貴方が知る、すべてが壊れてしまった4月3日
――はいこんにちは、電子の妖精、桜衣瑠依(r2p000754)なのだわ。
――これを目にしたあなた、まずは落ち着いて…吸って、吐いて……そう、大丈夫。
――あなたの大切な人への伝言、あなたが見つけた情報、それ以外。
――好きなように書き込んで、情報交換に使って欲しいのだわ。
――でも気を付けて、ここに記載された情報はあくまで私達の情報交換。
――公共機関からの情報を最優先する事を心掛けて利用して欲しいのだわ。
インターネット上に存在する、とある災害掲示板。
4月の1日に開設されたこの個人掲示板には、無数の書き込みが並んでいた。
『羽取・A・リコリス(r2p000389)』
――俺は無事だ。
――とはいえ今の自分にはやることがある。
――魅月やその家族には既に避難するよう言ってあるが、もし彼女達を見かけたら逃げる道中を護衛してほしい。
『斧束 渡私(r2p002433)』
――斧束渡私と斧束自は無事。準備ができたし今から家を離れる。このままだと家が壊れる可能性が高い。注意して避難所に向かう。
『斉賀 京雅(r2p000579)』
――斉賀京雅、京寿は無事。これから2人で避難所へ向かう。
――でも、父親の雅寿が帰ってこないし連絡が取れない。誰か見掛けたら助けて
初日の混乱はすぐにログとして流れていき、人々が家族を探す書き込みや助けを求める書き込みで埋まっていく。
――オンラインの情報より、災害発生以降の世界的な被害状況が挙がってきていますのだわ。
――高い軍事力を持つアメリカ中国等の列強以上に、災害に対する初動としては日本国内が最も効果的な対応に成功しているとの見方が強くなっています。
――日本国内でこれを見ている皆は、油断はできませんが国家組織の指示に安心して従って下さいなのだわ。
――またこの情報が世界に出回りつつあることにより、世界各国から日本の対応状況に関する情報に注目が高まっています。もしかしたら、ここにも海外の方の書き込みが来るかもしれないだわね。
『倉本 源司(r2p002870)』
俺達は化け物どもの縄張り争いに巻き込まれたんだ! 俺は見たんだ! 羽の生えた化け物以外にも化け物どもは沢山いるぞ! みんな気をつけろ!
『鹿島 由鯉子(r2p000074)』
――○○県立△△中学校は避難所として開放されています。
――警察と消防の協力により下記の地図の範囲の地区までの安全を確保しています。
――該当区画で避難予定の方は直ちに避難を開始してください。
『神門 伊佐也(r2p000681)』
――糞親父と妹へ
――取り合えず俺はなんとか生きてる。
――俺はこれから一番近い刻陽大学の避難所へ向かうつもりだ。
――落ち着いたら連絡をくれ。死ぬなよ。
――神門伊佐也より。
『ミスト・クラウン(r2p000922)』
――市の〇〇体育館には今は行かないことをお勧めします
――話だと避難した人の一人が化け物に変化したとかなんとかで
――その化け物は「なんとか」なったんですが……
――今は皆疑心暗鬼な状態です
――ですので来ないことをお勧めします
やがて掲示板は混乱と狂気に彩られていく。
まるで何かがひたひたと足音をたてて近づいてくるように、書き込む人々の恐怖と不安は高まっていった。
――正体不明の敵性存在の出現より、もうすぐ1日が経とうとしていますのだわ。
――現在を以て未だにその正体は不明でありますが、この存在にはほとんどの場合知能は低いあるいは無いと考えられていますのだわ。会話を試みたが失敗したという報告が相次ぎ、コミュニケーションに成功した例は現在確認されておりませんのだわ。
――しかしながらごく少数知的な個体が発見されたという噂があり、順次事実の確認が急がれておりますのだわ。
『鹿島 由鯉子(r2p000074)』
――○○県立△△中学校は敵性生物の攻撃により破壊・占拠されました。
――××市の方は絶対に△△中学校に避難を行わないでください。
『綾瀬 久遠(r2p000480)』
――世界のどこかを旅している親友へ
――大変なことになってしまったけれど私はなんとか無事でいます
――家族や友人たちと一緒に避難所までたどり着けたわ
――このまま落ち着くまでじっとしているつもりだけど…
――いざってときは大事な人たちを守ってみせるわ
――そのために体を鍛えてたのだから、ね
――あなたも無事でいたら、また会いましょう
『月暈 華羅(r2p000857)』
――櫻月華羅より槐姉の恋人様へ
――もし生きていましたら、見ていましたら。
――姉様を探すのはやめてください。
――生きてください。
――生きて、もしあえたら、渡したいものがあります。
書き込みの数は徐々に減っていき、まるで遺言のような書き込みへと入れ替わっていった。
地獄のような二度目の朝が明け、4月3日が始まろうとしている。
スマートフォンから目を離し見上げる朝焼けは、どこか血の色をしていた。
※4月3日が始まりました。
……すべてが壊されていっています。
※――『何か』が襲来しました! 全国各地でパニックが急増しています!