うつしよのあわい Ⅳ


 ループ、とはなんなのだろう。
 それは様々な可能性を見せ、様々な可能性を潰えさせる。
 その発生が、草薙剣の苦しみによって生れることは事実であり――されど、誰かの救いになっていることも確かなのかもしれず。
 ……ただ、確かなのは、それが常なるものに反する――それだけだ。そして、それがあるからこそ、我々が打倒する理由には充分なのかもしれない。
周防 仁は逃がしましたが
 百鬼 運命(r2p005711) は、あの最後の閃光――というより、骨董品の手りゅう弾を思い出しながら、そう言った。思いのほか、いや、思った通りに、だろうか。豪快な男のようである。
「此方もループしたからと言って、思い通りには行かないものですね。
 ただ、御魂石の回収には成功しましたが」
 そう、回収した石には、確かに――何か、神秘的なものを感じ取れた。草薙剣、その神剣の力の欠片だと言うが、ただ見た目のみを語るならば、ごく普通の石片に見えるのも仕方ないのかもしれない。
「其方もなんとかなったようだね」
 そう言ったのは、祠堂 一葉(r2p000216) だ。はぁ、と小さく息を吐くのは、その身体の疲労が未だ消えては居ないからだろう。
 一葉が戦ったのは、カルセドニー(r2p006956)とスノーフレーク(r2p006955)。双子のイレイサーであった。そして、紺、と名乗った狐面の男。同じ戦場には、厭離衆であるレナ、および神霊もの、ユウリが存在しており、一葉の仲間達が交戦していたはずだった。
「状況としては、同じかな。
 色々分かったこともあるけれど、逃したものもある。
 ……ループというものは、なんなのだろうね。
 確かに、その知識を引き継いで、俺達は次の一手を打てた。
 けれど――」
 ただそれでも、完全を求めるのには、些か遠いのかもしれない。
「……」
 その言葉に、神代 くるみ(r2p000888)は答えない。いや、身体に帯びる熱に、答えるだけの余力を持てないで居た。他の戦場でも確認されたかもしれない。くるみに刻まれた呪創、それに生じた熱――いや、くるみの脳裏を駆け巡るものは、それだけではない。神を廻る狂信。或いはそれに狂わされる人……。
 匂坂も。或いはそうでないものも。自分たちが行っていることの、本当のことを理解しているのだろうか? この世界が、何に傷つき、刻んで――そして、戻るループするのか。たとえ表層上が同じでも――傷ついた人の心までは治りループはしない……。
「うーん……夢、みたいなものなのかも~……」
 そういうのは、ヒュプリル・ヒュプノス(r2p000012)だ。ヒュプリルも、厭離衆に所属する、晴貞、春賀、という夫婦との交戦が記録されている。
「ゆめ、ですか」
「うん。確かに、夢は自由に出来ることがあるけれど~……。
 でも、根っこの所は、きっと変えられないの~……。
 だから、ループって……もしかしたら、夢みたいに……知っているようで、知らないもの、なのかもしれないね~……」
「あるいは……草薙剣、その神格の見た悪夢……なのかもな」
 一葉が言った。成程。草薙剣、或いはその持つ神格が死して蘇るたびに、ループが発生するのだとしたら――だとしたら、これは夢と例えるには、ふさわしいものなのかもしれない。
「夢」
 と、くるみはつぶやいた。実際にそうであったのならば、どれほどに――されど、どこか熱を帯びるその身体は、これが夢であれば良いと言っているかのようでもある。
「ですが。
 夢だからと言って、どうしようもできない、と諦めたくはないですね」
 運命の言葉に、一葉は頷く。
「ああ。
 むしろ、それを理解しているからこそ……俺たちは、全力を尽くさないといけないんだと思う」
「……まだ、この夢は続くのかもしれないけれど~……」
 ヒュプリルはそうつぶやいて、空を見上げた。戦いの後の高い空は、未だループの中にいるような錯覚するら覚える。
「でも。いつか。
 夢から覚められるように、頑張らないとだよ~……」
 夢魔の言葉は、いっそ説得力を持っていたかもしれない。
「……そうですね。
 だからこそ、悪夢からの目覚めを」
 そう、くるみはつぶやいた。手を握る。その手に、目覚めたときに何かをつかめるのだと、そう信じて。
 いずれにしても、その日に躍った報告は、レイヴンズ達の勝利を知らせるものだったのこだけは、間違いなく、ループによって巻き戻ることのない現実に違いなかった。


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