次なる道に


 ――第二戦区決戦レイドバトル進行中です。
 ――第三戦区決戦レイドバトル進行中です。

 流れてくるバトルログをじっと見つめている百鬼 奈鬼羅(r2p008412)は深く息を吐き出した。
 カタルモイのバトルはこれから急激に動き始めるだろう。決戦レイドバトルの結果がどうなるにせよ、このゲイムは荒れ狂う波濤の中に一気に飲み込まれたという事になる。
「大丈夫かな……」
 心配そうに呟く志佐島 ニイナ(r2p008403)はぎゅっと胸の前でその拳を作った。
 旧展示場要塞の守り人として過ごしているニイナをマシロ市に歓迎すると言った相棒との楽しい生活を思い浮かべたならば、K.Y.R.I.E.の敗北などあり得て欲しくはない。
 じっとモニターを眺めながらも今後についての話し合いを続けている桜叶(r2p008406)と嘉神 ハク(r2n000008)の背中を眺めるたびにニイナは不安ばかりが膨れ上がるのだ。
「大丈夫、かな」
「なるようにしかならん。第二戦区の王様ゲイムも、第三戦区の泥棒ゲイムもどちらも我々にとって分の悪い勝負ではない筈だ」
 淡々と告げる奈鬼羅さえまるで自分を励ますようであったのだから。ニイナは不安を飲み込んでから敢て笑みを作り頷くのだ。
「うん、そうだね。応援しよう!」
「……ああ。それで、桜叶。どうじゃ」
 ゆっくりと振り返った桜叶――この旧展示場要塞の管理者は「ルートセレクターが動き始めた事が確認されています」とそう言った。
「やはり、悠長に事を構えてくれやしないのか。第二戦区の決戦に決着がついたならば次エリアの進軍が開始されるという事だろう?」
「ええ、そうです。ハクさんとも話しましたがK.Y.R.I.E.が進軍先として選んだ場所の隣接地区がルートセレクト候補に挙がっています。
 ずっと目前に見える第四戦区……丸の内。それから瓦礫を伝って渡る事が出来る第五戦区、南部……。
 あとは、第二と第三から北上する事で辿り着くことができる第十一戦区の北部のあたりです」
 桜叶はマップをモニターへと転じさせてからじっとそれを見つめる。第五戦区は、桜叶にとっても馴染み深い場所だった。
 ついぞ帰らぬ約束の人を思い浮かべながらも精霊はそれを振り払うようにかぶりを振ってから息を吐いた。
「桜叶さん、これは――」
「新しい選択肢ですか? 一体……成程……。他派閥が利用をしている地下鉄のチェック、ですか。
 中央にその戦区が割り当てられている丸の内や、魔術師たちが滞在拠点に使用しているという池袋に辿り着くかもしれないというのは賭けですが――があるならばこれも、あり、でしょうか」
 ハクは少々悩ましげな顔をした。第二戦区の決戦が終了したならば、次なる進軍先を決定しなくてはならない。
 最初からエリア情報の更新が成されていく他戦区攻略を目指すか、地下鉄での探索をそちらに追加するか。
「難しいですね。決戦が行われ始めてから、参加者にも大きく動きが見え始めました。それに――」

 ザ、ザ―――――

 ハクが手にしていたK.Y.R.I.E.の端末には先ほどからノイズが混じっている。が何であるかは分からない。
 ただ、あの端末には一度プシュケーの枩山まつやま ややと八道やじ きたのを通じて連絡があった。
 もしかすれば新宿カブキチョーを拠点とするという人類派閥プシュケーからの何らかの合図なのかもしれないが。
(……ノイズが酷く、何も聞き取れない。誰かが此方にコンタクトをとろうとしているのかもしれませんが……)
 通信距離には限りがある為、今はまだ何も拾えないだろうか。それらの音を拾うというならば丸の内、もしくは南部当たりで情報をキャッチする必要性があるのだろうともハクは考えている。
「そういえばさ、ハク君、桜叶ちゃん。ティティフィティアとプシュケーって元々は一つだったって知ってた?」
 そう問うたニイナに「それはあれらが手を組む可能性を言っているのか」と奈鬼羅は返す。
「ん、ん~……そう、でもないかも。ティティフィティアもプシュケーも別々のイメージが強いから……。
 もし、人間の派閥がK.Y.R.I.E.と手を組みたいって言って来たら、ハク君や桜叶ちゃんってどう考える? 奈鬼羅ちゃんは……あんまりいい顔してないけど」
 ニイナがそう言えば奈鬼羅は肩を竦めた。阿呆天使タラリアがどの様に動くかが分からない事から彼女は安全策を選ぼうと考えているのだろう。
「わかりません。けれど……タラリアがK.Y.R.I.E.に何かを仕掛ける事はない気がしています。
 もし、組織的な分断が起きたとしたら、危ないのは此方に与しようとする人たちじゃないでしょうか?」
「僕もそう思います。……タラリアは何方かと言えば選択をした者に対して何等かの試練めいたアクションを好んでいます。
 意地が悪いだとか、悪戯が好きという訳ではなく、なんでしょうか――彼はは明確に別のアプローチをしている、ような……」
 それはただの勘だった。タラリアの真意を当人より直接語られたわけではないのだから分からない、が。
「そっかあ……じゃあ、あのザーっていう音……悪い知らせじゃないと、いいね……」
 ニイナは誰かが犠牲になる事も、誰かが悪意に晒される事も好まない。
 奈鬼羅はそっとニイナの頭を撫でてから「一先ずはルートを選ぶ情報を得よう」とそう言った。

 ――ルートセレクターが起動しています。進軍先を決定してください――





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