第十戦区:フィールド・オブ・ドリームス
一方その頃、命空骸戯カタルモイ第十戦区、旧文京区――
「……何て話だよ」
レイヴンズは目の前に居並ぶ最悪の魔人達を前に驚愕の表情を浮かべる他は無かった。
『鮮血の倫敦ミスト・ルージュ』ジャック・ザ・リッパー。
エジプトの『沈まぬ太陽』パトラ・プトレマイオスXVI。
『犯罪女王』アイリーン。『ハートヒット・ガンマン』アレクシア。
『鏖殺无貌』を号する無 極聖に『史上最悪の恋占い』スオル・A・メノラトス。
更には『可憐なる魔弾の射手』カロル・フライシュッツと孤高の天才、『研究者』エルネスト・モンテシーノスの姿もある。
即ちそれは、K.Y.R.I.E.が承知している欧州人類圏Baroqueの全戦力がこの場に会しているという事実に他ならない。
(……何で揃ってんだ……こいつら……)
レイヴンズは自問せずにはいられなかった。
確かに彼等の背負った任務は強行偵察だった。
会敵の可能性は承知していたし、最悪荒事になる覚悟なぞとうの昔に済んでいる。
そも、何故K.Y.R.I.E.が危険すぎる――第十戦区に精鋭を向かわせたかと言えば。
命空骸戯がいよいよ佳境に差し掛かり、状況は混沌から徐々に収束のフェーズに入った事が挙げられよう。
それは単純に物語が閉じる方向に向かっているという意味ではない。それより手前の佳境を意識する状態になっているという事だった。
命空骸戯上位の勝ち抜けルールは同時に負け抜けルールをも提示した。
決勝に残れない者はコスモスの糧にされかねないが、負けて抜ける為のルールも存在する辺り、これを作り上げたタラリアの性質の悪さは窺えよう。勝利を掴むその気がある者も、最悪の事態を回避しようとする者も、せめて誰かを助けたい者も。それぞれの思惑でこの第四コーナーをひた走っているのだ。
そういった中でそれぞれの勢力の動き方と想定順位を把握する上で、最も少数ながら凶悪たるBaroqueの情報を集める事がゲイムに必要になったからK.Y.R.I.E.は重い腰を持ち上げて今回のリスクを取りに行ったという事情がある。
それがどうした事か。
見ての通りの状況だ。
酷い個人主義者共が一堂に会してK.Y.R.I.E.の前に立っている。
まるで蜘蛛糸が絡め取ろうとするようにアイリーンの指令が咄嗟の判断で撤退しかけたレイヴンズの退路を絶ち、「ごめんなさい」と頭を下げたカロルの狙撃が動きかけた誰かの足を縫い止めた。死中に活を見出さんとした者の渾身の一撃を極聖の身体が正面から受け止め、ナイフをくるくると回したジャックはホテルを真っ二つにする事でそれ以上レイヴンズの誰にも派手な行動を赦さなかった。
「まぁ、落ち着け。ワレは別に貴様等を取って食おうという訳ではない」
そうして作り出された俄かの静けさの後、パトラがそんな風に言葉を投げてきた。
「散々逃がす心算は無いって動きをしといて、それを言うか?」
「用があるのだから当然であろう」
鼻で笑ってパトラが言えば、アイリーンが言葉を継いだ。
「状況がちょっと変わったのよね。こんなゲイムで油を売ってる暇がなくなったの」
「……?」
「Baroqueから招集命令が出た。途中退場は趣味じゃないけど、放置したら後が面倒だから」
「僕達は負け抜けをする必要が生じたが、君達を全員始末した所でポイントは少し足りないだろう。
僕達は非常に急いでいるんでね。もっと合理的な手段を取る事にした訳だ」
エルネストは冷静なまま続けた。
「丁度ついさっき、この第十戦区にゲイムが発動した。そのゲイムはまあ――僕達を余程退場させたいんだろう。
僕達にとっておあつらえ向きな事にスペシャル・ゲイムと銘打たれている。
軽薄なクイズ番組等で見た事は無いか? 理不尽に大ポイントが得られる特別な機会を。つまり、アレだよ。アレ」
「……………」
「まあ、俺様はお前等をぶっ殺して他の奴等も狩りまくる、でもいいんだがな。逃げまくられてもめんどくせーし」
「ダーリンがそう言うならスオスオはそれでいいし!」
「……つまり、現れた貴様等はゲイムを成立させる為の相手として丁度いいという事だ。
それは単純に貴様等を始末するよりも好都合であり、己達の目的に合致する。理解したか?」
ジャック、スオルが言って、極聖がそう結ぶ。
(何が起きたかは知らないが――Baroqueはゲイムを抜ける?)
レイヴンズにとって間違いなくそれは良いニュースである。Baroqueは僅か八名でも間違いない優勝候補だ。負け抜けのポイントが足りていないとは言っているが、それは裏を返せばこれから本気を出しても余裕で勝ち抜けるという確信があるからに他なるまい。
「……ゲイムに協力して負けてやれば見逃してくれるって?」
「ええと、それ違うと思います」
カロルが申し訳なさそうに言う。
「バッカじゃないの?」
アレクシアは鼻で笑った。
「覚えてない? アンタ達一回アタシを出し抜いてる訳。
この! アレクシア・ゴールディ・キャッシュマン様が! アンタ達如きに負けて終わるなんて許される訳ないでしょ。
それで、手加減して負けてあげますーなんてそんなの通ると思うワケ?」
「……………」
仕方なかったとはいえ、随分余計な経緯があったものだ。
見るからにその気になっているアレクシアは言葉だけで収まる程物分かりのいい女には見えない。
そしてBaroque相手に命空骸戯をさせられれば――それこそ、寸分先に死が見える。
「……安心したまえ。パトラが取って食う気は無いと言っただろう?」
エルネストがそう言うと水を向けられたパトラが今一度話し出した。
「ワレはどっちでも良いのだが――貴様等、幸運だったな。今回のゲイムは比較的マシやも知れぬ」
「マシ?」
「第十戦区最後のゲイムは『棒球ゲイム』」
「……」
「……………」
「……なにそれ?」
「ワレは良く知らぬが、この国の――ほれ、そこを見ろ。
元々そこのドームとやらで行われていた――スポーツを模したゲイムらしい」
――野球じゃねえか――
「聞いたゲイム・ルールは適当にまとめておいた。兎に角、死にたくないなら本気でやる事だ。
どんな茶番だろうが、アレクシアが納得しなければ君達は死ぬ他はない。
安易な負けは未来を塞ぐぞ? 勝ちに来たまえ。大いに、全力で。ああ、そうそう――賞品も用意した」
エルネストは人の悪い笑みで言う。
「呻く鉢植えだ。インテリアには丁度いいだろう?」
※第十戦区にて『Baroque』との接触が発生したようです――!
※イラストオプションに『祇化』が実装されました。(用語説明:呪創/祇化)
同時にリミテッドクエスト『ミッション・エンドレスリーパー』が開催されており「9月17日一杯」で終了予定です!










