ミッション・トレジャーバロー


 頽れた赤き塔に住まうそれは絶望そのものだった。
 ――そう呼ばれた生物は翼を広げ声を上げる。
 バンダースナッチは第四戦区:丸の内の上空を旋回し続け、その様子を見上げるように地中の穴からひょこりと顔を出したアーケダマル(r2p006335)が「ヤキトリッ!」と奇妙な声を響かせる。
「いけないよ、アーケダマル」
 穏やかで優しい声音だっただろう。甘やかな響きをも持ったその声でリノン(r2p008435)はアーケダマルを宥める。
 瓦礫の山と化した旧東京駅を中心に展開された第四区の決戦レイドバトル開始の時が近い。

 参加者の中にの姿がある。
「浮かない顔」
 そう告げた美夢・ペンスフォード(r2n000053)をちらりと見遣ってから嘉神 ハク(r2n000008)は「難しい話だと思いまして」とそう言った。
 もう、カタルモイの中で噂が立ち始めている。
 仮想死亡がコスモスの暴走レベルを引き上げる可能と、仮想死亡を繰り返すことでコスモスに選ばれやすくなるといういびつな現状。
 
 ただ、死亡時のエネルギーがコスモスの糧になっているだろうという現状に仮想死亡でコスモス側に可能性。そんな噂話ばかりが存在している。
「……複数の戦区での決戦が、終わりました。
 モイッセオの会場である第六:西部とボーナスステージとなった第十一:北部を除けば
 残るはこの第四、第五、第七……そして、第十。
 状況を鑑みるに第五は決戦ではない可能性が高く、第十に関しては僕らが参加する前に全てが終わっている可能性もある」
 何せ、あの区画には達が居るという。その状況を鑑みて見たならば、辿り着けてもラストステージに噛める程度かもしれない。
「第四と第七、そして第十一で戦功点を稼がなければならない。
 ……それに、冬青からのお願いごとに対しても皆さんに確認しなくては、なりませんね」

 ――仮想死亡を停止する署名活動みたいな? K.Y.R.I.E.にもお願いしたいんだよね。

 その言葉を思い返していたハクは「一先ずは、第四でしょう。ご武運を」と美夢へとそう告げた。
 僅かにぎこちない顔をしてから、美夢は進みかけた足を止め、引き返す。
「ハク君」
 まるで、今廊下ですれ違っただけのような、朗らかで優しい呼びかけだった。
「……はい、美夢さん」
「統一デバイスを持たせて、後ろで待たせてばっかりでごめんなさい。
 いつだって、ハク君が前線に出たいことを知っているのに、今日も待っていてねってお願いする事になってしまうのね」
「適材適所です。僕は、司令官として適性があった。……それに、戦う事は得意ではなかったから」
「ふふ、そうかも。……でも、ねえ、ハク君。時々ね、夢に見るの。
 ハク君が指示をして、私と夏帆ちゃんが前を走っていく。その後ろを困った顔をした一弥くんがやってきて……そんな、そんな夢を見たの。折角なら結斗くんも一緒にいて貰いましょうか。でも、そうするとウィリアムはハラハラして戦えないかしら?」
「あはは、そうですね。きっと、そうだ。ウィリアムさんは結斗さんの掠り傷に慌ててしまうんです。
 夏帆は大丈夫大丈夫と言いながら勝手に走って行って、正孝さんが頭を抱えながら追いかけて行ってくれる」
「じゃあ、こうしましょう? それを幸生くんやソフィーリアが支えるの! それから、K.Y.R.I.E.で出会った皆も……ね、皆も一緒に……」
 美夢さんともう一度呼びかけたハクに、女は穏やかな微笑みを浮かべてから「行ってきます」とだけそう笑って見せた。

 無数の道は崩落し、自由気ままな地底の旅はそうも容易には過ごせやしない。
 待ち受けていた地下迷宮の主たるשאול(r2p006732)はただ、静かにを待っている。
 この地を拠点としていたサーカス団は仮想死亡に陥ることがなく、殺すと宣言していた。それもすべては使を護るが為なのだろう。人間に力を与えたならばかの姫君を討たれる可能性がある、と。
(…………)
 嘉神 メイは、ハクにとって顔を見たこともない妹だった。
 2024年4月1日、あの大破局の日に生まれてくるはずだったのだ。
 幼馴染のSNSにだって楽しみだと書いてあったのを知っている。みんなでお泊り会をして、母の帰りを楽しみにしていたのだ。
 ……名前だって、平和だったあの日に決めた。
(メイ……)
 ハクはマシロ市に戻って、幼馴染の遺品を手にしてきた。
 忍海 夏帆の日記帳の中には、彼女の事が書いてあったからだ。

 ――でも、白いのが来て、看護師さんが、妹ちゃんを抱えて逃げてくれたって。
 ……よかった。ほんとに、良かったね。1日に生まれたんだって。
 お誕生日があんなので、ちょっぴり大変だけど。
 見付けたらお祝いしてあげるね、メイちゃん。

(……僕も、祝ってやろうと思っていた。きっと初めは戸惑うだろうけれど彼女に当たり前の幸せを与えてやりたかった。
 それが、あの日から生き残ってしまった僕の生きる意味で、僕の存在意義そのもので)
「……僕らは、あの日に沢山のものを取りこぼしてきてしまったのかもしれないなあ、夏帆」
 刻陽学園生徒会の一員として笑っていた夏帆はもういない。美夢だって、もはや。
 決勝戦まで、もう少し。だからこそこの戦場でも何としても戦功点を稼いでおかなくてはならない。

「やあ~! 皆元気ぃ~~~!!? 第四戦区の決戦レイドバトルの時間だよぉ!
 今回のゲイムは宝探しっ! 皆の宝物を隠しておくから、大事なものを探し当ててね。
 あ、でもでも、宝箱にはこわぁい罠も潜んでる。本当だよ? 見てて、うわあ! かぶりついて来た~~~!」

 唐突にルール説明に現れたベルベルが宝箱に頭から齧られる。
 手足をばたつかせたその様子をハクはじっと眺めていた。楽し気だ。だが、楽しいだけではないとも理解している。

「さあ、皆ッ! 戦功点をゲットするために頑張れ、頑張れ。
 退さ!
 生きるか死ぬかの瀬戸際の諸君思う存分に走り回るしかないぞ~~! それじゃあ、ゲイムスタート♪!」




※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化

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