう。その上で、救出部隊の編成をしようか。必要とあれば陽動もね」
かぐらはふわりと微笑んでから正孝の肩を叩いた。
「それに、涼介くんみたいな男が言ったんだ。
囚われのお姫様達が自分で鍵をこじ開けてくるか、居眠り門兵がいるのか、それとも、ちょっとしたアクシデントがあるのかは分からない。
――それでも、必ずその機がやってくる。それに賭けようか。
私達の祈りが神様とやらに届いたなら、運だって巡ってくるものだろうからね」

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