希望の灯は消えず


 無数のルーン兵が戦場を埋め尽くす。
 ただ無感情に、無機質に人間を殺すためだけの魔術人形の軍団。
 K.Y.R.I.E.能力者部隊を含めた大部隊を、その増殖し続ける圧倒的な数を持って押し潰さんとするソレは、今この瞬間も怪我人を出し続けている。
 このまま何の手も打てなければ、いずれルーン兵はこの戦場からも溢れ、いずれマシロ市までも溢れ出すだろう。
 ……だが、そうはなっていない。
 前線で戦う者たちと、前線を支える者たち。互いを支え合うそのサイクルが上手く回っているからだ。
「お待たせ! 重傷の人、運んできたよー!」
「分かったよぉ~! 任せてねぇ、ティニーちゃん」
 『空舞う』ティニー(r2p001615)の雷ドラくんライドラグーンが空から舞い降り、血塗れの能力者を下ろす。
 一目で重傷と分かる状態だ……腕が折れ、頭からも止まらない血が流れている。
「大丈夫だよぉ、間倉が治すからねぇ」
「すまん、こっちもだ!」
 そこにやってきたのは『ガンウルフ』野分 銀四郎(r2p000278)と、やはり怪我をした能力者部隊の面々。
 どうやら銀四郎が統率していた部隊とは別のようだが、この状況では銀四郎がフォローするしかなかったのだろう。
「うわあ、凄い怪我だな……間倉、こっちは我がやるぞ!」
「うん~、よろしくねぇ、メロちゃん」
 パタパタと走ってきた『謎の力の正体』メロディアス・ハイギャラクシア(r2n000110)にそう返しながら『魔城抱枕』間倉(r2p005885)とメロディアスは怪我人を癒していく。
 この戦いが始まってから、こうして後方輸送される能力者たちは増え続けている。
 治って出撃して、また搬送される。
 
 まるで永遠と続く地獄のようなこの状況はしかし、その起点となるであろう場所は分かっている。
 それをどうにかするまでの間、何処まで耐えられるかという話だが……。
「う、うう……ありが、とう」
「いいんだよぉ」
「そうだぞ、こういうのはあれだ。お互い様ってやつだぞ!」
 ふらふらと立ち上がる能力者たちは、すぐに復帰できるわけではなさそうだが銀四郎が「無理はするな」と声をかけていく。
 無理をする場面ではある。しかし、無意味な無理など意味はない。
 必ず生きて、そして勝って帰る。銀四郎はそう決めているのだから。
「銀四郎。そっちの状況はどうだ?」
「まあ……少々厳しいな」
 銀四郎の答えは、メロディアスを喜ばせるものではなかっただろう。しかし、これ以上なく正確で正直だ。
 当然だ。無限のように湧いてくる敵を前に「絶対的優勢」など……それこそ戦場を焼き尽くすほどの圧倒的な火力でもなければ有り得ないだろう。
「そうか。
 けれど、メロディアスは希望を見据えた目でそう返す。
 銀四郎は少々厳しい、と言った。
 それは勝てないという意味ではない。楽ではないが、敗北を考えなければいけないほどではない、という意味だ。
「そうだね! みんな、みーんな頑張ってるよ! 数が多いだけの人たちに、ボクらは負けはしないんだから!」
「ティニーちゃんの言う通りだよ~。間倉たちなら、絶対できるはずだもの~」
 ティニーと間倉の言葉も、決して楽観的なばかりのものではない。
 この前線基地に詰めている回復担当として、前線を飛び回る搬送担当として。しっかりと戦況を理解しているつもりだ。
 だからこそ、ティニーも間倉も……希望を諦めてなどいない。
 その強い意志は、銀四郎にもこれ以上ない程に伝わっていた。
「ああ、その通りだな。俺たちは勝つ。この戦場からルーン兵どもは出さんし、司令部まで敵が行くこともない」
「頼むぞ、銀四郎! お前たちが勝利の鍵だ!」
 鉄の意志を持って自分の胸を叩く銀四郎に、メロディアスも銀四郎を拳で軽く叩き希望を託す。
 ……たとえ敵が真実無限であろうと。戦っても戦っても減ることのない永遠であろうとも。
 その全てを跳ね返す。
 横須賀を取り戻したあの日のように、此処にも希望の灯を灯すのだ。
 胸に秘めたこの強い意志こそが、敵の無限を貫く矛なのだと。そう知っているのだから。


シーズンテーマノベル『鶫は鳴いていたか』

クリスマスピンナップ2053

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