『悪意』の繭


「さて、如何するのかね」
 淡々と問い掛けた棟耶 匠(r2n000068)は唇の端より毀れ落ちたを打ち消すように掌を頬へとやった。
 そのまま指先がなぞらえたならば、彼の姿は平時の徒人ただびとの元へと戻る。
「マシロ側には連携済み。御殿場拠点にも遣いが走っています。
 アーカディアVとの戦闘に水を差すような事は控えて頂きたい――が、そうも行かないだろう」
 ぼやいた春名 朔(r2n000031)は懐に忍ばせていた符を数枚宙へと投げた。
 白い靄と化したそれが鳥の形へと変貌しの上空へと一気に浮上する。
「人と天使の共存、だったかね。今現状という枕詞をつけてはおくが……そうそう上手く行くものか。
 私とて告解を経た生徒達の命をそのような理由で奪わねばならない現状を受け容れているわけではないとも。
 だがね、彼らと我々の間には途方もない線引きが存在して居るとも。在り方か、もしくは目的か……あれらの全容はコレだけの年月が経っても分からぬ儘なのだか、容易にあの言葉に首を縦には振れまいよ」
「夢物語ですけれど、例えばが居たら、彼らの目的も果たせたんでしょうか」
「と、言うと?」
「いえ……小田原の人間に感化されただけでしょう。
 忘れて下さい。半端な天使使い走りでなければ、或いはなんて思ってしまっただけです。
 こんな、。現場で引き摺られるようではまだまだですね」
「いや、人間らしいとも」と匠が穏やかに告げれば朔は鼻先で小さく笑った。
 依然として続く激戦に、箱根山や小田原周辺でのを繰返していた終末論者達は更なる策を講じていた。
 それこそが小田原の守護を行うがために終末論者――いや、終鐘教会と呼ばれた派閥――が用意した小田原天守閣に張り付き脈動を繰返すだ。
 匠の目で見てみればあれは「化物の蛹」である。悪意の繭、と呼ぶしかないな代物は刻一刻と大きく放っていた、が。
「あれは悪辣な獣を産まんとする繭だ。
 ですが、小田原の人間はそれに否定的見解は示していません。
 小田原を護る利となるならば――ということでしょう。独立した小田原という人間と天使のと謳うそれを作る為には必須の代物と認識したのでしょう」
「どう見ても悪意の塊だが」
「どのようなものであっても、です。学園長……見えますか、繭から何かが毀れ落ちている」
「ふむ。ああ、あれは……本体から毀れ落ちた仔かね?
 ふむ……あの仔らを使って親のための栄養を集めるのかね。だが、アレは何を食う?」
「十中八九、ああいうのは人間の悪意だ敵意に……人も食うでしょう。
 終鐘の考えそうなものです。奪えるだけを奪い尽くしておけば良い。
 自分の利となれば非道な行為であれど――……本当に、胸糞悪い連中だ」
 吐き捨てた朔を一瞥してから匠は肩を竦めた。彼の推測が本当であると言うならば、あのらは小田原外に一気に溢れ出すだろう。
 天使を崇拝し、何よりも天使ヴァルトルーデと協力関係にあったことを考えれば御殿場方面に「援助にやって来た」という理由を添えて進軍してくる可能性が高い。
「アーカディアVは喩え協力関係であると名乗る終末論者であろうとも路傍の石として扱うだろう、が」
「来ますよ。あれらはそういうものです。熾天使による神罰の雷に撃たれたとしても、それは神による褒美と誉れとして扱う。
 その様に、
 此度だって胡座をかいて高みの見物をして居れば良いものを、しなかった。
 じわじわと繭を育てるわけではなく、強硬手段に出たのだってアーカディアVに何らかの恩を売りたかったからか、使其方へのアピールに使用したかったかのいずれかでしょう」
 背を刺されぬように状況の好転を狙わねばならない。幸いにして御殿場の拠点は戦闘が終了している。直ぐにでも迎撃準備を行えるはずだ。
「町田側に姿を見せたの動きも気に掛かりますが、奴らは其方の調査に赴く時間を俺には与えてくれないようです。
 あの達が何であるかなど机上で語らうのは止めて、さっさと殴りに行きましょうか。
 見て居るだけというのは中々にフラストレーションが溜まる」
 朔は宙を踊っていた符の鳥を呼び戻してから子供の様な笑みを浮かべて見せた。
「では、邪魔をする愚か者に会いに行く準備をしましょう。ああいう手合いは思いっきりぶん殴ってやるべきだ」


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