Code:Moytirra『霊砡』


 少女は1人嘆息した。
 されども、その表情は決して暗くはない。敵前に佇む際に笑みを絶やすとは同僚たる彼ブラムザップが許さぬからだ。
 未だ自身に付き従う天使級大天使級セラヴィ達は健在――その扱いは同僚たる彼ベルセノスにも劣らぬ物だろう。
「……ああ……倒されちゃいましたか……。ゾルダさんも、ルフェンドさんも、ベル・プペさんまで……」
 苦しげに息を吐いたのは同僚たる彼女忘れ得ぬ友人ならばそうするからであり、憂い、厭うような顔をしたのは同僚たる彼ウィラならばそうするからだ。
「それでも、まだ皆さんが健在だもの。負けません、負けてません……。大丈夫です。
 ええ、私達が――が負けるわけがないですか! 弱気は損気です、ねえ」
 小さく笑みを浮かべながらも自信に満ち溢れたのは同僚たる彼女イザベルならばそれを損なわぬからだ。
 信仰が如く口にしたのだって同僚たる彼ジルデならばそうするからであり、朗々と告げたのは同僚たる彼フィフスのようであった。
 負ける気などは無くただ殺戮をも前にしているのは同僚たる彼女フェルエナならばそうするからだった。
「ふふ――ええ、そうです。わたし達がどうして負けましょうか。霊砡が壊されたからといって、何を恐れる事があるんでしょう。
 ……そう、たったそれだけのこと。消化のペースが早いのは予想外でしたけれど、それでも、です。
 それでも、たったそれきりのことでしょう。人間達の可愛らしい反攻だと思うべきでしょう。
 たかだか少しばかりの反攻を私達が恐れ、慄き、怯える必要がどこにあるのでしょう――ええ、少し位は希望を与えた方が良い。
 圧倒的な絶望の前に多少の夢を見せてやれないほどに狭量ではありません」
 ――それはきっと、おのれの在り方を姉として振舞う教えてくれた彼女ヴァルトルーデが自らにそうあるべしと臨んで暮れたからこそ唇から滑り出したものだった。
「リル様」
 呼び声に少女は、ターリル・マルタルは顔を上げた。
「はい、どうかしましたか」
「人間共は未だ健在。各地にて攻勢に転じていた者達の撃破報告も上がっています、が――」
「焦らなくっても大丈夫ですよ! だって、リルはまだ大丈夫です。
 それに、エナちゃんも、ベルさんも、ウィラ君も、わんちゃんも、ザップさんもめがねさんだって負けてませんよ!
 あ、そうそう。ベルおじーちゃんの部下の皆さんだって頑張ってくれているはずです。
 大丈夫。わたしたちはと望まれている。
 人類に絶望を与え、この場で勝利を収めるべし、と――」
 静かにそう告げた彼女はを示す様に微笑んだ。

「――だから、負けませんよ。ねえ、皆さん」

 眼窩には能力者達の姿があった。霊砡イヴァルを壊しきられたならば、次は――そんな予感をひしひしと感じながら少女は双剣をそろりと引き抜いた。
「我らは絶対的な勝利の名の元にある」


・*+.Autumn Novel Campaign.+*・

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