インターミッション
「……珍しい顔が揃いましたね」
廃墟と化した東京の一角でパチパチと爆ぜる焚火に視線を落としながらそう言ったのは能天使ジーラ(r2p007391)だった。
「同じ台詞をお返ししますけど。無理をするとミハイル様に叱られるのでは?」
振り向く事さえなくそう言った彼女に涼しい美貌が応じる。サレリア(r2p006783)はジーラの事情を鑑みて身を案じるような調子でそう言ったが、皮肉に三日月を描いた彼女の口元は言葉から額面通りの意味を失わせている。一応は同じミハイル派の仲間であるからして、別に悪意がある訳ではないのだが――まぁ、その辺りの事情はミハイルの所為である。
「確かに歩哨にしちゃ多すぎる位だ。怪獣でも攻めて来るって訳ですかい」
珍しい顔と呼ばれた内の一人――エルドリッジ(r2p007754)が上役の女の戦い(?)に気楽な調子で嘴を挟んだ。
調子のいい男ではあるが、場の空気を攪拌するにはうってつけの人物である。
「まぁ、ここも命空骸戯のど真ん中だ。
座天使のゲイムのボード上なら来るのが怪獣なら可愛げもある」
「用心に越した事は無い。とは言え、そんなものはこの場の方便に過ぎないが」
緩んだ空気にトレードマークの紫煙を燻らせたウルトレス・スケロルム(r2p007751)が冗句めいて言えば、生真面目なラグイル(r2p007386)も珍しくそれに乗る。
「つまる所――どの顔も唯の夜更かしという訳だろう?」
「動機は様々かも知れないが」とは言わずにラグイルは続けた。
「そうそう! 暑すぎるんスよ、大体が!」
抗議めいたエルドリッジは舌を出し、手でパタパタと自分を扇いでいる。
世界はとうに滅びてしまったのに変わらないものもある。
何もかも元の形さえ忘れてしまったのに皮肉に昔と同じなのは蒸し暑い八月の夜の寝苦しさばかりなのは頂けない。
尤も、元々は出所をこの世界と違えるものも多い天使達の場合は以前等然程懐かしくない者も多いのかも知れなかったが――
「……それで、ミハイル君は」
「相変わらずです」
ジーラの問いは宛先を明確にしてはいなかったが、サレリアがそう応えた。
「身体が熱を持っている。
変わらず原因不明の不調で本来のあの方らしい出力がまるで出ていない状態です。
つくづくアレクシス猊下は厄介なお人でしたね」
地上を舞台にしたLost Arcadia V――つまりアレクシス・アハスヴェール(r2n000202)との決戦の最終盤で一同の主人である崩天のミハイルはアレクシスに敗れ重傷を負った。
勝敗自体は時の運、紙一重のものだったが問題なのはそれ以後もミハイルが原因不明の不調に悩まされている方である。
目下ミハイル派にとって最大の問題はこの状態が既に改善する事無く半年以上も継続しているという事実であった。
「……」
「……………」
新参のウルトレスと古参のラグイルが奇しくも同じように黙り込んだ。
楽園に属さぬ独立愚連隊の如きミハイル派は彼のカリスマと実力で成り立っているようなものだ。
イサーク・サワ(r2n000206)等は「チョット位、反省した方がいいのヨ! この男!」等と笑い飛ばしていたが、そういう気持ちには成り切れよう筈も無い。
「そう」と嘆息したジーラは思う。
(……焼けて、燃えて、朽ち果てるなんて。君には似合いませんよ)
そんなものは自分だけでいいと思う。
余命に居る彼女の望みは最後の瞬間まであの太陽のような男が強烈な光を放ち続ける事だけだ。
「……ですから。少なくとも我々には……
ええ、我々には。既に命空骸戯攻略の確固たる動機が出来てしまった。
元はミハイル様の戯れだったかも知れませんが、何せアレは座天使の保証した願望機なのですから」
「……………ミハイル君はそんな心算じゃなかったと思いますよ」
「それでも、です」
成る程。重ねて言ったサレリアの知るミハイルは部下に自分の回復を手伝わせるような男ではない。
増してや、それが自分達のような女であるなら尚更である。
(……でも、仕方ないではありませんか)
ここに居ないノヴィア(r2p006756)やノエルカ(r2p006764)が飛び回っているのもどうせ似たような理由だろう。
ミハイル派は多かれ少なかれ、病人にフルーツでも差し出そうとするかのように命空骸戯に参加している。
人類からすれば、或いは天使からしても大層な迷惑かも知れないが、実情は確かにそんな調子に違いない。
「まあ、どうあれ――目的が胡乱なよりは目標にも芯が入る。
御大将が文句を言いたいならとっとと全快して貰うとして、今はそれでいいだろう?」
「同感だ。まあ、ミハイルの悪い所は世話が焼ける所だ。そして」
ラグイルは苦笑いを浮かべていた。
「もっと悪い所は、世話の焼き甲斐がある――焼きたくなる所だからな」
「人徳……でいいんですかねェ。
あ、ジーラさんやサレリアさんやノヴィノエさんが世話焼きたい理由は聞いてないから言わなくていいッスよ」
エルドリッジがそう言うと男性陣から笑いが起きる。
「……言いますね」
「生意気にも」
「お仕置きしましょうか?」
「意見が合いましたね、珍しく」
ジーラとサレリアが微妙な顔を見合わせて、それからやはり珍しく軽く笑った。
ピザで買収出来るのは約一名。エルドリッジには三日歩哨でもして貰う事にしよう。
命空骸戯の本当の目的は天使達にも分からない。
だが、進展を続けるゲイムに彼等が熱心にならなければならない理由は確かに強い――









