Code:Moytirra『蒼をはためかせ』


 男の名はトレッサ・クーザン(r2p007010)と言う。
 男は武人である。男は力天使ターリル・マルタル(r2n000197)を崇拝し、彼女こそを唯一無二であると認識していた。
 主の今の現状を見ていて、それがであることは察してしまった。
 だが、彼女が第五熾天使アレクシスによって与えられた力天使という立ち位置は揺るぐことはない。

 ――お前は俺が「油断できねえヤツ」だと思うからそうなるのか?
   違うだろ? 俺が「ただのチビッコで、ヒヨッコ」だと心底思ってても、戦い慣れたままなんだろ?

 黒百合華 冬夜(r2p002257)はそう告げた。ターリルはそれを否定しない。
 ただのちびっ子で、ひよっこで、幼気な娘であるのはだけだ。その実力は陰ることはなく、彼女は自らという器に無数の力の在り方を吸収していくだろう。
 決して、揺るがぬ強さ。決して、喪われぬ脅威。それこそがトレッサの思う可愛らしさなのだ。
「余所見ですか?」
「ああ、すまない。ローズ・アミシア。かわいい戦士より目を離すなど言語道断――!」
「……そうですね。今は死合いの最中、そうでしょう?」
 邪剣を用い戦う座敷童は1人の敵に固執することは無かった。だが、珍しくも目の前の男を追掛け続ける。
 その剣の実力を評価し、確かに戦士として認めた男を殺すまで。ローズ・アミシア(r2p000753)は諦める事はないのだろう。
「ああ、素晴らしい時間だとも! ものたちがこんなにも居る。そうだろう? 祠堂 一葉!」
 呼び掛けられてから祠堂 一葉(r2p000216)は困ったように笑った。彼とは幾度となく剣を交えてきた。
 その度に告げられるの意味だって理解している。が、臆面も無く同意を求められると惑うというもの。
「どちらがか、競い合おうか。トレッサ」
「ああ、そうしようではないか」
 ――男の中でとは即ち、強者の証なのである。
 対等に戦う意志を持ち、どの様な相手でも驕ることも、侮ることもない。信念が強く、何よりも武の誉れを持つもの。
 それが、のだ。トレッサの慕う主もトイ・プードルのようでありながら忠実な番犬として非情さを持ち合わせただ。
「かわいい……比べ……」
 そう呟いた神白 小雪(r2p002004)に「あのハゲ よくわからない なの」とアンセルマ・イアハート(r2p000022)は首を傾げた。
「わからない なの。でも コユキ も るうあ も セルマ もここにいる なの。
 負けない。それだけはたしか なの。るうあ? るうあ?」
「は~~い、此処に居ます! ほら、まって、呼んでますよ、ねいちゃん先輩!!」
 ハンマーを手に走るるうあ(r2n000029)に「わわわわ」と声を上げて引き摺られてやって来た結樹 ねいな(r2p000031)はへらりと笑みを浮かべた。
「いや、目の前に中ボス」
 思わず愕然と呟くねいなに「ゆ、油断はだめです……!」とルルリエナ=A=ムーンライト(r2p000483)が怯えた顔を浮かべ、精霊達の力を天宮 瑠花(r2p000327)が分け与えた。
「次から次に、と言った調子ね。ふふ、ヴァイキングの戦士はどのような荒波でも乗り越える物なのよ」
「……うん。そうだよ。守りなら任せて……!」
 焔を纏った斧は無数に迫り来る天使級を退ける。ウルリーカ・ニルスドッティル=光明院(r2p003861)の背後より飛び出して天使セラヴィ達を受け止めたトーキー(r2p000439)の表情が僅かに歪んだだろうか。
「リル様……!」
 トレッサが振り返る。その双眸を受け止めてからターリル・マルタルは微笑んだ。

「大丈夫です。トレッサなら、大丈夫。なんたって、可愛いんですから」

 
 それは、一葉が共に特殊強襲部隊『マサクゥル』へと所属する戦友と呼んだ忍海 幸生(r2n000010)にとっても、そうなのかもしれない。
 八月一日 夏無(r2p000869)は彼がターリルにを見るのではないかと心配をしていた。
 あの監獄では、一度再現されたという彼の母親の在りし日の姿。
「……幸生。彼女は君のお母さんの仕草や言動を真似た事もあるそうだ。気を付けて対応にあたろう」
「俺、かあさんのことを覚えてないんだよ」
 その言葉に雪永 千詠子(r2p001295)ははた、と動きを止めて胸を締め付けられるような想いにもなった。
 それはだれかの礎であって、それはだれかの郷愁であって、それはだれかにとっての夢であるのかもしれない。
(与えられた名前のままに、望まれた姿のままに、ずっとずっとそうして生きて来た。そうだよな。今更だよな。
 今更『本当の自分』とか『本当にやりたいこと』とか、そんなの言われても困るよな。
 だってそんなの、なのに……ああそれでも、俺はおまえを否定し続けるよ)
 木葉 秀逸(r2p000669)はゆっくりと彼女を見た。まだ、遠い、遠い。手も届かぬ場所で文字通りの

 ――きみ、目が良いんだろう? だから、見えているだろうね。
   もうすぐ逢いに行こう。きみを慕うこの天使達という荒波を乗り越えて。

 文字言葉が宙を踊る。ベアトリーチェ カルミーナ(r2p004365)を見下ろしたターリルはにっこりと笑った。
「さあ、トレッサは強いですよ? ジゼルコアも! それに、みんなみんな。
 リルちゃんはだいじだからこそ、印を付けたんです。蒼い、青い、碧い、の色を!」
 ベアトリーチェは息を呑む。
 ああ、そうは言ったって、きみの瞳は、赤く染まり続けていっているではないか。



※力天使『ターリル・マルタル』との戦いが進行しています!


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