反攻としての第一歩
氷取沢橋頭堡設立予定地区――ではなく氷取沢橋頭堡の前には幾人もの能力者の姿があった。
急ピッチで大岡川を利用して物資が搬入されたのだ。仮設ではあるが前線基地としては申し分のない出来となっただろう。
「てぇっ! これで氷取沢橋頭堡の仮設が完了……?」
ぱちくりと瞬く羽取・魅月(r2p000072)は何故かゾウに跨がっていた。保護された象が鼻を動かしながらうごうご💙かわょかに号――ではなくKPA-05ASV・ポルトゥヌスを突いている。
その様子を不思議そうに眺めて居るのが白銀 楓(r2p000102)。「必ず無事に」という約束を耳にして戦場へ向うことを託してくれたその人達の為にと作戦遂行に尽力してきたのだ。嘗て、K.Y.R.I.E.第十八部隊志島班を殺害したとされる大天使級の撃退を行えたことは良き報告となった事だろう。
「遺品や遺体回収が出来たのもきっとここまで来ることがなければ叶わなかった事ですね」
「しかし、この遠征には痛みは付き物よの。愛し子達が傷付く様は見ておれん……。戦況を見極めるだけの事が出来たのは幸いか」
鴨脚 華護萌(r2p000461)はどこか重苦しく息を吐いた。
大天使アスティリアとダスティリア。その二体の内の一方に深手を負わすことが出来たのは成果であろう。
「セルマ 帰還 なの。ここ 新拠点? ここから また 敵 追いかける?」
アンセルマ・イアハート(r2p000022)はと言えば燃え滾る殺意を胸にやってきた。そのお陰か刻陽学園の学生である向日治 サエを救出し、その上で大天使三体の撃破攻略を完遂したのだ。
「ふう」
汗を拭ったアンセルマ。その傍らではかわょかにに運搬されるように凭れ掛かっている田沼 縁(r2p000424)の姿があったか。
「はあああ~~~~疲れましたね! でも、無事にレックス・タイプのアザーバイド二体撃破です」
ピースサインを掲げる縁。その隣では「ほら、直ぐに寝られる準備をしといたし」とかわょ💙の化身ことKPA技術主任七井 あむ(r2n000094)がひらひらと手を振っている。
「てか、これすぐ組み立てた感じ? やば~」
魅月がぱちくりと瞬けば興味深そうに楓とアンセルマも見上げる。物資輸送を同時並行していたことで迅速に拠点設営を終えることが出来たのだろう。
「えっ!? これ!! 安全なんですかぁっ!?」
ぶわっと涙を溢れさせたのは水原 ちまき(r2p000388)。「こ、怖かったですぅ~~~」と何度も繰返しながら野生のオカピを抱き締めている。
「ひっく……あ、知ってます……? 10月18日は世界オカピの日らしいですから……」
「そ、そうなんですか……?」
不思議そうに森の貴婦人とも呼ばれる世界三大珍獣の一角を見詰めたセレーネ・ローザ・フォレスティ(r2p000402)。
「そのオカピは保護を……?」
「あ、いえ、勝手に来ました。金沢区が凍り付いてたので」
セレーネは凍り付いたという言葉に肩を揺らした。セレーネが対峙したのは氷の天使と呼ばれたスティーリアである。
つまりは氷取沢橋頭堡設立作戦に於ける最大の脅威とも呼べる存在だった。
元K.Y.R.I.E.の能力者であるとされる天使、栞田 花束は精神状況が芳しくはなかったがその状態であるが故に直接対決とはなり得なかった。
だが、スティーリアは明確な敵だ。しかも位階は不明であったのだ。あむは「で、スティーリアはどだった?」と問う。
「……能天使級です」
セレーネの唇が震える。あむはぴくりと指先を動かしてからじらりと後方のモニターを見た。K.Y.R.I.E.司令部に直接的に現状のやりとりの転送を始めるようにヴァルキリーへと指示をしたのだろう。
「スティーリア本人がそう名乗りました。
……それに、能天使級のスティーリアは明らかに誰かの指示を受けています。
あの……中位天使個体はマシロ市としてほぼ観測されていなかったと聞いています」
「うん。近郊ではね」
あむはそう言った。その言葉に僅かな含みがあったのは――ああ、過去の事件を殊更に口にする意味がないからだ。
「それが、私達の目の前に……」
「だいじょぶ。橋頭堡に支援システム引っ張る。磯子方面での活動作戦が終わればあっちからも物資が届くし、その結果で何とかなるし?
まあ、ぼくてんさいだから。横須賀方面へのバックアップはここから出来る。……ぼくらのオペレーション、トぶぜぇ~。
うそ。初の神聖領域は手間取ったしょ。でもお陰でデータとれたし」
データを取得出来たという事は神聖領域に対してどの様なアプローチを行なって行くべきかの対策の検討材料が増えたという事だ。
マシロ市としてはまだ反攻を始めたばかり。あむに言わせればまだピースを嵌めきっていないパズルを目隠し状態で捜し続けている状態だ。
「でも、マジで皆おつ。明日には磯子方面の物資も届く見込みだし、ついでに湘南台とか大和市方面への近郊警戒報告も行なわれるし。やること山積――」
そこまで言ってからモニターを振り返って「だろね」とあむは呟いた。本作戦の報告書の一部を確認した涼介・マクスウェルがK.Y.R.I.E.室長である王条 かぐらを呼び出したのだそうだ。
予測の範囲内だ。何せ相手は能天使。しかも更にその上が居る事は明らかだ。
「さーて」
あむは一つ伸びをした。それから、得たばかりの安息を謳歌するように歩き出す。
「明日物資と報告書が届いたらパーティーしよ。んで、今はとりま、仮設で寝よ。微妙に新築のにおいする」
あっけらかんと笑って。今は勝利の余韻を味わうように弾む足取りでベッドへと向うのだ。