『クローリス』


 カツン、カツンと音が鳴る。
 リノリウムの床を叩く靴音は連続する――地下を降る足音である。
 結果から言えば華氷 ヒメリの調査依頼は決定的な情報、新たな事実を掘り起こし切る事は出来なかった。
 十六年目の禁忌タブーに触れる試みは分厚い雲の中で惑っていただけにも思われた。
 だが、違う。
 地下施設の扉を開けた涼介を出迎えたシュペルが唇の端を歪めた。

「まあ、あれだけの騒ぎがあればね」
 意味不明なまでに高度な機器が林立した広い空間は全くシュペルの研究室じみていた。
 だがこの部屋はマシロ市で知られている領域ではない。
 科学的にも魔術的にも圧倒的な防御によって守られた場所は涼介とシュペルとラプラス以外の誰も知らない特別な場所であった。
「華氷 ヒメリは面倒な女だな」
「勘が良いのですよ、あの人は」

 ――じゃー何かい。今回のアレは龍妃の強めの牽制球ってヤツ???

「彼女も全てを理解何てしてませんよ。勿論。ただ、もっと情報を出せって意志表示じゃないですかね」
「食えない女だな。あんな風で居て人類圏に愛もある。見習ったらどうだ、マクスウェル」
「その言葉お返ししますよ、教授。貴方こそ地球人類でしょうに」
 涼介はつかつかと室内を歩き、シュペルに構わず一つの大きなガラス管の前に立った。
 緑色の液体に満たされた縦長のの中には虚ろ目の美しい女の肢体が揺蕩っていた。
 彼女の背からは天使の羽が生えている――
「情報は毒ですよ。必要以上の理解は行動や判断を曇らせる。
 これが契約である以上は、彼等には私の仕事を第一に果たして貰わねば」
「フン」と鼻で笑ったシュペルに構わず、涼介は水槽に取り付けられたプレートを目を細めて眺めて指でなぞった。

 ――被検体、クローリス



 ※シナリオ『十六年目の禁忌タブーが公開されています――








命空骸戯カタルモイ - 旧展示場要塞システム/ゲイム・ルール

旧展示場要塞内「カタルモイ」専用ツールアクセス