欧州にて II


「それで、件の極東のお話――そろそろの見当はついておるのでしょうな?」
 責める調子では無くむしろ至極楽し気にそう言ったバロン ミュンヒハウゼンに水を向けられたBaroque盟主――『疾く暴く獣』ことディーテリヒ・ハインツ・ティーレマンは静かに視線を向けていた。
「本質、とは?」
「おやおや。Baroqueの試験はとうの昔にクリアしたと承知しておりましたが。盟主殿はこの老骨にをお望みですかな?」
「フフフ、Monsieurは相変わらずであるなあ」
 ミュンヒハウゼンの言葉に紳士がそう言った。
「実に、実に趣味が悪く無軌道で――しかして、道化とはかくあるべきかな。無論、この私も含めての話だが!」
 紳士の言の通り、悪趣味な風情で紡がれるは他人への親しみ、を隠さないミュンヒハウゼンの良い部分と、相対する人間全てを何処か軽侮しているかのような勘に障る物言い――つまり悪い部分の両方を強く想起させるものだった。
 とは言え……
「……前に住んでた日本のことわざで聞いた事がある」
「うん?」
。本当に全然褒められない。
 少なくとも同類アルはそのおじさんを見て反省をするべきよ」
「HAHAHAHAHA!」とが大笑する。
 ……いや、そうしたのはミュンヒハウゼンも同じだったが。
「……うるさすぎる……存在全部が……」
「……やれやれ」
 大笑いする同僚二人とダウナーなペットミセリコルデ・イヴに肩を竦めた南雲 栄士郎が溜息を吐く。
「悪戯に話を攪拌する。遠回りに持って回って……まるで周囲の理解を拒むかのようだ。
 僕に言わせれば探究の徒としちゃ軽薄過ぎるし、不誠実極まりない言動だと思うがね」
「まあ、道化ですしね」
「私は病院にブチ込まれてた口だからねェ!」
「……従って、僕はこの場の最良手として二人を無視する結論を得る訳だが」
 比較的ウマの合う奴エルネストが噂の日本に飛んでいるのも正直悔しい。
 栄士郎からすればは専門分野にも近い。研究畑三人組の中で一人だけ命空骸戯カタルモイを間近で観察しているエルネストには百の文句を垂れ流しても飽き足らないのに、老人ロートル共の言葉遊びに付き合う気になれないのなんて当然である。
「本当に分かり易い男だな、君は」
「何だって?」
 溜息交じりに混ぜっ返したChronosに栄士郎の片眉が動く。
。いや、出ていない心算かも知れないが私には良く見える。
 栄士郎。君は驚く程優秀な研究者だが、本質的には子供めいた所があるな。
 だからポーカーに負けるのだ」
「エルネストには勝ち越してる! エルネストには!」
「……」
「……………」
「盟主に審判を仰いで良いか?」
「君は日本の伝統――そうだ、武士の情けという言葉を知るべきだ」
 栄士郎は遅れて一連のやり取りの稚拙さを自覚し、やや気まずそうに咳払いをする。
「……とは言え、盟主殿。僕としても男爵の問いかけには興味がある所だ。
 預言の獣の如き貴方ならば――もうそろそろ命空骸戯カタルモイの仕組みと意図を理解している頃合なのでは」
「私は安楽椅子探偵を気取った心算はないのだが」
「だが、貴方は魔術界のだ。
 森羅万象に於いて貴方が凡そ理解していない事があるのか、僕には疑わしい」
「今のをアイリーンが聞いたら大事だな」と栄士郎は実に冷ややかな笑みを浮かべていた。蜘蛛女の乙女らしい所をからかい倒すのは悪くないが、ライヘンバッハで愛しの教授を撃ち果たした――とされる――ホームズがアレの大地雷である事は間違いない。賢明な人間は見えている危険には近寄らないものなのである。
 閑話休題。
 ディーテリヒは気怠く「ああ」とミュンヒハウゼンと南雲の疑問に頷いていた。
「見ての通り、現場にいる訳ではないのでね。
 具体的にどう魔術が編まれているかは当然分からないが……
 命空骸戯カタルモイとやらで座天使が何をしたいのかは概ね理解している。
 天使がの落とし所をどう企図しているかも――まあ、概ね理解の内で良いだろう」
「その言い方ですと」
「教えてはくれない、感じでしょうねえ」
 ミュンヒハウゼンと栄士郎がここは揃って苦笑いをした。
 ディーテリヒの言は難しく通訳アリシス抜きでは中々把握は難しい。
 但しアリシスが通訳として優れているというよりは、彼が愛弟子に甘いから――嚙み砕いてくれる分、理解が容易いと言った方が正しいかも知れないが。
「まあ、現時点で卿等が知った所で大して意味のある話では無い。しかし」
「しかし?」
 眉をぴくりと動かしたミュンヒハウゼンにディーテリヒは言った。
「近々分かるし、南雲卿は離欧した連中を羨む必要はない。
 大いなる流れは配役キャストに分を求むるだろう。
 それは座天使も主天使も使徒も残された人類K.Y.R.I.E.達も変わらない。
 つまり、これは極点を統べる熾天達のゲイムなのだから。
 弁えれば良いだけだ。卿等には卿等の仕事が必要になるだろうし、それに――」
 ディーテリヒは言いかけて言葉を止めた。
「――まぁ、良い。何れにせよ黙示録ヨハネはこの先を知っている」




※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化

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