怒り、狂う


 そのものの名はバンダースナッチ。
 トウキョウの空を舞う怪物。丸の内に巣くう激神災害。
 朽ち折れた赤き塔に住まうその怪物は、その存在故に、多くの陣営に丸の内での行動をためらわせるのに充分であった。
 サーカス団のピエロは笑い、こう語る。

 ――怒り狂える、バンダースナッチに近づいてはいけないよ! あれは見境無しだから!

 ある種、運営に近しい存在でもあるサーカス団のそれが言うのならば、バンダースナッチとはまさになのであろう。

 ――空っぽの赤き塔に、バンダースナッチは帰還する。その脚に、無数のを抱えて。それがよく見れば、おそらくイレイサーであるとか、人間であるとか、本当に全く見境無しに狩りとられた、そういう末路なのだと、誰もが理解するだろう。
 バンダースナッチがそのを巣へと落とし、ぎぃ、と啼いてみる。落下した肉片を、巣の中にいた何かがガチガチと食らい始めた。人間程のサイズのそれは、であろうか。
 一部の爬虫類は、単為生殖を可能とする。その雛たちが、果たしてバンダースナッチほどのサイズに成長するまでに、如何ほどかかるかは不明であったが、しかし殊更急速に成長することが無かった事は、多くの陣営にとっては幸運であったに違いない。

 。それは魔境である。
 地上を行くものはバンダースナッチの強襲を受け、地下に逃げたものはアーケダマルの追撃から逃げ続けなければならない。ならばここは、まさに獣たちの王国に違いない。トウキョウの地において、最も剣呑である場所が、ここであろう。
「とはいえ。
 いつかは行かなければならない」
 そう、誰かが言う。誰もが言う。
「いつか、あの地に向き合わなければ――このゲイムは終わらない」
 誰もがそう言い、誰もが視線をそらす。
 分かっている。分かっている。
 でも、いつ向かえば良い?
 いつ立ち向かえば良い?
 目に見える恐怖に向かって突き進む。それはあまりにも勇気の必要な行為である。無謀と隣り合わせの、蛮勇にも近い勇気が必要な行為である。
 もし、あなたがこの地に向かうのならば、最大限の勇気と警戒を。
 ――ただし、それでもなお、命の保証はない。
 ここは獣たちの王国。
 人間への慈悲などは無い。
 力なきならば食われ、知恵なきならば屍をさらす。
 ――そういう場所なのだから。





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