
崩天の男III
「……いや、正直舐めてたよ。
ハッキリ言うなら、アンタ達は思った以上だった。
流石に甘く見過ぎたって言うか――失礼だったよな」
レイヴンズ主力の本陣で、滅茶苦茶な乱戦は続いていた。
その中央で大暴れするのはそう言った崩天のミハイル。
ノヴィア、ノエルカの二体の能天使と権天使ベロニカを随伴させた彼はここまでの死闘にもまるで涼しい顔をしたままだった。
他方、彼等を受け止め続けたレイヴンズの方は傷付き、疲れ、満身創痍の色が刻一刻と強まっていた。
見れば分かる通り――ミハイルは圧倒的であり、レイヴンズは劣勢であった。
だが、それでもだ。
「甘く見てたよ」
最強とも呼ばれる主天使にさえそう言わしめる健闘は成る程、彼等が彼等であるが故であった。
涼介・マクスウェルの警告があった事は確かだ。この状況を予測して柔軟に受け止められたのも確かだ。
だが、だからと言ってミハイルを相手に戦線を瓦解させず、組み合うまで持っていけた事実は賞賛に値するという事なのだろう。
「薄々気付いてるかも知れねぇが、俺の主目的はアンタ達じゃない。
アンタ達は幾らか凹んで貰って――そこそこ死んで貰えば十分だった」
まるで友人に語り掛けるかのように気安く、ミハイルは余りにも物騒な事を言い出した。
「だがなァ。今は少し意見が変わったかな。
アンタ達は何なら可能なら全滅した方がいいし、そうでもなくてもきっちり念入りに殺しておくべきかなと思い始めてるよ。
そうでなきゃ――どうしてかな。アンタ達、てんで弱いのに。
肝心なトコで俺の野望とかそういうの? 決定的に邪魔される気がしてならねェんだわ――」
戦いの合間の僅かなお喋りの時間。
それは呼吸さえ乱れに乱れたレイヴンズにとっては実に貴重な回復の猶予だった。
だが、この時間が良いものでない事を既に歴戦の彼等は感じ取っていた。
――ミハイルの纏う空気がまるで別物に変わっているのだ。
「まさか。まさか、アンタ達相手にここまでやる事になるとは思ってなかったぜ」
赤く噴き出したオーラが上半身、両肩両腕を中心に渦を巻いていた。
右腕、左腕に硬質のパーツが巻き付き、現れている。
それは酷く歪で、酷く武骨で、酷く殺し、壊すのに最適化された――まるでミハイルそのものを思わせていた。
「気ぃつけなよ、アンタ達。ここから先の俺はさっき程優しくも甘くもねェからよ。
何せ、手加減するのが此の世で一番苦手でね――」
ミハイルは初めてその徒手空拳に武装をして獰猛に笑った。
「――時間切れも近いみたいだし、そういう事で第二ラウンドといくとしよう」
それを知っていたのか、気付いていたのか。
ミハイルがそう言うのと北靈院 命(r2p000308)が強い警告を発するのは同時だった。
「……! 彼方から、天使の軍勢が襲来……! あれは……バルトロ、です……!」
※K.Y.R.I.E.主力部隊でミハイル派との戦いが進行しています!

