
活路と進路
雷の領域を越えた。その領域を保持していた天使の死亡が確認されたからだ。
これはK.Y.R.I.E.にとっては良き知らせである。
――そもそも、雷の領域への進軍理由とは『塩化地帯』を通らずに東京都心方面への進軍を行なうが為だ。
桜木町より川崎方面に広がる塩化地帯は人体に有害であり、それは変異体や建築物も例外ではない。
ある一定の深度に進むことで人体の崩壊や塩化が見られるという報告があったのだ。
故に、雷の領域を攻略した。
故に――
「で。聖釘の連中はどこにいったワケ?」
テーブルを叩く藤代 柘榴(r2n000030)は苛立ちを隠せずに居た。
「……あれ? ガーネットちゃん?」
ぱちくりと大きな眸を瞬かせた九美上 こひな(r2n000071)はテレビジョンに映し出されている姿とは大きく乖離したガーネット自身へと驚きを隠せずに居た。
彼女とは人類の希望であり、トップアイドルだ。何時だって、希望を歌い、苦しみなど無いような顔をする義務があった。
「……どーかした?」
「普段とちょっぴり違うなあって。オフモード?」
「うん。雷の領域でケガしたから。……だから、仕事は後輩に任せて、アタシは調査状況の確認に来たの」
そういうトップアイドルの瞳は、今は大勢の誰かではなく、消えてしまった誰かを見ているようだった
「あ、そう、調査! あのね、雷の領域の向こう側……町田方面の事前調査をしたの」
こひなの言葉に応えるようにAIホログラムが浮かび上がる。VALKYRIE(r2n000098)は「はいですの!」と快活にその言葉を返した。
「町田方面偵察ですの!
きりとオラクルちゃまにインプットされた事前調査ですと……うむむむむ――座間市方面は水没地帯がありそうですの」
「うん、それで、ちょっとだけ見に行ったんだけど……何だか、魔法がもわもわ~って感じで」
「はいですの。その一定地域に変異が起こっているのは確かなようですの!
町田方面から多摩川に向かう最中にもマシロ市の補給拠点の設立を行ないつつ各方面調査を行なう事にK.Y.R.I.E.は決定しましたの」
VALKYRIEの言葉に柘榴が唇を噛んだ。「聖釘は」と問うたその声音は低い――が「まだだよ」と答えたのは七井 あむ(r2n000094)その人だったか。
「巧妙に逃げてる。ま、直ぐに探し出すけど、ちょっと時間ちょーだい、めんご。
んで、今回のちょい早的な話は、塩の領域にフレッシュ落ちてきてるのも観測されてる。
何か、フレッシュがわざわざ入っていってるとか。そのまま塩になって死ぬ訳だけど」
「み、見過ごせないよ!?」
慌てるこひなにあむは「ま、そゆ訳で町田方面の進軍するって感じでよろ」と手を振った。
「――分かった。すればいいんだね」
「そ。んで――」
ブゥン――と音が立ちモニターにO.R.A.C.L.E.(r2n000101)とAstratica(r2n000141)の姿が表示された。
「マッピング進行中です」
静かに告げるAstraticaにO.R.A.C.L.E.が「承知しました」と返した。
「大和市側の整地、及び町田の調査に向かう能力者の皆さんにK.Y.R.I.E.よりもう一つ提案があります。
横須賀キャンパス開校に伴う公共事業としてマシロ電鉄は横須賀線整備の計画を行なう事なりました」
「当システムは周辺領域の整備完了をキャンプ・パールコースト調査で確認済みです」
「沿線に人類生存圏としての住居拡大を行ないます。
また、その為に能力者の皆さんには磯子地区第一次整備計画に基づく計画立案をお願い致します」
O.R.A.C.L.E.の言葉にあむが「ああ、まーつまりね」と付け加えた。
「皆、なんか欲しいモノある? ま、磯子にイソゴーランドはつくるし、氷取沢に温泉は用意するけど。
個人的なんでもいーよ。適当に欲しい施設やらなんやらあればK.Y.R.I.E.に提案よろってかんじらしい。
マシロ電鉄はKPAとD.I社とかもろもろでなんとか計画進めてるからちょっと待ってて」
「はいですの! 皆ちゃまには先んじてお店やお家など、街に必要なものをご提案くださいですの!
きり、あれがほしいですの。えっと、どうぶつえん? どうぶつがいっぱいですの! 光ファイバーを食べるロバ!」
可愛らしく笑ったVALKYRIEは「皆ちゃま、大忙しですの!」と明るく告げた、計画立案用のK.Y.R.I.E.会議室へのマップを能力者各自に表示・案内をしたのであった。
