STAGE III
――動き方を見るに。猊下を殺せばアンタが熾天使になれるとか、そんなルールとかあるんじゃねえの?
「……そんな事だろうと思ったけど。まあ、やっぱりそうなんだろうね。どう見てもこれは」
バルトロの言葉を聞いたかぐらは苦笑いを深くせずにはいられなかった。
ミハイルがアレクシスに対して反逆を企てる意味は唯の愉快犯か、はたまたそれ位しか想像はつかなかった。その可能性は常に現実的な話として付き纏ってはいたが、重要人物が口にし、ミハイルが薄笑いを浮かべているだけの現状を見てしまえば、ほぼ決まりで間違いないように思われた。
「まぁ、今の旦那と猊下でどちらが勝るのか――いや。猊下の方が間違いなく強いだろうが、流れの結果は分からねぇ。
何せ人類の皆々様は今必死で猊下を攻めている筈だからな。出力の低い猊下じゃあ、それを全て無駄と切り捨てる程の事は出来ないだろうよ。
旦那はその隙を突く。ウォーミングアップに人類を相手取ったのは人類に勝たれても困るから……だろうなあ?」
「もっと脳みそまで筋肉だと思ってたんだけどな。案外お前、賢いじゃん?」
ミハイルの言葉にバルトロは「そりゃあどうも」とおどけた一礼を見せた。
「だが、どうしてこんなお喋りをしてんだ?」
「うん?」
「そんな話するからには俺のこの後も分かってるんだろ?」
ミハイルの問いにバルトロは「勿論」と頷いた。
「旦那はここから逃げを打つ。まあ、逃げるって言うと語弊があるかもな。
転進する。本命の猊下の所へ――人類はまあ傷んだし、何より俺が此処に居る。
猊下の護衛の大駒は一つ減る以上、人類は俺も俺の軍勢も自由にはしない。そんな事したら猊下に大増援がいっちまうからなあ?」
ミハイルは思惑あれどアレクシスの敵。
そしてバルトロはアレクシスの忠実なる味方である。その差は大きい。
「それで?」
「このお喋りは実は俺なりに人類に敬意を払ってのものでね。
なあ、頭のいいねえちゃん。この場合、アンタ達がどうしたらいいかは――分かるよな」
「買われたものだね」
バルトロはミハイルではなくかぐらに水を向けた。
その声色には信頼がある。
この短い戦いで培った――相手の能力値への信頼がある。
「期待に応えられているか分からないが――私達は君を自由にはしないさ。
同時に、ミハイルにも安心して貰っても困る。
そんなのは大いに間違いだ」
かぐらは汗で張り付いた髪を指先で払い、疲労困憊のレイヴンズに最後の命令を強く下した。
「主力はバルトロと天使軍を集中攻撃。ここで禍根を絶つ。
それから、逃げを打つミハイルを別動隊で追撃!
倒さなくていいよ。ミッションはミハイルに手傷を負わせ消耗させる事だ!」
「これでどう?」と冗句めいたかぐらにバルトロは笑った。
――そう、百点。
※主天使ミハイル迎撃戦『掌天のミハイル』の戦況が変化しました!

