千波万波は咢の如く III


 黒く、うなる、わだつみに満ちるのはこの海に沈んだ数多の無念、数多の嘆き。

「ゆきは痛くない……全部受け止めてあげるから……ね?」
 禍々しい氷の爪の腕だけど。痛みも感じぬ、かじかみ冷えた身体なれど。
 神白 小雪(r2p002004)は、その荒れたちからを受け止めよう。
 だって、その為にこの氷の身体はこんなにも頑丈なのだから――
 ……ままならぬ想いが、忸怩たる感情が、嵐と共に唸りを上げる。邪悪な形シーゴーントとなったその姿を見ていると、アイシャ・ベルネット(r2p000733)は胸の奥がじくりと痛んだ。
 だからこそ。それを「しょうがない」なんて割り切りたくはないから。足掻くことを無駄だなんて思いたくはないから。
「私に、私の出来ることを」
 言葉が、思いが、少しでも届くように。
 誰かのために。皆のために。

 レイヴンズは奮闘し続ける。
 そうして……月光船ルナ・ルクス・ナウィスが戦場を抜け、横須賀へと向かっていく――ひとつ、また、ひとつ。

 きらきら。光を描く船の軌跡に、「綺麗」と桜木 結永(r2p000944)は呟いた。天使と邪精霊、二つの脅威を退けて護り抜いた船。クラーケンとの戦いの未来を照らす、希望。
 ふと思い返すのは、相対したシーゴーント達の……寂寞とした印象。大怪物を討ち、この嵐も晴れれば報われるのだろうか、なんて、平穏を願った
「はー……」
 烏羽 静(r2p004993)は撤退の為に乗ったアルゴーの船内にて、深く深く溜息を吐いた。
「せめて。お前達が信じられる大人にであえていりゃあなァ」
 呟いた声は潮騒に掻き消える
 長い長い前哨戦が終わりつつあった。しかし濡羽・蘭(r2p003229)の『今宵の舞踏』はまだまだ続きそうだ。
次が最後、か……」
 耳にリフレインする天使の叫び。

 ――嵐は止まない。

 通賢黙娘とんしぇんむーにゃんr2p003175)。
 中国の女神『天妃』であり、零落した異世界の神ミラーミス
 そして――今、人類への脅威として立ちはだかる『敵』である。
 狂信の天使曰く、「この海は雄大で、天妃は我らをお導きにならんとしているのだ」――対するロロ=ヴァントーズ(r2p003282)の答えは、容赦なき黒い刃の一閃で。
「忠臣気取りか、盲愛か。いずれにしても滑稽だ。
 誰ひとり。お前の顔も存在も、気に留めてなどいないのに」
 そう。現に『彼女かみさま』はこう言ったのだ。「夢を見る権利くらいは与えましょう」と。
 全てを確定事項のように自分勝手に話す通賢黙娘に、祠堂 一葉(r2p000216)は「それでも」を突き付ける。
「守られるのは俺の本分じゃない。この剣は誰かを守る為の剣なのだから――」
 一緒に戦うさ。真月里(r2n000190)の背中へそう呼びかけて、共に通賢黙娘が姿を消した海を見据えていよう。

 またひとつ、戦いが収束していく。

 ――トレサリスが去った海は、ただ暗澹とした波だけを渦巻かせている。硝子の靴はそこに無い。白馬の王子もそこに居ない。
 悲しいだけの怨嗟フェアリーテイル。月光船より仙道・琴里(r2p000460)は、近い内に相まみえることになるのだろう天使に思いを馳せている。
「……止めさせてもらいますよ」
 それが、どんなに悲しい結末になろうとも。

「奇遇ね、イェラキ。私も守れなかったわ、世界も、幾数億の私の民も。
 邪魔するのならば殺す、同感ね。私には、するべき事が残ってる」
 ――アルゴー甲板にて、Eila・Noir=Magna(r2p005670)はイェラキへと放った言葉を思い返す。そうして己の、喪失の過去が心に過ぎる。
「誰かを護りたい貴女を殺したいわけじゃない。
 私達が生き残る道を防ぐ貴女を殺さないと進めないのよ……」
 潮風に靡く黒い髪。海鳴りに消えていく、小さな声――。

「――諸君、よくやった」
 クラーケンの、そしてその狂信者たるファルマチュールr2p003494)との激戦から生還したグレゴール・イレ・ディエス(r2p000095)、フレデリカ・アンダーソン(r2p002829)たちレイヴンズ部隊へ、浪花アルネ(r2n000145)は通信機を介し労いの言葉を贈った。
「どうも。……司令は戻られないので?」
 グレゴールが問いかけたのは、アルネが駆逐艦ラファエル・ペラルタではなくアルゴーに乗って、部下達とと向かっているからだ。
「我らがラファエルは最終決戦に向けての弾薬の補給と、最終調整だ。
 ……真月里さんの準備が完全に整うまでにもあともう少しだけ時間が要る。
 だから、それまでの時間稼ぎクラーケンの足止めはうちらに任せな」
 アルネ達キャンプ・パールコーストにとって、レイヴンズはどんな兵器にも勝るだ。月光船防衛で消耗した彼らをそのままクラーケン本番にぶつけるのは不得手であろう。
 特にクラーケンと直接対峙したレイヴンズの損耗は激しい。傷深い者が何名もいる。このまますぐ戦うなんて、とてもじゃないが無謀すぎる。
 だから少しでも、たとえ一秒でも、万全の状態へと回復してもらう必要があった。
「――、」
 フレデリカは「お供します」という言葉を呑み込んだ。それはグレゴールも同じだった。だが――
「フリッカ。グレゴールくん。それに皆。
 うちは君達が絶対にクラーケンに勝ってくれるって信じてる。
 
 そんで休憩が終わったら――ふふ! すぐ助けに来てくれよ?」

 戦場で待ってる。アルネは君達へ、親指を立てて笑った。

 

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