はじまりはじまり II
「では、今日こそは……分かり易く説明をお願いしたく思います」
信楽 信(r2p000136)は見慣れた主人の不穏な風情に苦笑いを嚙み殺してそう言った。
眼鏡越しにじっと彼を見つめ、次の言葉を待っていた。
「宜しい」と相変わらずたっぷりと溜めを見せた涼介・マクスウェル(r2n000002)は説明らしきものを開始する。
「何処から説明するのが一番良いのか――
まず……熾天使とは何か、からにしましょうか?」
「不倶戴天の敵……という割には何も知りませんよね。市長さん以外は」
「今日まではね。全てを語るかは微妙な所――そこはどうも兎も角ですが、私の持ち合わせる情報の大部分はお渡しする事を約束しますよ」
涼しく、僅かに皮肉めいた獅堂 琳(r2p000609)の言葉を涼介は受け流す。
「熾天使とは、神から使命を受けた特別な存在です。
原初の数は十、今は十一。
アーカディア・イレヴンと呼ばれる連中がそれに当たります」
「熾天使は……という事は。他の天使は神命とやらを受けていない……?」
高柳 京四郎(r2p000017)の確認に涼介は「はい」と小さく頷いた。
「あくまで神から約束を受けたのは熾天使のみ。
それに連なる天使は熾天使の目的を信じ、熾天使を通じて神のゲイムに参加している。
……まぁ、次の問いは分かります。そも、神とは何か?
これは実に難しい問いだ。哲学的な意味では無くてね。
実を言えば、私にも正確に把握出来ていないのですよ」
「誤魔化しは無しだよ、市長さん。奇術師は騙す方が専門だからね」
少し言葉を探した涼介に黒森・秘蜜(r2p000247)の眼光が鋭くなった。
霧の中までを見通そうとするように目を細めた彼女に涼介は「そんな心算はありませんけど」と肩を竦めた。
「……本当にこれは難しい問いなのです。
恐らくはマリアテレサだって、それを正しく認識していない。
彼女の場合は――思い込みが聡明さを邪魔しているだけかも知れませんが……
さて置き。神に関して私は正解を持ち得ませんが、相応の仮説を立てる事は可能だ。
まず、神をどう定義するべきか。
恐らくこの世界を含めた根源を創造した――造物主であると考えられる」
「――――」
牛山・安和(r2p000258)は思わず息を呑んだ。
市長の言葉を疑う訳では無かったが、彼の言葉は文字通りスケール違いだった。
(……全ての世界の、造物主……?)
オルフェウス等の存在を鑑みてもこの世に世界は星の数程の存在するように思われた。
その全てを生み出した存在が使命を与えたのが熾天使だとするのなら、これは心穏やかにいられる事実ではない。
だが、この世界は圧倒する超常の全てを否定出来ない位に慣れ切っている――
「まぁ、一応私の仮説を正として話は進めましょう。
その造物主は或る時、十体の熾天使を命じた。新たに生み出したのではない。
全ての世界の中から神の都合に合い、同時に極めて優秀な十体を熾天使に任命し、同時に彼等の手足に成り得る者に天使の啓示を与えた。
これが一番最初のお話。つまり天使の始まりだ」
涼介はレイヴンズの問いを待たずに説明を続けた。
「恐らく皆さんはこう思った筈だ。
神は何故熾天使を生み出したもうた、か。
仮にも神とされる父が――何故、無慈悲な破壊を生み出さなければならなかったのか。
……実に妥当な疑問ですが、勿論理由はある。それは――」
――全ての世界を生き永らえさせる為、ですよ。
「……は?」
Lucia Afrania(r2p000218)が我慢出来たのはそこまでだった。
悪魔が神をしたり顔で語る事自体が相応に苛立つ事実。ましてやその神があの偽物共を使役しているなんて話は彼女の信仰に中指を立てるが如き言説であった。
明らかに機嫌を悪くした彼女に構わず、涼介は更なる言葉を重ねる。
「正確であるかどうかは――私にも自信はありませんがね。
私はこの世界の神は揺蕩う目的意識の塊――謂わば、最適を求むるシステムのようなものであると認識している。
神が熾天使に世界を破壊を命じたのは、その破壊が世界の維持に必要だったからだ。
……何故、そうなったか。それはね。無数に膨張し続ける世界を消失させるもう一つのシステムが機能不全を起こしたからに他ならない!」
「システム……にゃ……?」
「はい。先に述べた神に似た対極。創造神に対なる破壊神。
根源の創造と維持を担ったのは造物主ですが、枝分かれする世界は混沌のスープから指数関数的に枝分かれし続ける。
これを造物主が直接コントロールする事は困難だったようだ。
だから、創造には破壊が必要だった。
膨張し続ける世界が器を壊さないように、無選別に破壊を担うシステムが必要だった。
過膨脹が続けば器を超えた世界の全ては壊れてしまうのだから必要だった……
……いや、造物主が欲したではなく。二個は同格だったのかも知れないが」
ミア・レイフィールド(r2p000284)に応じる市長の言葉は実に荒唐無稽そのものだ。
されど、涼介は変わらず大真面目な顔をして話を続けている。彼が疑う余地も無く上位存在である事を既にマシロ市の一部は理解している――その言が、間違った事等無い事実と同じように。
「破壊の機能不全は造物主を焦らせたのでしょうね。
いや? それに焦る、なんて。人間的情緒があるとは思えないが――
神はかくてシステムの代わりに世界を間引く代行者を求めた……という訳です。
Case-Dより余程制御しやすく、確実に事を遂行する人為を探したのです。
そうして産まれた熾天使は長い時間、数多の世界を間引けとする神命を達成する為に尽力してきた。
……熾天使が力ある者に敗れれば、その宝冠を失う事は知っていますね?
そう。彼等は幾度も代替わりをしながら神命を遂行する時間を過ごしてきた。
――だが、これは、ここまではあくまで神の望みに過ぎない」
レイヴンズは涼介の言葉に首を傾げた。
熾天使とはただ神に忠実な代行者では無いと言うのか――?
「熾天使はそんなに扱いやすい連中ではありませんよ。
彼等にとって長い神命の時間は予選に過ぎない。
謂わば本当に重要な本戦の前の準備期間といった所。
もう十分ですから。熾天使が何を目的にしているかをお教えしましょうか」
涼介は面々の顔を見合わせて言う。
「本戦に勝利した熾天使は満願を叶える権利を得る。
分かり易く言うならば、神の名の下に自身の願いを叶えて貰える……という訳です。
だから彼等は世界を蹂躙する。だから彼等は無辜なる人を殺した。
例えばアレクシス・アハスヴェールは自身が君臨する完璧で清浄な楽園を築こうと思っていたのでしょう。
例えばマリアテレサは父に謁見して、『良くやった、我が娘』と頭でも撫でて貰いたいのでしょうね。
理由は千差万別だが、神のゲイムの勝利のトロフィーは絶大だ。神なる願望機の約束は少なくとも嘘ではありませんから」
「……とんだエゴイストじゃないか」
王条 かぐら(r2n000003)は吐き捨てるようにそう言った涼介の説明を信じるのなら、熾天使は人間と大差ない。
自身の欲望を満たすが為に他人の世界を侵して壊した。
神命という大義名分を振りかざし――悪魔のトレードを行ったに過ぎないではないか。
いや、しかし。
「気持ちの悪い話だな、涼介・マクスウェル」
シュペル・M・ウィリー(r2n000005)は冷めた口調でそう言った。
「結論として神とやらの意向が究極的に世界の理を守り、存続を約束するものならば――
人類の抗いは神への叛逆か? 熾天使の遂行を邪魔する行いは世界を本質的に壊す滅びへの加担か?
それを貴様は。貴様は、散々に骨を折ったこの凡百共に伝えたいのか?」
シュペルの口調からは「凡百」とこき下ろすレイヴンズへの気遣いが見えた。
淡々と恐るべき事実を告げる――話の組み立てで結論を先に置く涼介への苛立ちが見て取れた。
「勿論、そんな話ではありませんよ。
教授の言う通り、そして私の言った通りです。神命とは即ち、予選の話。
そして、ここからが何故、六体の熾天使が地球に同時顕現したかの理由の説明になりますからね」
※市長からマシロ市に驚愕の情報がもたらされています――
※広域地理情報管理システム『アストラチカ』のメジャーバージョンがアップデートされました。
更新内容
・日本地図掲載←New
・新人類圏地図掲載←New
・世界地図掲載←New



