
思い出は苛む
――エルシィ。あなたはもう少し、自信をつけた方が良いでしょう。
そう、優しくいった、ベルセノスの顔を思い出す。
――ベルセノスのいう通りだ。そんなしょぼくれた顔してちゃあ、いざって時に締まらねぇだろ。
そう、からかうように言った、ブラムザップの顔を思い出す。
そのどちらも、もういない。
先に散ったベルセノスのことを――そして今、ブラムザップが墜ちたことを、その力天使は何か、本能的なざわつきで理解していた。
思えば、何かをこぼしてばかりだ。この世界に来た時から。仲間を。友を。理想を。そしてすべてを。
自分が何者なのかさえも忘れつつある力天使は、しかし、まだ復興のただ中にあるであろう廃墟の街を、這いずる様に歩き続けていた。
ああ、まるで、昔のようだ、とも思う。
ただ、悪党に使われるだけに使われて、虐げられるだけに虐げられて、地べたを這いずり回っていた、人であった頃。
――ベルセノスの遺産たちがまた壊滅したことも、今のエルシィには理解できていた。あまりにも悲しく、胸を掻きむしるような感情は、 『星月よ、我を覗くことなかれ』の力によって、即座に失われていった。
直に空っぽになるのだろう。でも、全てが空っぽになった時に、最後、最後だた一つだけ、言葉が残っていればそれでいい。
それでいいはずだ、と、エルシィは思っていた。
「なにかくもりがある――この戦場で戦う、イレイサー達には――!」
九重 セナ(r2p001747)が叫んだ。何かが欠けている。くもりがある――その思考。拳。剣。あらゆるもの。
でも、それがなんなのかを、きっと、イレイサー達は理解していないだろう。できないのだ。なぜならその疑問も、浮かんだ瞬間から砂のように零れ落ちていくものなのだろうから。
「そのくもりとやらは、戦場の置いてはうぇいととなるものです。
ですが、ないならないで、それはまた問題なのでしょうが」
黒緋 三四郎(r2p003226)は、いっそ冷たく、当たり前のようにそう言った。欠けたもの。うぇいと。心に残るべきもの。それは重さであり、何かをここに引き留める鎖であり、覚悟であったのかもしれない。
それが欠けているというのであれば――結局。彼らは、何のためにここに立っているというのだろう?
『さて、あむ君。状況はどうですか?』
状況を整理するように、エレス・イルレーウェ(r2p000469)は七井あむへとテレパスにて問うた。
『敵もまた、術中にて。
こちらもまた術中なれど、それを理解してるものもいる――』
「アドバンテージはこちらにある、っていってもいいとおもう」
あむは応えた。
「わかっていないということをわかっている。
これは大きい有利だよ。
実際、それを探し始めた人たちもいる――」
「そうです。それは、彼らだって、忘れてはいけないものだったはずなのです」
はらりと言葉に宿った色は、悲しみの色であろうか。スヴィン=A=アルクティカ(r2p005471)は、些か悔しげにそう語る。
「忘れてはいけなかった……その筈なのに。大切なもののはずなのに……!」
「まともじゃない世界にいた誰か。
……忘れている、誰か。
それを……」
頭に手をやる様に、エドワード・ルイス(r2p000459)は呟いた。ここに居ない誰か。ここに居ないそれは、エドワードもまた、知っていたはずのものだったはずだ。
『ベルガモートにコンタクトを取っているよ』
ベアトリーチェ カルミーナ(r2p004365)はそう言葉を紡いだ。
『どうやら――あちらも同じ状況。
今のところは、協力してくれるらしい』
「今のところ、ベルガモートが見つけられないなら、強力な隠蔽の力なんだろうねぇ」
頷いて見せたのは、同様にエルシィを探す、新垣 雪季(r2p000164)であった。
「こちらも地道に足で探さなきゃなさそうだ――でも、権天使たちも抑え続けなきゃならない……」
どうやら、楽に見つけられるものではなさそうだ。こちらもそれなりの人数を動員して探さなければ、ならなそうであるが――当然、敵への対処は第一に考えなければならない。ここを突破されれれば、我々には後がないのだから。
……戦場の様相は刻一刻と姿を変えつつあった。
果たして、どちらが何をつかみ取るのか。
それはまだ、解らないまま――。
※力天使『 』との戦いが進行しています!

