破滅の日 - 本牧埠頭
――4月1日、午前2時。
その瞬間から始まった悲劇は、未だ収まる様子を見せぬ。
いやそもそも『収まる』などと言う事態がこの先に待っているのだろうか?
彼方を眺めれば火災が生じている。どこぞからは悲鳴のような声も聞こえようか。
「これは……酷い……連絡はどこにもつきませんし、これはもう……」
「まぁ……まだ希望を捨てるには早い。君の知り合いだって必ずどこかで無事の筈だ。
理解の範疇を超えている事態だが、もう少し探してみよう」
渦中。街だったものとしか言えない惨状に陥っている場を巻上 澄人(r2p002205)は進んでいた。慎重に、『何か』に遭遇はせぬように歩みながら――探すのは知り合いの姿だ。よしんば知り合いでなくても、せめてマトモに『人らしき』者にでも会えればと……
その道中で出会ったのがルクス ウェブスター(r2p001258)であったか。
『何か』と交戦でもしたのだろうか、その身には傷が見て取れる。
ルクス自体は澄人と知古ではない。偶然に出会った者の一人である――が成り行きで行動を此処まで共にしていた。何をするにせよ一人で往くより二人の方がいいだろうと。そうしていれ、ば。
「……加賀くん? いや、秋末くん、かい?」
「ん? あ、あ〜〜〜そこにいるのはまきちゃんじゃん! 無事だったんねぇ~
無事でなにより……あっ、電波が生きてる内に防災掲示板は見た?
避難所が幾つかこの先にあるみたいだよ――あれそちらはお友達?」
「いや――マラソン中に知り合った仲、かな!」
彼らの目の前に現れた……
いや、物陰に潜んでいた姿を晒したのは加賀 秋末(r2p001594)。
澄人の知り合いだ。親しき間柄でこそ通じる名を呼び合って、無事を喜び合おうか。
この惨事だ。知り合いが生きているとも限らぬ……故にこそ再会の幸運は貴重。
とにもかくにも避難所に向かおうか。きっとそこには生存者が多くいる筈だと――
「……ヒッ! あ、お、おにーさんたち、生きてる?
ちゃんと、息してる『人』……? 人……だよ、ね……?」
「ん――大丈夫だよ、キミと同じさ。ここにいるよ、こっちおいで」
と、その時だ。秋末以外にも、やはり物陰に身を潜めていた者がいたか。
秋末が優し気に声を掛けた相手は――三上 悠(r2p002262)。
彼女もまたこの災害の被害を受け、逃げていた者だ。
「三上……? 三上 永久くんの、妹さんかな?」
「え、お兄の事知ってるの!? お兄に会った!?」
「まぁまぁ落ち着こう。とにかくここに留まるのはまずい――一端避難所へ急ごうか」
然らば。偶然にも澄人は、悠の兄らしき人物を脳裏に想起しようか。
その苗字と、妹がいるという情報には聞き覚えがあったから。
悠は思わず食いつくものだが……しかしルクスの言う通り、今はまだ危険がどこにあると知れない。まずは避難所に急ぐのが先決だろう、と思考するものだ。人がいる所であればきっと安全である確率は高いし――なにより其処に探し人もいるかもしれないから。
そして人々が集う場所としては、本牧埠頭にも一つの避難所が存在していた。
とある貿易会社が中心になり形成された避難所――
コンテナを駆使して『何か』に対する防衛線が敷かれている。
ここは幸いにして平穏が保たれていると言える場所であったろうか。
少なくとも『今の所は』だが。
「みんな疲れてるみたいね……そう、大人しく休むのもまた使命よ……
いつ『奴ら』が襲ってくるともしれない……だから平穏な内は、ね」
「見張りを変わりましょうか。あちこちで戦闘が起きているようですが……
まぁ。まだ暫くは大丈夫そうでしょう」
「茶葉はまだあるけど、今度これが飲める時は、またお湯が使える時になるね……
いったいいつになる事やら……大切に飲もう」
その一角で言を紡ぐは水上 有紗(r2p002725)だ。
時に目を瞑り身体を休めよう、と。人数が多ければ順繰りの警戒も可能なのだから。トラックの荷台から降りてきたAAA Prototype "エイプリル"(r2p000565)が銃器を担いで見張り塔に昇っていく――一方で星鳳 葉月(r2p000186)も紅茶を淹れて微かな休息を取ろうか。
「……うーん、ぐぅ、ぐぅ……ハッ!? 寝すぎた!!?
つかさちゃん!? つかさちゃん――大丈夫!!?」
「あたしは……大丈夫だよ。ありがとうね、沙良ちゃん」
故に夕凪 沙良(r2p000739)は一時仮眠をと……思っていたのだが、うっかり時を過ごし過ぎたようだ。本能的に気付いて飛び跳ね起きれば、隣には甲斐 つかさ(r2p001265)の姿があった。
起き上がるなり心配するなんて――などと思えばこそ。
そんな沙良を安心させる為に、抱擁しようか。
互いの熱が伝わり往く。生きているという安心が――心地よい。
だが。不安という暗闇の影は、心の片隅からそう簡単に晴れる事はない。故にこそ……
「リーダーは無理しちゃダメ。そうだね――だから……亜希ちゃん、無理しないでね」
「つかささん……」
「つーちゃん……熱は大丈夫? つーちゃんこそ無理を……」
「うん――大丈夫だよ。ね? 花見ちゃん」
つかさは二星 亜希(r2p000001)に声を紡ごうか。
亜希はこの中で戦える側の人物だ。故にこそ気負っている所もあるだろう、と。
……しかしそんな気遣いをするつかさにこそ、亜希は想う所があるものだ。
どこか気弱に……なってしまっているのではないかと。
彼女の言葉をあえて遮ったりはしないが。
同時に古多恵 花見(r2p000256)はつかさの体調を心配して、その額に手を添えるものだ。彼女の熱は酷くなっていないだろうかと――然らばつかさは、花見と視線をまっすぐに合わせ『大丈夫だよ』と告げるものだ。
その指先に熱を感じたのだとしても『大丈夫』だと年押すように。
「あっ。そういえばアヤメちゃん、車ある? 車」
「車、車かぁ……何処まで行きたい?」
「何かするんでしょ。手伝うよ。
他の事なんかどうでもいいけど、つかさが動くのならボクが動く理由になる」
「うん――あ、でもその前にシャワーを浴びちゃお! 身体は整えておかないと、ね!」
そしてつかさは橋場・アヤメ(r2p001010)へと声を掛けようか。友達が弟を探しているらしいから探しに行きたいのだ――と。であれば外に出ていたイグナイト・ネメシス(r2p000058)が丁度戻ってきており、つかさの様子をその瞳に捉える。
――何か無理をしていそうだ、と。
誤魔化すようにつかさは笑顔の儘に在るが……
しかし。何はともあれ時は少しずつ、少しずつ過ぎていく。
希望があろうと。絶望があろうと。
万人に等しく。
「ん……あ、さ……? そっか、わたしたち、ここに避難を……」
伊部谷 純(r2p002651)は目を覚ます。
今日はエイプリルフールという日――そうの筈だった。
『嘘をついてもいい日』
あぁ今からでもいいから、誰か。
これは全部嘘だった、なんて言ってくれないか。
――4月2日が始まる。
目覚めた時。己の眼前に広がる光景は――嘘では無かった。
※4月2日が始まろうとしています……
※――『何か』が襲来しました! 全国各地でパニックが急増しています!