ジョーカーの招待


 空白地帯には召喚士を名乗る天使がいる。歯車を利用し、アザーバイドや変異体を傀儡にするという権能を有する天使だ。
 実に、実に素晴らしい権能だった!
 あれならばに献上すればさぞや喜ばれることだろう――
「まあ、振られてしまったのだけれどね」
「そうなの? ジュールヴェール」
「可愛そうね? ジュールヴェール」
 サーカス団を名乗る天使の一団、その団長を務めるジュールヴェールはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「仕方がないよ。彼、イーリロスは変質してしまった文明に興味を持っていた。
 特に南街を汚し続けたアザーバイドには興味と、親愛、それからとびっきりの憤怒を抱いていただろう?
 全てが真っ逆さまに転がり落ちたならば、次に彼がその感情を向けるのは自分の手で御せぬアザーバイドではなくだっただけだ」
「レジスタンス・ドクター?」
「それって、ノエって男かしら?」
 ピエロを思わせる可愛らしい天使たちにジュールヴェールは頷いた。
 多摩地域は愉快だ。が東京から動く気があるならば真っ先にこの場所に連れてきたいと思えるほどに。
 この小さな小さな場所には東西南北、そして中央のエリアが存在しそれぞれに特異な性質が存在している。
「イーリロスはノエの事だけしか目で追っていないだろう?
 もしかすると我々がノエを手に入れることが出来たならば、彼は此方と手を組んでくれるかもしれないね。
 ああ、けれど、きっと彼はひどく憤慨する!」
「じゃあしない?」
「ならしない?」
 ジュールヴェールはまたもや彼女たちに頷いた。
 下手にと内輪揉めをしているようないとまなどあるまい。
 その選択肢よりも先に熾天使をも打ち破ったと噂されたK.Y.R.I.E.の能力者を間引きせねばならない。
 ジュールヴェールは理解している。生き残るには知恵が必要だ。
 まずをもって手出しをしたくないのは海にいるデカブツだろう。
 海の怪物はとてもじゃないが制御もできない、太刀打ちなどできない。あのような駄々っ子、暴れ回っては海をミックスジュースに混ぜっ返して何であろうとも平気で捻り潰してしまう。
 蟻の子一匹の命に気を配らぬのと一緒だ。海の怪物クラーケンなんてものは、ジュールヴェールは顔も合わせたくもない。
 ――が、K.Y.R.I.E.はそちらへと進んでくれたらしい。放置していれば人類圏に衝突するのは目に見えていたからこそやむを得ないのかもしれないが。
(あの怪物ゲテモノがK.Y.R.I.E.とマシロ市を多少間引いてくれるとするなら――ああ、でも惜しいかな。彼らは実に面白いのだもの。
 人類を捨て、他の天使などどうでもよく、姫君が自らの首を刎ねてしまえといえば刎ねられるような人間が居たら?
 我々はサーカス団に、彼女の玩具箱にそれを招き入れなくちゃならない! そうでなくてはだろう!)
 幼い幼い金の姫君。眠たげな彼女を揺さぶり起こしたのは第五熾天使アレクシスの気配であり、海の怪物クラーケンの動きでもあった。
 泣き虫で寝坊助な彼女にとびっきりのプレゼントを渡さねばならないとサーカス団は活動している。
 その中で疑問であったのが――

「ねえ、君たち? ?」

 彼らは、きっと自身らの脅威となること、だった。
「だからこそ、彼に合わせなければならない。
 召喚士イーリロスは駒が欲しい。ノエをその手に落とさなくちゃならないなら万全にと考える男だからね。
 ふふ、あれはコンプレックスをこじらせているから、魔術師ノエに凡人じゃ叶うまいって躍起になってる。
 ――なら、イーリロスの元にK.Y.R.I.E.を連れていけばいい。彼らとぶつけ合って数が減れば……その中で見込みあるものがいれば我々の仲間に引き入れればいいんだから」
「まあ、悪い子」
「まあ、酷い子」
 くすくすと天使たちが笑っている。ジュールヴェールはとびっきりの笑顔を浮かべてから「そうだろう!」と手を叩いた。
「抜け道は開いておいた。そろそろ我々もあちらへ向かおう!
 こそこそと嗅ぎまわっていた紫恵那ナースはイーリロスが何とかしてくれたかな?
 あれはノエの手下だそうだからK.Y.R.I.E.と接触されてしまうと困ってしまうものね」

 ――親愛なる人間諸君。
   に何があるのか知りたいのであれば是非、こちらに来ておくれ。
   多摩にはレジスタンスを名乗る限られた人間が住んでいる。
   君たちは未知をも好ましく思うだろう?
   星降る、巨人の遺した、未踏なる
   どれもこれもが君たちの心を揺さぶると信じている。
   それでは、また会おう? 次の公演を是非、楽しみにしていておくれ。

 K.Y.R.I.E.に向けて一通の手紙が届いたという。
 それがサーカス団を名乗る天使の者であるというのはその文面からも確かなことだった。
「……多摩ですか。マシロ市に近い事もある。あまり見過ごせませんか」
 嘉神 ハク(r2n000008)は渋い表情を浮かべていた。多摩へと通ずる道があるというならば、そちらで活動する天使が町田側からマシロ市に接近してくる可能性もある。
「調査として向かうとしましょうか。彼らは広域に対しての捜査網を張っていた。
 鼠の目を駆使して、こちらが第五熾天使戦を御殿場で行ったことも、小田原でのこと、そして海……。
 それ以上に彼らが知りえる多摩や東京、そして、となった相模原の事……。
 そうした情報を餌に誘き出そうとしていることは分かっている。ですが……」
 それ以上に、他の敵対勢力と少数で在れども人類の生存が仄めかされているのを無視することはできまい。
「索敵と調査を含んだ上での、相手に応じるための掃討戦としましょう。
 そこに何があるのかを知る為に――……今回は協力はしていただけますね?」
 そっと視線を送った先、白衣と魔道具の首輪をつけて不機嫌そうな顔をした雀居 影臣カゲオミr2n000218)は「索敵の手伝いしろだろ」と手元のタブレットを見下ろして嘆息した。
「相模原はともかく、多摩だろ……多摩のレジスタンスか……。
 俺もあそこは気になってたから、ま、協力してやるよ。
 しないと怖い警察やつらに牢送りなんでね。斯ういう仕事だけは条件付きでやってる。まあ、信頼してくれ。
 、俺は知的好奇心には抗えない性質なんでね――」





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