
貴方は白馬の王子様
――戦いの音が響く。
朝も、昼も、夜もなく。
澄み渡るはがねの音は、紅邑 咲(r2p000353)が振るう鋼糸とセラヴィの刃が擦れ合う音。火花。翻る帳の髪。
富士山が見下ろす、緑に沈んだ世界にて。咲の緑瞳が刹那に見回すのは、能力者を取り囲む大量の天使であった。
「数の暴力で……押し切れると、思っているのでしょうか」
「なら、一気に蹴散らそうか」
背中合わせ。乾・依心(r2p000803)は頬に伝う血を手の甲で拭うと、そのまま拳を握り込んだ。自らに憑依している犬神の力をそこに込める。
アイコンタクト。咲が頷く。依心は息を合わせて地を蹴った――爆ぜる雷光が辺りを呑む、炎雷神拳。
その瞬きを背後に、咲は自らの黒い血を針雨と化す。穿血燐罹、それは人で無しの血の呪い。
前線を一気に押し返す。ならばそれを食い破るように、筑摩 十郎(r2p004144)は二つの刃を構え疾風の如く飛び出だすのだ。
「押し通ります!」
どれだけ――どれだけの天使を屠っただろう、もう途中から数えていない。
それでも。まだまだ。目の前に天使が、立ちはだかると言うのなら。
――CODE:Prince Charming。
白馬の王子様と名付けられたその作戦は、行方不明となった能力者を救う為の戦い。
敵の数はまさに無尽蔵。更に力天使級をはじめ、強力な天使の存在も観測されている。
無傷での勝利は……ほとんど不可能、だろう。それほどまでに絶望的な状況。
なれど、手を伸ばさねば掴めないものがあるから。
めでたしめでたしを導くのは、きっと白馬の王子様だから。
「これはこれは」
進軍の最中、ベルセノス(r2n000207)は感嘆を零した。
この一分一秒の間にも、セラヴィ達が瞬く間に葬られていくではないか。火のついた薄紙が燃え上がるように。
(決して――こちらも薄紙などではないのですが)
そんな人間の、目覚ましい戦果を挙げている者達と、もうすぐ激突する。
凄まじい戦いになるだろう。脊髄がヒリつくような予感に、男は銀髭の奥で含み笑う。
ならば――いつか神話になりますか?
――迫る強敵の気配。
なれども、メイド服を瀟洒に翻す黒百合(r2p006487)の表情に焦りの色はない。
ただ、掃除をするだけ。終わるまで、そうするだけ。
「失礼、お掃除の時間です」
召喚されるは数多の銃火器。一斉掃射されるマズルフラッシュは、まるで地平線よりの夜明けのようで。
そんな灯りが、ルピナス(r2p000420)の星雲の翼を照らした。幽遠の羽ばたきは魔力を纏い、暴力的なる剛爪となる。
「ぜんぶ、おしまい」
斬り裂く。斬り拓く。斬り捨てる。――そうして進めばきっと必ず、姉貴分(r2p002057)がいると信じて。きっと生きてる、きっと会える、そうしたらきっと必ず――「おかえりなさい」を言う為に。
シン=リトル(r2p000771)は蛇が巻き付いた長杖を掲げた。治癒の光が、暗闇に灯る。そうやって最前線、皆の命を引き留め続けながら、思い描くのは友(r2p000425)の顔。この治癒の光よりもあたたかく眩しい、日輪の笑み。
(必ず、……!)
取り戻すんだ。
想いは同じ。だからDISK(r2p001453)と雪音(r2p000339)は目線を交わし、息を合わせ、治癒の術式を展開する。
『サポートは当機にお任せください!』
ただ機械的に回復をするでなし。DISKは人の為に在るロボットだ。その声は、言葉は、全て全て人の為に。応援を。この言葉に何の魔力がなかろうと、それでもきっと、力になるから。
「必ず、皆で……生きて帰りましょう」
雪色の髪を翻し、雪音も優しき風雨を仲間へ注ぐ。きらきら、儚い煌めきなれど、込めた想いは溶けやしない。誰も、誰も、欠けるものか。
「ヒトらしく、抗いましょう。……それがヒトの生き様です」
それは一種の渇望か。月音 涙(r2p000814)は向かって来るセラヴィを圧縮暴風で吹き飛ばしながら、前へ。前へ。
力天使級との戦闘はほどなくだろう。……かつて横須賀奪還においては、犠牲を払った上でどうにか勝利したような連中だ。
だけど、涙は「危ないから」で誰かを見捨てることなんかできなくて。
――大津 月翔(r2p000520)もまた、逆境上等の心持であった。
祝血。自らの血を聖なる竜血に変えて、放ち、焼き尽くす。燃えるセラヴィの羽根が火の粉と共に、戦場に舞う。
「天使なんざ相手じゃねぇ。天より上に、俺が立つ」
それが、彼の望む事。見澄ます先に、力天使の軍勢が見える――
駆ける。前へ。止まることなく。
刻見 雲雀(r2p001692)は静かに、静かに邪眼を向ける――封術・紅籠繭檻。蚕が繭を紡ぎ籠るが如く、血の糸がセラヴィ共を絡め取る。
「抜け出せると思わない方が良い」
まもなく天使ヴァルトルーデとの戦いが始まろうとしている。雲雀は彼方を見澄ました。
為すべきことは、ただ、一つ。
「……彼らを返してもらうよ」
きっとその手を、届かせよう。
だからこそ。
立ちはだかる大天使が得物を構える。痛烈な一撃が来る――
「さ、せ、る、――かッ!!」
ならばそれを凌駕する痛烈を。先んじたのはアダマス・逆叉(r2p001637)。黄金剣の力強い一閃が、真正面から大天使を斬り捨てた。かくして天使による脅威は来たらず。羽と塵へと消えゆく骸を一瞥、アダマスは汗に濡れる額を拭うように前髪を掻き上げる。
「ふゥっ……全くキリがないであるな! だが――」
この戦いは一つとて無駄ではない。そう信じ、アダマスは戦い続ける。呼吸を整える。
「さあ! まだまだゆくぞ! 我らこそ……白馬の王子様である!」
なんて。こんな戦況だからこそ、明るく声を張ろう。鏑矢となろう。灯火となろう。
いざ覚悟せよ。全レイヴンズの中で最もセラヴィを屠った男は、仲間を奪った連中へ灸を据える為に前へ出る。
