揺蕩うオフィーリア


 作戦は単純明快だ。花蝕障フロロパティアと呼ばれる魔力汚染の原因を探るが為にKPAが作り上げた簡易拠点より船を出す。
 相模原市は完全に水没しており、旧相模川などもかなり大型の河川に変化している。
 相模原市だけではなくその近郊も巻き込むように大規模な水害へと発展した原因がこの花蝕障であったのか、それとも地形的変動によるものなのかは定かではないが、今現状でかの魔力汚染が土壌に与える影響は無視しかねるものがある。
「これが、KPA-MS-008……通称をオフィーリアですか? 魔力汚染を低減させる神秘防御発生装置が搭載されていると聞きました」
「そう。まあ俺が持ち得る聖釘技術と組み合わせたやつだ。元々KPAで使われていたKPA-05ABカロンを改良して新造したマジック・シップ。
 つまりは対神秘防御に性能を割いてあるからこういう魔力汚染に対してぴったりの代物だぜ。
 この神秘防御発生装置も名付けて……KPA-MSW-002、フラワーガーデン!」
「素敵な名前ですね」
 大きく頷いた奥空 奏音(r2n000250)にやけに自慢げな顔をして見せた雀居 影臣(r2n000218)が「だろ? 名前も素晴らしい」と胸を張った。
 KPA-MSW-002フラワーガーデンはオフィーリア停泊地となるKPA拠点周辺に広域展開用装置として張り巡らされている。
 一定の距離までで魔力汚染による影響を食い止める施策として現在テストデータを集計中だ。
カゲオミ。鼻の下だるだるに伸ばすなよ。オフィーリアだって花咲く神秘の湖にふさわしい淑女とか言ってたけどさ。
 聞いたよ。湖に浮かんでる感じ見ればけっこーデカいよなとかナントカカントカ。そう言う事ばっかり考えてたくせに」
「藤代。夢はでっかく詰め込むべきだ。それに、お前の夢が萎んでも俺は励ましてやるからそう嘆くな」
「結構あるつってんだろ」
 噛みつく勢いで吼える藤代 柘榴(r2n000030)に影臣がくつくつと笑う。相変わらずの調子の二人に奏音はついつい笑みを零した。
 旧座間市街に設置された座間停泊所、そして空白地帯多摩南街の一区画に用意された多摩南停泊所。
 それぞれより調査を行うならば出来うる限り連携が取れた方が望ましい。KPAの多摩支部という閑職枠に収まっている影臣と、彼に因縁深いながらもある程度その人となりの把握を行っている柘榴が今回の調査ではタッグを組んでいる。
 南街側では錬金術師ロウや魔術師であるノエが尽力を行い、座間側ではK.Y.R.I.E.の能力者達の姿も幾つか見えていたか。
「まあ、藤代はともかく」
「おい」
「フラワーガーデンが保ってくれてる間にできる限りこの花蝕障のデータを集めたいところだな。
 座間と、多摩南とそれぞれの停泊所から相模原市内に向かえるように船は幾つか用意したが……。
 どうなるかも分からない。なあ、藤代。ちょっとカメラ持ってフラワーガーデンの外をぐるっと回って来てくれないか」
「……霧だらけで何も見えないけど、了解ラジャー
 オフィーリアに乗り込んだ柘榴がゆっくりと出立する。展開されるフラワーガーデンの防壁を越え、船を護る堅牢な魔力障壁の中でカメラを構えたまま柘榴はゆったりと顔を上げた。
「……見えないな」
 やはり、何も見えない。湖にはゆらゆらと花弁が舞い、それらは揺蕩うものもあれば、藻の様に絡み合うものもある。
 花の浮かんだ風景は幻想的に見えたが、行く手を遮るように揺らぐ霧はあからさまに魔力汚染の効果を持ち得ていた。
(……花蝕障の霧……か……)
 柘榴はそう呟いて――何処からか笑い声が聞こえて顔を上げた。
 くすくす、くすくす、くすくすくすくす……。
 徐々にその笑い声が近づいてくる。
 くすくす、くすくす、くすくすくすくす……。

『藤代、撤退』
「バカ。もうちょっとでデータが取れる。この通信何処まで持つ?」
『……もう限界距離だな。お前、五体満足で帰って来いよ。あと顔面護っとけよ。一応美少女で売ってんだろ?』
「やかましい。バカ、来るぞ」

 くすくす――その笑い声と共に姿を現したのは。

「花が寄生した人間……?」
 その肉体に夥しい程の花を咲かせた異形であった。花弁のドレスを纏い、首を傾げたそれらが唇を吊り上げる。
 花人フロース
 この幻想的な湖に姿を現したそれらは笑い続けた。

 ――さあさあ、魔女様の言う通り。ご機嫌よう、お客様。どうか、

「ノーサンキュー! 姿は撮影完了。一度撤退する、から、なッ!」
 柘榴はそう叫んで前方に目眩ませの為の魔力汚染低減効果を有する煙幕を投じる。
 くすくす、くすくすくす、くすくすくすくす。
 近しい場所までそれらが追いかけてきているがフラワーガーデンに阻まれたか。
 ぺた。
 掌が障壁にへばりつく。
 ぺた、ぺたぺた、ぺたぺたぺたぺたぺた。
 花に寄生された女がその身を障壁に張り付かせてから、どろりと溶けてゆく様子を停泊所に立っていた影臣は見た。
「まじ、かよ……。近い所まで来てんな。……大丈夫かー、藤代ー」
「無事。けど、調査しないと。奏音、変異体も変なの多そうだった。データ集めるから解析お願い」
「はい。承ります。……あれが、花人……もしかして、元々はこの辺りの人間だったり、したのでしょうか……?」









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